14・一番足りないものは

 体力だ!!体力が絶対的に足りない!!結局二人で一本の木を切り倒したところで二人共完全にヘバッてしまった。枝を払っていた霧丸も俺達程ではないが大分疲れている。良く考えたら俺はまだ六歳、しかも数え年でだ。そして二人は一つ年下なのだ。本当は今日中に木を適当な長さに切って城に運んだ後、椎茸が採れた場所の近くで椎の木の丸太を作ろうと思っていたのだ。

「若…切った木はどうするんだ?」

「お前、これからこれを短く切って城まで運ぶ元気あるのか?」

「…ない。」

「大体お前。この後、家まで帰れるのか?」

「どうだろう…」

これは早めに解散にしよう。


 河原まで一度戻る。現在は休憩中だ。三人共大の字に倒れている。日に暖められた石が背中に気持ち良い。


「はっ!!」

気が付いたら夕方になっている!!お日様はすっかり城の裏山に姿を隠し、烏が森に帰って行く。

「おいっ、お前ら起きろ!!」

慌てて二人を起こす。

「寝ちゃいましたね…」

霧丸がそう呟いた。松吉はまだ半分寝ている。

「今日はもう解散にしよう。もう、筌を上げる元気もない。明日までこのまま放っておこう。」

そう言うとその日は解散になった。

因みに最後に城へ登る坂を斧を担ぎながら登る事は余りにも辛かった…まぁ、これから半刻も歩いて帰る松吉よりは遥かにマシだろう。そう自分に言い聞かせながら坂を登った。


 気が付いたら翌朝だった。昨日部屋に戻ったところまでは覚えているのだが夕餉を食べた記憶は無い。腹減ったな…うわっ、しかも酷い筋肉痛だ。これは今日は何も出来んぞ…結局、朝の鍛錬は休みにして朝餉をいつもの二倍近くかき込む。母と紅葉丸が驚いた様子で見ている。

「あにうえ、おなかぽんぽん」

兄のお腹をぽんぽん叩くのはお止めろ下さい!!出てしまいます!!


 重い体を引き摺って中之郷へ向かう。誠右衛門の家に着くと霧丸が慌てて出てくる。

「今日はゆっくりで良いという話だったから…」

遅いから俺が迎えに来たと思ったのか霧丸が気まずそうにそう言う。

「いや、そうじゃない。お前も体中痛くて動けないだろ?」

そう聞くと、霧丸が頷く。

「俺もなんだ。だから今日は松吉の家に行って魚籠を頼もうと思うんだ。」

そう言うと安心したように、

「わかりました。」

そう言った。

「あ、木刀も重いからいらないぞ。」


 下之郷への道すがら、向こうからヘロヘロの松吉がやって来た。

「あれ、若?」

ビックリしている。

「今日は動けないからお前の家に行くぞ。母御と御婆様は家にいるか?」

「畑に出てるけど呼べばすぐ帰って来るよ。」

そう言うので、

「わかった、じゃあ直接畑に行こう。」

「わかった。」


「これからなんだが、和尚の所に行く時は中之郷の曲がり角で集合にする。爺の所に行く時は中之郷で俺と霧丸が合流して、下之郷の曲がり角で松吉と合流だ。それ以外の日は昨日と一緒だけど雨とか天気の悪い日は来なくていいぞ。」

細かな集合のルールを決めていなかったのでこの機会に決めておく。

「雨の時はいいんですか?」

霧丸が意外そうに聞く。

「城に来たところでやることも無いしな。それなら家の手伝いでもしていた方がマシだろう。」

二人の顔が正反対に変わる。成程と頷く霧丸に対して、

「全然マシじゃないよ!!手伝いしなくちゃいけないじゃないか!!」

松吉はそう叫ぶ。

「今から母御にもちゃんと伝えておくから安心しろよ。」

「ちっとも、安心できないよ!!」

賑やかに進んで行く。


「母ちゃん!!若様が来たぞ!!」

畦道から松吉が叫ぶ。

「あれまぁ、若様!どうされました?」

慌てて松吉の母親が走ってくる。

「突然ですまない。母御が竹編みを得意だと聞いたのでな。話は松吉から聞いているか?」

そう聞くと。

「嫌ですよ、得意だなんて。それに松吉は何も…」

そう言って松吉を睨む母親。

「だ、だって、昨日は疲れて帰ったら寝ちゃったし!!今朝も寝坊したから慌てて家を飛び出したんだ。そんな暇なかったんだよ!!」

慌てて言い訳をする松吉。

「それにしたって、若様から言われたこと伝えないなんて!!」

「まぁ母御、そう怒らなくて良いのだ。言ったのは昨日だし、俺も昨日は飯も食わずに寝てしまった。それに松吉はその後下之郷まで歩いて帰ったのだ。疲れても仕方無い。」

そう松吉を庇うとホッとした様子の松吉と疑わし気な母親。日頃の行いだな。


「それでな、魚籠びく葛籠つづらを頼めないかと思って今日は来たのだ。」

そう言うと、

「魚籠は魚を入れるあれですか?」

そう問うので、

「そう、余り大きなものでなくていいので三つ欲しい。」

「七寸(一寸約3cm)くらいでございますかね?」

「そうだな、それ位が丁度良さそうだ。」

「それと葛籠というのは物を仕舞う葛籠で?」

こちらが本題だ。

「正しくは葛籠のような物だな。大体幅は七寸、奥行五寸、高さ七寸くらいで蓋は片側は本体に繋がっていると良い。そして背の部分に紐を通せるようにして欲しい。」

母親の頭の上にハテナが乱舞している。

俺は棒を拾うと畑の端に図を書く。

「こんな形なのだが、出来るだろうか?」

「蓋を開け閉めする時に曲がるところがその内壊れてしまいそうなのが気になりますが、出来ないことはないかと思いますね。これも三つですか?」

「こちらは試しに一つで良い。使ってみて良ければ追加でお願いする。」

「わかりました、作ってみます。」

「お願いする。急がぬので野良仕事の隙間にでもやってくれれば良い。」

「では、出来ましたら松吉に持たせますので。」


「さて、今日は終わりにするか。俺は帰りに筌を引き上げるが松吉はどうする?往復して何もない可能性もあるけど。」

「ん〜…家にいるとどうせ手伝いさせられるから行く。」

そんなに手伝いが嫌なのか…

「それじゃ、行くか。」


「おぉ、すげぇ!!本当に入ってる!!」

城から紅葉丸を連れて来てから筌を引き上げる。本当に鮎が獲れたことに松吉は大興奮だ。二日分の魚が入っているので全部で鮎四匹に鰍が五匹も獲れた。

「あにうえすごい、きょうはいっぱい!!」

紅葉丸もご機嫌だ。皆で魚を分けて気分良く家路に就く。

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