さん△カンケイ
姫川真
1年目
230401
【2023年4月1日】
「見て見て~」
幼馴染であり俺にとって大切な彼女である
「買って来たの? それ……」
言葉にはしないものの無駄なお金の使い方をしているとでも言いたげな表情でもう一人の幼馴染で、もう一人の彼女である
「ね~ 二人とも『藍ったらまた無駄遣いしているよ』って思っているでしょ?」
「別にそんなことは……」
「思っていないこともないとは言えないけれど」
「……ち、ちーちゃんそれってどっちの意味?」
「思っていたって意味」
千花がそう告げると藍は口をすぼめて俺たちを上目遣いで睨みつけてきた。
その行動は俺と千花にとってはとても厄介な事態が起こる合図だった。
「……?」
普段なら藍がこのような行動を起こすと決まってそのつぶらな瞳から大粒の涙を流し始めるのだが、今回は瞳に涙が溜まるだけで涙が頬を伝って流れ出すまでには至らなかった。
「聞いて、くれる?」
「あ、あぁ。聞くよ。是非とも聞かせて欲しい。千花も聞きたいよな?」
「是非とも聞かせて。どうしてそんなにも大量のノートを持ってきたのか」
泣き虫な藍が泣かないという想定外の事態に驚いている俺たちをよそに、藍は泣き出してしまいそうだった顔をぱぁっと笑顔に変えて大量のノートを購入してきた経緯を語り始めた。
「朝ごはんを食べていたらママから『今日から高校生になるんだから、何か新しいことを始めてみたらどう?』ってメッセージが届いて……うちたちまだ高校生じゃないのに変だよね~」
「話の途中で申し訳ないけれど、藍ママは4月1日付で明才高等学校の生徒になるからそのように表現したのではない?」
「ちーちゃんよく分かったね~ 『うち、まだ入学してないよ~』って送ったらママが
「事の成り行きは大体わかった。が、なしてそんなにいっぱいノート買って来たん?」
「だってうち絵とか苦手……」
「それは知っているけど、そうでなく。どないな計算したら3ヶ月分のノートが9冊になる?」
「ちーちゃんとジュンジュンの分だよ」
当たり前でしょ? とでも言いたそうな純粋な表情を見せた藍はご丁寧に『宇佐美千花』『
「うちだけだと絶対に途中で止めちゃうから二人も一緒に……ね?」
「仕方ないな」
「仕方が無い、か」
俺も千花も断ることは容易いはずなのだが、愛すべき彼女からの提案という点を抜きにしても、幼馴染として十数年前から各両親が耳に
【お姉さん、お兄さんの言うことは守ること】
という言葉にだけはつい従ってしまい、8月生まれの俺と9月生まれの千花は7月生まれの藍がやると言ったことには従うのが当たり前のようになっていた。
「だけれど、3ヶ月分で3冊というのはいささか多過ぎるとは思うけれど?」
「? 1ヶ月で1冊だよ~?」
「もしかしてだが、千花はノート1冊30ページくらいしかないと思っている感じか?」
「……うん。それくらいでしょ?」
「ノートは大体1冊80から100ページくらいのページ数があるの。1日1ページ使うと考えても1冊で3ヶ月は使えると思うけれど」
「え、えへへ~」
笑って誤魔化す藍に対して俺たちは『なんだ、この小さくてかわいい生き物は』と思いながら呆れる事しか出来なかった。
という経緯で書き始めた日記ではあるが、思いのほかスラスラと書き記せてしまったことに俺は驚きを隠すことができない。
藍に
「止めちゃわないように週に一回は皆で見せ合いっこしようね」
と言われてしまったので、取りあえずは誰かが諦めるまではこの日記を毎日書き記していこうと思う。
俺の予想では言い出しっぺの藍が真っ先に脱落するのではないかと思っている。
意外と千花が早々に面倒くさくなって投げ出してしまうか……?
俺も一度書き忘れたらそのまま忘れてしまいそうな気がしなくもない。
まずは一週間頑張ってみることにしよう。出来るだけ忘れないように。
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