上位存在デスゲーム
ナトリウム
暇を持て余したανώτερη ύπαρξη達の遊び
ここは、κόλαση学園。たくさんのανώτερη ύπαρξηたちが通う学園である。
ανώτερη ύπαρξηたちの間で、人間を一つの空間に閉じ込めて戦わせるという遊びが流行している。παιχνίδι θανάτουと呼ばれるその遊びは、人間界にあるもので例えるならばムシ〇ング……いや、蟲毒に近いだろうか。
παιχνίδι θανάτουのルールはそんなに難しいものではない。プレイヤーたちは集めてきた人間を持ち寄り、それを気絶させた後に用意した空間に入れる。自分が用意した人間が最後まで生き残れば勝利だ。
知らない空間に閉じ込められた人間は意識を取り戻した時、己の置かれた状況に戸惑ったり、錯乱したり、怒り狂って他者を攻撃し始めたりというような多種多様な反応を見せる。παιχνίδι θανάτουでは勝敗を決めることが主な楽しみ方ではあるが、このような個体差のある反応を楽しむ者もいる。
余談だが、このゲームは人間界でいうムシ〇ングのように、実際の人間を戦わせるのではなくデータ化された人間を戦わせるシミュレーションゲームもΜπαντάι社によって作られ始めた。しかしデータになった人間では挙動がある程度パターン化されてしまうため、予想のできない展開が見られるという点で実際の人間を戦わせるπαιχνίδι θανάτουは根強い人気を誇る。
今日は、κόλαση学園の大人気恒例行事、παιχνίδι θανάτου大会の日である。
今回用意されているのは、人間界の無人島を模した空間だ。παιχνίδι θανάτουのフィールドとして用いられるのは、学校や無人島、古びた洋館など様々だ。人間界にも、そのような場所を舞台としたサスペンス映画や小説などが多数あるだろう。今ではそれらの作品は人間界で1つのジャンルとして確立されているが、サスペンスを最初に書いた作者はπαιχνίδι θανάτουで生き残って元の世界に返された人間であり、その経験を元に作品を作り上げたとも言われている。
参加者たちは、無人島を模した空間にそれぞれが用意した人間を入れていく。
最初に述べたように、この時人間を気絶させた状態で閉鎖空間に入れる必要がある。「目が覚めたら見知らぬ場所にいた」という状況の方が、人間たちはより錯乱して理性を失った状態で行動することが多いからだ。
この時、単に気絶させるというのではなく、「どのように気絶させるか?」「どのぐらいで目が覚めるように気絶させるか?」という判断が求められる。気絶させる方法は、物理的な衝撃で一時的に昏睡させても良いし、ανώτερη ύπαρξηたちがそれぞれ持つ固有の能力などを使っても良い。例えば、単純な睡眠状態にする者もいれば、コールドスリープのような状態にして目覚める時間をコントロールしやすくする者もいる。物理的な衝撃による昏睡は何の能力もいらない最も単純な方法ではあるが、人間は脆いので、力加減を間違えるとπαιχνίδι θανάτουの開始前から脱落する羽目になる。そのため、あまりこの手段を用いる者はいない。
人間が目覚めるタイミングも重要だ。過去の例では、用意した人間にいわゆるサイコキラーが交じっており、その人間が最初に目覚めてしまった結果他の人間が昏睡中にそのまま全滅してしまったことがある。あまり長い間目覚めないような状態にならないように気をつけなければならない。
ανώτερη ύπαρξηたちは人間を適当に採集してこのゲームに持ち込むのだが、どこで採集したかによってある程度その人間の性質が分かる。例えば、他の人間が近づかないような山奥の祠の近くで採集した人間は、突然見覚えのない空間に入れられても臆せず行動するという長所があるが、軽率な行動によって命を落としてしまうことも少なくない。
κόλαση学園の3年生であるόχλοιは、学園内のπαιχνίδι θανάτου大会では上位に残ることが多い。όχλοιは常時トップというわけではないが、「何となくいつも上の方に名前がある」というぐらいには他の生徒に認知されている。όχλοιは今回、多くの人間に囲まれた煌びやかな舞台の上で歌ったり踊ったりしていた人間を用意した。「このような人間を持ち込むとどうやら他の人間からも顔を知られているようで、初手でいきなり殺されるという事故が少ない気がする」というのがόχλοιの判断だ。
なお、当然ながらπαιχνίδι θανάτουのために採集された人間はゲーム中は人間界から姿を消すことになる。今回όχλοιが用意したような人間は人間界では「アイドル」と呼ばれる職業の者であり、παιχνίδι θανάτουのために採集されて行方知れずになると人間界では特に大きな騒ぎになるのだが、そんなことはανώτερη ύπαρξηたちには知る由もない。
参加者全員が人間をフィールドに入れ終わった。ここまでの準備が整ったら、後は自分が用意した人間が生き残ることを祈りながら見守るだけである。
ανώτερη ύπαρξηたちの中には人間の言葉が分かる者もいるが、全員が言葉を解するわけではない。ごく一部のπαιχνίδι θανάτουガチ勢は、ανθρώπινη γλώσσα (人間界でいうところのバウリンガルが近いだろう)という機械を用いて人間たちが言っていることをリアルタイムで翻訳しているが、その翻訳がどれだけの精度かを確かめる術はない。
今回の参加者の中には人間の言語を解する者はおらず、ανθρώπινη γλώσσαを所有するガチ勢もいないため、雰囲気で楽しむこととなる。言葉が分からずとも、人間の挙動を見ているだけでも楽しめるものだ。
最初に目覚めたのは、人間界で「会社員」と呼ばれる職業の人間だった。このタイプの人間は人間界に多数生息しているため採集しやすいのだが、どれも似たような見た目をしている一方で能力は当たり外れの差が大きい。「蓋を開けてみるまで性能が予想できない」というランダム性を好んでこのタイプの人間を持ち込むプレイヤーもいれば、特にやる気がないので捕まえやすいのを捕まえてきただけというプレイヤーもいる。
最初に目覚めたこの人間は割と冷静な性格をしているようだ。まずは周囲の状況を確認し、ここが無人島だと分かると、今後のために食糧を確保するという判断をしたようである。しばらく眺めていると、どこからかバナナを拾ってきた。明らかに周囲は竹林であり、バナナが生えているようには見えないのだが、この場に人間界の植物に詳しい者がおらず「そういうものか……?」と疑問を抱きつつもανώτερη ύπαρξηたちは皆スルーした。なお、これは豆知識であるが、バナナは木ではなく草である。
όχλοιが用意した人間は、早すぎず遅すぎず、半分ぐらいの人間が活動しているタイミングで目を覚ました。戸惑いつつも周囲の様子を伺い、安全そうなところに向かって移動していき、他の人間が集まっていた場所に辿り着いた。この人間は「アイドル」という職業の者だ。όχλοιはそこまで知っていてこの人間を捕まえたわけではないが、この人間はアイドルの中でも特に知名度の高い者であった。この人間を見た瞬間、他の人間が明らかにざわざわし始めている。その場にいる人間からすれば、この訳が分からない状況で誰もが知るトップアイドルが現れたので動揺するのも当然である。ανώτερη ύπαρξηたちはそんな人間たちの事情を知らないので、何だろうと思いながら見守っている。このアイドルが合流した辺りから、人間たちはまとまって行動をするようになった気がする。
デスゲームを主題とする人間界で有名な某ゲームでは、熊の形をしたマスコットが参加者たちを殺し合いに誘導する。だが、παιχνίδι θανάτουではそのようなものは存在しない。そのため、必ずしも殺し合いに発展するわけではない。しかし、多くの場合、突破口のない状況で精神的に限界を迎えた人間が他の人間を殺し始めるという展開に遅かれ早かれ至ることとなる。
ゲーム開始から、人間の感覚に換算して5日ほど経った頃。体力のない者は早いうちから自然淘汰されており、そうでない者も最初に比べてかなり衰弱した様子であった。人間は最初と比べて半分ぐらいになっていた。生存者の中には、όχλοιが用意したアイドルもいる。
この頃には既に人間たちは「外部と連絡を取れず、危機的な状況である」ということを理解しており、それでも状況を打開しようと足掻く者、限界を悟り無気力に陥る者、自暴自棄になる者などに分岐していく。この辺りの違いはπαιχνίδι θανάτουの大きな楽しみの1つである。
ただ、どのタイプの人間も、この頃には自分以外の人間に気を配る余裕はほとんど残っていないという点はだいたい共通している。そのため、アイドルが少しずつ狂っていることに気づけなかった。
このアイドルは、人間界ではほとんどの人が知っているトップアイドルである。飛び抜けて優れた容姿、歌唱力などを兼ね備えており、他の追随を許さない独走状態となっているほどだ。
ただ、このアイドルはそれでも満たされないほどの承認欲求モンスターであった。高い実力を持っていることは確かなのだが、それを評価されて世界中で人気を獲得してもなお満たされない、底なしの承認欲求を持つ怪物だ。どこまで行けば満たされるのか、それはアイドル自身にも分からない。
過酷なトレーニングを積み、大事なライブ当日を迎えたアイドル。
リハーサル通り、いやリハーサルの時よりも絶好調で、過去最高のパフォーマンスを発揮していく。巨大なドームに犇めく観客が全員自分を見ているという事実がたまらなく気持ちいい。
ただ、この大盛況がανώτερη ύπαρξηの目に留まってしまったのが運の尽きだった。
アイドルが目を覚ますと、そこは全く見知らぬ光景。ステージはどこだ。あの観客たちはどこだ。少し歩いて、アイドルは自分が島にいるらしいことを理解した。それが無人島であるということも後に分かった。彷徨っていると、人が集まっている場所に辿り着いた。全員、知らないうちにこの島にいたという点が共通していた。どうしてここにいるのか分かる者はいない。
ここにいる誰もがこのアイドルのことを知っていた。アイドルは、そのことで少し満たされた。アイドルがここに現れるまでは、訳の分からない場所に連れて来られた見知らぬ者同士で剣呑な空気が漂っていた。しかし、誰もが知るトップアイドルが現れた瞬間一体感が生まれ、生き残るために協力することになった。アイドルは、まるで自分が救世主であるかのように錯覚した。自分が何かしたわけではないにもかかわらず。
人間の感覚で3日ほど経った頃、全く飲まず食わずではないとはいえ、充分な栄養を摂取できていないため多くの人間は命の危機を感じ始めていた。ところで、人間には「生命の危機に晒されると本能的に子孫を残そうとする」という俗説があるらしい。一部の人間たちが、その欲望をアイドルに向け始めた。アイドルは自分が求められていることに仄暗い悦びを覚え、何人もの人間の欲望に応えた。アイドル自身も極限状態の中で正常な判断力を失っているのか、それとも凶暴なほどの承認欲求が顕現しただけなのかは知る由もない。
このような展開もπαιχνίδι θανάτουではしばしばあることで、別に驚くようなことではなかった。ανώτερη ύπαρξηの中には様々な欲望に溺れる人間たちを眺めるのを好む者がおり、特に色欲を好む者たちはこの展開に歓喜した。
人間の感覚で言うところの4日目。アイドルは少し気怠さを覚えつつ身を起こした。依然として、この訳の分からない島から脱出できる手掛かりはない。食糧の調達も碌にできていない。周りの人も弱って力尽きる者が出てきた。自分だってこのままだといつまで持つのか分からない。希望の見えない状況では、どんどん思考が悪い方に向かっていく。このままここで力尽きたら、これまで築いてきた地位はどうなる?折角たくさんの人に愛されているのに。もっとちやほやされていたい。元の場所に帰りたい。まだ生きていたい。承認欲求に裏打ちされ、さらに強固なものとなった生存欲求がアイドルの中に生まれる。
脱出方法を探すためにも、まずは生き長らえることが必要だ。そのために何が必要か。食べ物だ。ここで入手できる食べ物はあるのか?
そこまで考えて、早々に力尽きてしまった人がアイドルの視界に入った。誰かに見られるとまずいと判断する理性は残っていたようで、人気のないところまでその死体を運んでその肉を食べた。味はお世辞にも美味しいと言えるものではなかったが、久しぶりに何かを食べることができたことによる満足感があった。
5日目は、アイドルは食べられそうなものを探して回り、人気のないところで食事をした。ただ、野外に放置された肉はすぐに傷んでしまう。食べられそうな状態のものはそんなに多くはなかった。
6日目、アイドルは衰弱して意識を飛ばしかけている人間を石で殴って仕留めた。初めて自分の意思で人を殺めた瞬間である。人間が初めて殺人を犯す瞬間は、παιχνίδι θανάτουの見所の1つだ。既に脱落してしまったανώτερη ύπαρξηたちも含めて大盛り上がり、フロア熱狂である。この時点で、生き残っている人間はもうほとんどいなかった。
7日目。不運にも、アイドルが人を殺めて食べているところを目撃してしまった人間がいた。数日前にアイドルと体を重ねた人間のうちの一人であった。極限まで弱り切っていた体では、憧れていた人の常軌を逸した行動を見てしまった精神的なショックに耐えられず、そのまま意識を失ってしまった。アイドルはその人間も食べた。ただ、ανώτερη ύπαρξηたちにとっては人間はほとんど同じようなものに見えているため、個々を識別するのは難しい。そのため、この人間の複雑な心情まで推し量るのは難しかった。人間も、蠱毒で用いる虫を識別することはほぼ不可能だろう。人間の言語に詳しい者か、ανθρώπινη γλώσσαを所有するガチ勢がいれば話は別だが。
ちょうどこの人間とアイドルが最後の生き残りだったようだ。この瞬間、アイドルが最後まで生き残った人間となり、όχλοιの優勝が決まった。
中盤で脱落してしまったόχλοιの友人が、όχλοιのところに駆け寄り祝福している。
最後まで生き残った人間は、その人間を捕まえたανώτερη ύπαρξηによって元の世界に返される。キャッチアンドリリースは人間界の釣り人にとってだけではなく、παιχνίδι θανάτουプレイヤーにとっても大事なマナーなのだ。
今や最初の頃の面影をすっかり失ってしまった狂気のアイドルは、όχλοιの手によってしっかりと人間界に送り返された。人間界に戻ったアイドルは後に大量殺人事件を起こすことになるが、それはまた別の話である。
試合の数だけドラマが生まれるのが、παιχνίδι θανάτουの魅力だ。
今日もどこかでπαιχνίδι θανάτουは行われている。
上位存在デスゲーム ナトリウム @oganesson0409
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます