「はじめてのギフト体験キャンペーン」当選記念 閑話・正直しんどい

===茂平===

「「えいっ!おうっ!えいっ!おうっ!」」

皆で掛け声に合わせて長い竹槍を振り下ろし突く。

 冬のある日、石を投げる紐が皆に配られたあの日に、大将が皆に命じたのは紐で狙った所に石を投げられる様になる事と、仕事が終わった夕方に声を合わせて竹槍を振る事だった。しかも毎日だ。

 正直、儂はこう言った体を動かす仕事は得意じゃない。皆は鍛冶仕事で鎚を振るうのも一緒じゃあないかと言うが、全然違うと思う。正直しんどい。

「「えいっ!おうっ!えいっ!おうっ!」」

最初は皆の動きもバラバラで掛け声ももっとゆっくりとした物だったのだが段々と早くなった。その度に最後まで揃わないのが儂で、皆は儂が出来る様になるまで待つ事になる。まるで針の莚に座る様だ。思えば小さな頃から皆と何かすると似た様な事になったと思う。それは大人になってからも変わらず、野鍛冶として村々を回っても上手く行かない事ばかりだった。


 汗だくになる頃に調練は漸く終わりを迎える。竹槍を仕舞って皆で風呂へ向かう。

「あ゛ー…生き返る。」

皆が口々にそう零す。儂も同じ気持ちだ。

 春になり我等の暮らしで一番変わった事が風呂だろう。冬の間は凍えながら竹槍を振り、手は悴んだまま体は汗をかき、そしてそれが冷えてまた凍える、そんな毎日だった。それが今では疲れた体を風呂で温める事が出来る。これが冬の間に出来ていれば…いや、今度の冬は調練の後に風呂に入れる。今度の冬も調練するのか…

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===宗太郎===

「はぁ…」

 夕方、猛様との稽古を終えて風呂に浸かると自然と溜息が出る。周りの人達の吐く気持ち良さそうな溜息とは違う。

「なんだ宗太郎、そんな溜息を吐いて。」

隣で湯に浸かっている満助兄さんがそれを聞いてそう言う。

「何か俺だけ変わって無いって言うか上手く行って無いって言うか…」

そう、大将達が来てくれてから村の皆は変わった。決して楽になった訳じゃ無いけれど何処と無く明るくなった。

 寛太は俺が留守の間に猛様に稽古を付けて貰うようになっていた。留守にするまでは俺の後ろを付いて歩くばかりだったのに…石投げも直ぐに上手くなって俺は全然敵わない。剣だって素振では俺と変わらない様な鋭さに見える。まだ体が小さいからって打ち込みの稽古はさせて貰えていないけれど、出来るようになったら俺なんて直ぐに追い抜きそうだ。

 茂平のおじさんもそうだ。前はほとんど口を開く事も無く、言われた仕事をするだけの人だったのに大将からあれこれ仕事を頼まれては「あーでもないこーでもない」と千次郎兄さんと楽しそうに作業している。

 目の前の満助兄さんなんか最たる物だ。いつも自信無さ気に嘉助兄さんの後ろに隠れるばかりで豊姉さんに怒られてばかりだった満助兄さんだったのに、八郎さんに付いて馬の世話をする様になってから人が変わった様に明るくなった。それに比べて…

「ははは、そりゃあお前さんが一番難しい事を習っているからさ。俺は馬の世話だけ気にしてりゃ良いが、お前さんは村の事全てを気にせにゃいかんのだから大変さ。」

そんな俺の悩みを満助兄さんはそう言って笑う。それでも俺は…

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※※※※※※

 どうも、GWこそ頑張って更新すべきなんじゃないか?むしろ連続更新用のストックはGWにこそ投入すべきだったのでは?と気がついたわだつみです。

 さて、なんのこっちゃのタイトルですが昨日通知に「カクヨム運営公式さんからギフトが届きました」との唐突なメッセージが。???と思っているとどうもこれが表題の件だった模様です。因みに私が当選したのではなく当選されたのは読者様です。

 どのくらいの倍率だったのかは分かりませんが当選された方の中に私の作品を選んでくれた人がいらっしゃったと言うのはなんだか不思議な嬉しさがありました。

 決してコメントで「調練なんてしてたっけ?」と突っ込まれたから慌てて拵えたわけではあります。どこかで書かないとなぁ、と思っていた所にやる気が降って来たのです。きっとこれが世に言うwin-winってやつです。

 という訳で現在は最新話の場所にある当話ですがGW明け位に適切な位置に移動しようかなと思っております。

 と、言う事で改めましてご応募頂いた方、ありがとうございました。

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