240611

【2024年6月11日】



「ねえ、少し良いかしら?」


 授業と授業の間の休憩時間にスマートフォンで何かをしていた楯に声をかけると、やけに慌てた様子でスマートフォンを机の中にしまい込んだ。


「おう、千花。どうした?」


「……」


「千花? おーい、千花さん?」


 楯が誰とどのようなやり取りをしていたとしても私には関係の無いことなので気にするようなことなど無いはずなのだけれど、なあんとなく隠されたという事実が私の中の何かに引っかかってしまい、私は楯の机の中に手を伸ばした。


「ちょ、千花さん!?」


「……説明」


「はい、もちろんさせていただきます」


 楯のスマートフォンにはあからさまに安そうなメイド服のコスプレ衣装が映っていた。


「あの、なんと言いますか……隆斗りゅーとたちと凛のクラスでやるメイド喫茶のレベルが高いという話になりまして、話しているうちに話が次々飛躍して、藍や千花にメイド服を着て欲しいという話になり、俺もつい盛り上がってしまって……用意さえすれば着てくれるかなあと検索していたら今に至る訳でして……」


「楯はこんな安っぽいコスプレをしている彼女を見せびらかしたいのね?」


「えっ、いや……」


「私ならコスプレだとしてもメイドとして通用するような完成度を求めるけれど」


「そ、そうですね。はい。仰せの通りご用意させて頂きます」


「そうしなさい」


 満足してそう告げた私は藍のメイド服姿を想像して満足気になったが、話の流れ的に楯がメイド服を着せようとしていた相手が藍だけでなく私も含まれている事にこの時はまだ気が付いていなかった。

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