閑話・凄い…よね?
本日、閑話と通常投稿の二話が投稿されています。少し時間が前後しての投稿となってしましましたので宜しければもう一方もご確認頂ければ幸いです。
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そうして狩りに付いて行くようになって今日で三回目。俺が居る時は余り山の上には行けないからまだ獲物は獲れた事が無い。
でも俺が行かない日は師匠達はもっと奥の方まで行って獲物を獲って来てる…特に今日は雪が増えたからこの間の所までも行けないかもしれない…
そんな事を考えながら必死に師匠の後ろを付いて行っていると急に師匠が立ち止まってしゃがんだ。手振りで俺もしゃがむ様に言われる。それから手招きされたのからそっと師匠の側まで近付いた。
「あそこに兎が居る。」
小声で師匠が教えてくれる。でもどこだか分からない。困っていると、
「岩の頭が覗いているのは分かるか?」
「はい。」
それは見つけられた。
「そこから左に三本行った木の根本の雪に埋まった藪の芽を齧っている。耳の先が黒い奴だ。」
うーん…あ、居た!なんであんなのが見つけられるんだろう!!やっぱり俺の師匠は凄い!!!
「居ました。」
「良し、狙ってみろ。」
えっ!?俺がやるの!?そう言われて一気に緊張して来る。慌てて紐と石を取り出して用意する。
と、そこで兎が木の芽を齧るのをやめて辺りをキョロキョロ見回し始めた。
「お前が焦ったから気配が兎に勘付かれたんだ。静かにゆっくり息を吸って心静かに自分は地面の一部だと思うんだ。」
自分が地面の一部ってどう言う事だろう…全然分からない…
でも困っていたら慌てる感じは無くなった。兎もまた木の芽を齧り始めた。俺はゆっくり紐を回す。紐が速さが増してくると光の筋が見えて来た。
うん、これなら当たる。俺はそう思って石を飛ばす。
"ボスッ"
と言う音がして兎に石が当たる。兎はその場で丸くなって動かなくなった。
「やった!」
「まだだ、動けなくなっただけだ。急いで獲物を取り押さえるんだ。急がないと逃げられるぞ。」
俺が立ち上がって喜んで居ると、師匠が厳しく言う。慌てて兎に向かって走り出す。急斜面と雪に足を取られながらなんとか獲物に辿り着く。
でも、どう取り押さえれば良いのか分からない。そうこうして居るとグッタリして居た兎がモゾモゾと動き出す。焦った俺は両手で上から必死に地面に兎を押さえ付ける。兎も必死に足をバタバタと動かし逃げようとしだした。
少しずつ手の中から兎がズレて行く。このままじゃ逃げられちゃう!!そう思った時には手の中から兎はスルッとすり抜けていた。
「あっ!!」
逃げられちゃう!!そう思ったその瞬間。横からサッと出て来た手が兎を掴む。
見上げるとそこには兎の両耳を掴んでぶら下げている師匠が居た。
「ははは。どうだ、こんな小さな体でも兎の力は中々に強いだろう?」
そう言う師匠の手の中では兎が必死に足をバタバタさせている。そうか耳を持てば逃げられないのか…
「はい…」
確かに必死に抑えたのに結局逃げられてしまった。
「狐や狸はもっと強い。狼なんかはもう危なくてとてもじゃないが手で押さえるなんてのは無理だ。鹿に至っては蹴られればこちらの命が危うい。」
師匠は手早く兎の後ろ足を縄で括りながらそう教えてくれる。
「兎は蹴るだけだが、狐も狸も狼も牙が鋭いから噛まれたら只では済まん。雉なんかも爪が鋭いから油断ならん。山を、動物を甘く見ると狩られるのは自分自身になりかねんのだ。」
そう言いながら師匠は既に兎を逆さに吊るしていた。凄いな…その手際にそう思う。
「さて、最後の仕上げだ。」
そう言うと師匠は腰の小さな籠の脇に下げた小刀を抜いて俺に渡して来た。
「?」
「獲物を獲ったら最初に何をしなきゃいけないか知っているか?」
最初に?
「縛る?」
「まぁ、そうか。縛る所までが獲るだな。その次だ。」
獲ったらどうするんだろう。師匠や弥彦おじさんが持って来た獲物は母ちゃん達が包丁で捌いてお肉にしているけれど…
「分かりません…」
俺は仕方無しにそう答える。
「ふむ。最初はな、血抜きをするのだ。」
「血抜き?」
血を抜くの?
「そうだ、それをせんと肉が痛み易くなるし不味くなる。この辺りをこう横に刀で切って血を抜く。」
え?そんな事をしたら…師匠の言葉を聞いて顔から血が引く。
「そうだ。命を奪うのだ。我等が飯を食う為に殺すのだ。今までお前が旨い旨いと喜んで食っていた肉も皆そうして来たのだ。」
目の前で逆さに吊るされて必死にもがく兎を見る。右手に握った小刀が大きな石の様に重く感じる…
「さぁ、覚悟を決めてやるのだ。これが出来なければ狩りには連れて行けんぞ。」
狩りに連れて行って貰えなくなる…師匠にガッカリされちゃう…でも、腕はピクリとも動いてくれない。怖いんだ…
どれだけ時が経っただろう。聞こえるのは風の音と兎が必死にもがく音だけだ。怖い…でも、狩りに連れて行って貰えなくなるのは嫌だ…
石の様に重い腕を必死に持ち上げてなんとか小刀を兎の喉に当てる。でも暴れる兎の頭は何をされるか分かっているかの様に左右に逃げて行く。
「左手で頭を抑えるんだ。決して刃の走る方向に手を入れるなよ。」
左手だってろくすっぽ動きやしない。必死に持ち上げて兎の頭を掴む。ふんわりした毛の感触とその奥の暖かさが伝わって来る。気が付くと目からは涙がポロポロ落ちている。
「さあ、兎を苦しめるな。」
師匠にそう言われて刃を押し込む。押し込むけど刃はちっとも入って行かなくて…目一杯力を込めた。
目の前では兎の首から真っ赤な血が零れて、真っ白な兎の頭とその下の雪を赤く染めて行く。バタバタと暴れていた兎は段々動かなくなって…暫くすると全然動かなくなった。
「良くやった。これが命を貰うと言う事だ。決して忘れてはならん。だが、一度目で出来る奴はそうはいない。俺だって最初はとても出来なかった。治の兄者だって智の兄者だってそうだった。」
そう言って師匠はボロボロ泣く俺の頭を力を込めて撫でてくれた。
「大したもんだ。俺だって始めて獲物を絞めたのは十に近い頃だったぞ。」
弥彦のおじさんもそう言って背中を撫でてくれた。
「さぁ、もう少し進もう。兎一羽じゃチビ達の分にしかならないからな。」
そう言って斜面を登り始める師匠の後を涙を袖で擦って追いかける。
結局その日は、鹿を仕留める事が出来た。鹿は石じゃ無理だって言われて俺は見ているだけだったけど、師匠の弓が一発で矢を鹿の首に打ち込んで仕留めてしまった。やっぱり俺の師匠は凄いんだ!
血抜きは師匠達がやった。鹿の毛は硬くて皮の厚いから俺の力じゃ無理なんだって言われた。正直ちょっとホッとした。本当にちょっとだけだけど…
その後、俺を連れてこんなに大きな獲物が獲れるとは思ってなかった師匠達は雪の上で大物を運ぶ為に最近大将が作ってくれた橇を持って来ていなかったから、一度村の裏手まで戻った。
お堂の裏手の斜面の上から師匠が身を乗り出して大声で叫ぶ。
「おぉーい!鹿が獲れたぞぉ!橇を持って来てくれぇ!!うわぁ!?」
そう叫んだ師匠の姿が斜面の下に消えて行く…
「痛ってぇ…」
恐る恐る斜面の下を覗き込むとそこには雪に塗れた師匠が居た。
俺の師匠は凄い…よね?
その後、橇を持ってやって来た大将にも
「初めてでそれは大したものだ。これは今夜はお祝いせねばならんな。」
嬉しそうにそう言いながら撫でて貰えた。
「そうだろう?寛太、兄者は未だに獲物を絞める時は顔を青くするのだ。特に兎は駄目だ。理由は兎が可愛らしいかららしいぞ。」
師匠は大将に誇らしげにそう言ってから笑いながら俺にそんな事を言った。そしてその瞬間に大将に思いっきり蹴飛ばされていた…俺の師匠は凄い…よね??
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おかしいな…子供、雪、橇、赤、トナカイが登場したのに全くクリスマスの話にならない…聞いてた話と違う!!
SHI☆KA☆DE☆SHI☆TA
さて、普通は獲物は絞め殺してから血抜きをすると思われますが、今回は命を奪うと言う事を教えようと祥猛が敢えてと言う風に考えて頂ければと思います。
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