4・治める者無き地
1・返坂関に付随する地図、近況ノート「彌尖周辺地形図」が投稿出来ておりませんでした。改めて投稿致しましたのでご参考になさってください。
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「領主が居らぬと仰るか!?」
初っ端から意味不明な情報をぶっ込まれたが、これは面倒事の予感がする。思わず反応してしまったが聞かなかった事にして取り分の話をしよう。
「して、取り分は如何致します?我等は下に奴等の馬も抑えておりますので無茶を申すつもりはありませぬが。」
僧侶は少し虚を突かれた様な表情をした後、
「さ、左様で。その…馬には米なんかは積まれておりましたでしょうかな?」
そんな事を聞いて来た。
「ふむ、流石に何を積んでいたかまでは…」
「中身は分からないけど俵は積んでいたよ。」
俺の答えに被せる様に祥智が言う。
「お恥ずかしい話だが我等は今日の食事に事欠く有様…可能でしたらそちらを所望致したいのですが。」
それを聞いた僧侶は恐縮した様子でそう申し出る。
「左様ですが。まずは積荷を確認致しますか。我等が馬と捕らえられた者達を連れて参りますので、そちらはここの後始末をお願い出来ますかな。」
「畏まりました。それで…捕らえられた方々はどの位いらっしゃるのでしょう?」
俺の答えに了承と困惑が返って来た。
「五人程と思いますが?」
「…正直申しまして、我等には見ず知らずの方を受け入れる様な余裕がござらぬのです。」
これは相当な困窮振りな様だ。
「御坊、そうは言っても捕らわれた者達をそのまま放り出す訳にはいきますまい。彼等がこの近くの者なら良いですが、そうでなければ生きる為に盗人に身を窶すしかないでしょう。さすればまず狙われるのはここですぞ。」
「それは…仰る通りですが…いえ、そうですな。お連れくだされ。」
苦渋の決断と言った様子でそう答える僧侶。僧侶としての在り方と村を守る立場が相反するのだろう。
弓を拾い坂を下って馬と捕らわれた者達の所へ戻る。矢は村の者に回収を頼んでおいた。祥智は何も言わずにそこを通り過ぎ、蒼風を隠した方へ向かって行く。
「お主達はこの辺りの者か?」
縄を外しながらそう問い掛ける。
「いえ…私達は遠濱の北の方で捕まりました。」
そう答えたのは先程、賊の人数を答えた女だった。遠濱は我等が正に目指している土地だ。
「遠濱も賊が跋扈する様な有様なのか?」
「私の村は彌尖の山向こうです。あの辺りはどこも似た様なものだと思います…」
そう暗い表情で答える。
「そ、それより、なんで俺達を放って置いて上へ登って行ったのだ!!先に助けてくれれば良かったではないか!!」
遮る様に一人の男がそう叫ぶ。確かに一見正しそうな主張に思える。しかし、
「先に逃げたとして、俺達が奴等に負けたらどうする?奴等はお前等を血眼で探すぞ。禄に走れないお前らが逃げ切れるのか?」
俺が威圧する様に答えると、
「そ、それは…」
男は尻すぼみに声を落とした。まぁ、他にも馬を持って逃げられるとか、逃げたところで行く宛がなくて結局盗みを働くとか色々あるが全部伝える事はあるまい。しかし、この男は不満ばかり大きくなるタイプだな。面倒を起こす前に脅しておくか。
「それに、俺達とて不満を言われてまで助ける義理はないんだ。」
「どうする?こいつだけ木に繋いでおくか?」
図ったように祥猛がそんな事を言う。
「わ、悪かった!!助けてくれ!!」
慌てた様子で男が縋り付く。
「取り敢えず村の連中と合流する。悪いが上まで歩いてくれるか?」
男の反応は無視して皆にそう伝える。何人かが斜面を見上げて恨めしそうな顔をするが何も言わずに皆坂を上っていく。その後に続こうとすると祥智が蒼風を連れて戻って来た。祥猛が引いている馬を見て蒼風が’ブルルッ’と一鳴きすると賊の馬に近寄って行く。近寄られた馬は耳を伏せ、完全に怯えてしまっている。
「こらっ、虐めるんじゃない。」
また、’ブルルッ’っと不満そうに鳴くと祥智に先に進めとばかりに坂を上って行く。
「兄者もたった今、似た様な事をしてたぞ…」
呆れた様に、祥猛が失礼な事を言う。
「馬鹿言え。こいつはこんなに良い子に働いているではないか。」
そう言って馬の鼻筋を撫でてやると伏せた耳が少し持ち上がった。しかし、馬も群れを作る生き物だからこうして序列が作られるのだろうか。そう言えば旅の道中でも蒼風はよく他の馬を威嚇していたな。そんな事を思いながらフラフラと荷を担いで坂を上る連中の後ろをゆっくりと上がって行く。
村の入り口では住民が後片付けに追われていた。防柵代わりの丸太をどかすのに時間が掛かったのだろう。死んだ賊の死体は道端にまとめられており、処理はまだ手付かずだった。
「御坊、お待たせしました。読経はお済ですか?」
そう声を掛けると、
「いえ、漸く出入りが出来る様になったところでして。これからでございますよ。」
そう答えた。
「では、我等もご一緒させて頂けますか。」
「それが、宜しゅうございましょう。」
それから、一頻り読経に合わせて手を合わせる。村の者も出て来て手を合わせている。男も女も居る。合わせて二十人弱か。
捕らわれていた者も同様に手を合わせる。どう考えても相手が悪くても、逆恨みだと分かっていても死者に恨まれるのは嫌なのだ。
読経を終え、僧侶が振り返る。
「ほう、馬が三頭も居りましたか。あの人数にしては多いですな。」
俺達の後ろを見て、そんな事を言う。なんとも賊に対する慣れを感じてしまう。
「いえ、大きいのは我等の馬です。」
「左様ですか…確かに見事な馬ですな。この辺りでは見た事のない程の馬です。」
危ない、危うく我等の荷物からも分け前を要求されるところだったぞ。
「改めまして、危ない処にご助力頂きまして真に忝なく存じます。この村の林光寺の住職を勤めております、
「礼には及びませぬ。某は鷹山祥治。武者修行で諸国を巡っております。後ろの二人は弟の祥智と祥猛でございます。」
お互いに挨拶を交わす。と、
「あ、あんた、強いんだろ!?俺達を守ってくれよ!!」
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