第9話 酒場のマスター

 一つも売れないうちに夕方になってしまいました。できる限り声をかけてみましたが誰も相手にしてくれませんね。


 うーん、なぜ売れないのでしょうか?

 

 昼間の女性の反応を見る限り物が悪いという訳ではなさそうですね。そもそも物を見せる前に断られてしまっているのでペットボトルが悪いかどうかは関係ないんですよね。

 そもそも何となく門の外で販売を開始してしまいましたが、これは正解なのでしょうか。少し冷静に考えてみましょう。


☆どんな人が来るか?

 門の外に来る人→旅に出る人or旅から戻る人→どちらも旅の準備は万端のはず→すでに水筒を持っているor町に戻るので必要ない→売れない。


☆話しかけるタイミングはどうか?

 これから旅に出るor旅から戻る人→忙しいor疲れている→人の話を聞く余裕はない→話を聞いてもらえない→売れない


 一見売れそうな場所に感じましたが、しっかり考えてみるとここで売るのはかなり困難ですね。例えばもっと認知されてあらかじめ門の外でペットボトルという便利なものが買えると知ってもらえてれば別ですが今は無理ですね。


 では今の私がペットボトルを売るためにはどこに行って、誰に売ればいいのでしょうか?


☆誰に売るか?

 水を持ち運びたい人→常に水をためておきたい人→水分が沢山必要な人→汗をよくかくひと→鍛冶職人


 そうです!旅人に販売するのではなく、街の鍛冶職人たちに売りましょう。彼らは鉄などを溶かすために高温の環境でさらに大きなハンマーなどを使うのでかなり水分を消費するはずです。鍛冶場に水道があるとも限らないですからね。

 しかし、いきなり鍛冶場に行って「ペットボトル買ってください」と言っても仕事の邪魔になり話を聞いてくれないのが目に浮かびます。では彼らが話を聞いてくれそうな場面はどこでしょうか??


☆いつ売りに行くか?

 話を聞いてくれるタイミング→ガードが緩くなっているタイミング→仕事終わりに酒を飲んでいる時→酒場に行けばタイミングも場所もよい。


 このタイミングで行けば少なくとも話ぐらいは聞いてもらえそうですね。そうと決まれば町に戻り鍛冶職人たちが集まる酒場を聞いてみましょう。


 その後、数人に聞き。鍛冶職人たちが集まる酒場を突き止めた。すぐにその酒場に向かった。


 カラン。

「いらっしゃいませ。」

酒場のマスターが話しかけてくれた。

「初めて見る顔ですね。もしよければカウンターにどうぞ。」


「ありがとうございます。」

 席につき周りを見渡したがまだ人は少ない。まだ夕方を少し過ぎたぐらいなのでこれから人が集まるのだろう。


「お待ち合わせで?」


「いいえ、一人です。」


「こんな美人が一人で酒場に来るのは珍しいですね。」


「そうなんですか?」


「近頃物騒ですからね、お姉さんも気を付けくださいね。」


「お気遣いありがとうございます。」


 そんなやり取りをしながら、お酒を飲んでいると鍛冶職人らしき人たちが店に入ってきて後ろのテーブル席に座った。目が合った気がしたので会釈をした。

「いらっしゃいませ。」


酒場のマスターが話を続けた。

「ところでお姉さん、その荷物はなんだい?」


 とてもいいタイミングで話を振ってくれた。

「これはですね、水をためておく道具です。これを売っていたのですが全然話を聞いてもらえなくて。」


「水をためておく?ああ、旅人が使う動物の皮とかみたいなものか。」


「ええ、そんな感じです。もしよければ水を入れてみていただけますか?」

 一つ手に取りマスターに渡した。そしてマスターは驚きの表情をした。


「すごい!これは綺麗だし軽い!それに染みたり漏れたりする感じが一切ない。宝石みたいだ!!」


 ああ、やはり宝石のように見えるようですね。


「これは何というものなんだい?」


 ペットボトルと言ってもよかったが、ウェンディは何となくこう答えた。


「ミスリルボトルです。」

私が転生者を送り込んでいた世界なら、ミスリルは貴重な鉱物普通の人は中々お目にかかることがない物質です。だます訳ではないですが、響きが受け入れやすい可能性があります。


「ええ!すごいミスリルですか?」


「原材料は違いますが、ミスリルのように美しいのでミスリルボトルと呼ばれています。ミスリルのようではありませんか?」


「残念ながら、私はミスリルを見たことがありませんがきっとミスリルボトルのように美しいのでしょうね。ああ、良いものを見せていただきました。ありがとうございます。妻にも見せてあげたいです」


 ウェンディはまた嬉しい気持ちになった。

「そちら差し上げます。奥様にプレゼントです。」


「ええ、そんな悪いよ。」


「良いのです。美人と言っていただいたお礼です。受け取ってください」


「そうか?うん。ご厚意に甘えさせていただきます。妻も喜ぶわ!ありがとうございます。」


「どういたしまして。」


「ちなみにミスリルボトルを売ろうとしていたんですよね?」


「ええ、どうしても5万Gが必要で。」


「5万Gか、何かわけがあるんだな。」


「そうですね。」


「そのミスリルボトルはいくらで売る予定なんだ?」


「500Gですね。」


「ええ、随分と安いな。もしよければ私も10個ほど購入してもいいか?」


「もちろんです!合わせて5000Gになります。ありがとうございます。」

 まさか酒場のマスターに売れるとは思いませんでした。

 

「こちらこそありがとう。先ほどのプレゼントのお礼に今日の酒場代は結構です!あと私に残りのミスリルボトルを売るのを手伝わせてもらえるかい?」


「いいのですか?ありがとうございます。!!!」


「まかせな!」


  ステータス

 名前:ウェンディ

 所持金:500円

    :8000G

 持ち物:190個ぐらいのミスリルボトル


 スキル:ワールドミラー(地球と異世界を移動できる)


 現在地:異世界(酒場)

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