第2話  斬聖の異伝


 別の町ではこのような話も伝わっている。

 あるとき、リバーロは街道に潜み、通りがかる者を斬っていた。

 一人目の旅人にリバーロは言った。

「先に言っとく、金はいらねェ。斬らせてもらうぜ」


 旅人が命乞いをするとリバーロは言った。

「ならばお前がなぜ生きるか、どういうわけで斬ってはいかんか。そいつをとくと教えてもらおう」


 旅人は言葉を詰まらせたが、考えながら言った。

「斬られたならば誰でも痛い。だから嫌だ、死にたくない」

 リバーロは突然、自らの足に太刀を突き立てた。そして問う。

「痛いか?」


 驚いたまま何も言わない旅人にリバーロは言った。

「お前はそうさ痛くねェ。俺はお前じゃねェんだよ。お前以外はお前じゃねェ。お前の痛みはお前のもんだ、俺にゃ一つも関係ねェ」


 悲鳴に一つも耳を貸さず、リバーロは太刀を一つ振る。



 二組目は二人連れ、旅の道連れ、商人と神父。リバーロは二人にこう尋ねる。

「死にたくないとぬかしても、命はどうあれ消えるもの。それをどうして斬ってはいかん?」

 商人は答えた。

「生は短い、長くはない、それでもできることはある。子孫に残せるものもある、長く生きれば生きた分だけ」


 リバーロはあごをかく。

「とはいえ、だ。子孫とやらもいつかは死ぬ、そのまた子孫もいつかまた。それに見ろ、岩さえ風雨に削られて、陸地も波に削られる。大地とて永遠には残るまい。大地がなくなりさてさてそれで、いったい誰が生きてるのかねェ? 残したものはどこにあるのか?」

 神父がそこで口を挟む。

「そのときは神の御国が訪れる、正しき者の永遠の国が。正しき者は蘇えり、死の二度とない永遠を生きる」


 リバーロは笑う。

「そいつァよかった。死など関係ねェんだな? だったら先に、そこへ行ってな」


 二人まとめて首が飛ぶ。



 三人目の騎士にまた尋ねる。

「何のために生きている? 死ねないほどの理由があるか」

 騎士は答えず斬りかかるが、剣を落とされあきらめた。

「主君のために私は生きる。そしてそれは私のためだ。任務につくたび、誇りを感じる。それが欲しくて生きている」


 リバーロはうなずき、歯を見せて笑った。

「なるほど、そいつは結構だ。それなら俺にも少しは分かる。心のために生きるというなら」


 騎士は安堵の息をつく。

「ついては、ただ今主君から、手紙を運べと言われている。分かってもらえるものならば、どうか通してくれまいか」

「ああ、いいさ」


 リバーロは剣を騎士に返す。

「ついては、俺にも生きがいがある。俺は人を斬るのが好きだ。斬り裂くたびに心が震える、それが欲しくて生きている。俺より強けりゃ任務を遂げな、俺より弱けりゃ斬られてけ」

 ぬたりと笑って太刀を構えた。


 騎士の体は三つに分かれた。



 このできごとを実際に目にした者はいない。騎士が携えていた手紙、この宛先である貴族の屋敷に、このことを書いた紙が投げ込まれていたのだった。

 顚末は騎士の持っていた手紙の裏に書き込まれていた。意外に几帳面そうな字だったが、こびりついた血が染みになってひどく読みづらかったという。屋敷に忍び込むためだろう、門の前では門番が二人斬り殺されていた。





 さて。ここで、死神を語るために語らねばならない人物がいる。姓はロンド、名はジョサイア。つばくろと仇名される剣士であり傭兵である。リバーロこそは、彼が狙う仇であった。


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