田舎の噂

サンドリヨン

私が愛したもの

噂はすぐ広まる。私と彼女が付き合っていたという噂は、明日には3里先の隣村にまで届いているのではないかと思うほど爆発的に広まっている。そりゃあ知り合いを7人たどればどんな人とも繋がれるこの時代で全員が知り合いのようなこじんまりとした村では5分と立たずに全員が知ってしまうだろう。田舎は娯楽に飢えている。誰と誰が昨日役場裏でセックスしていたなんて話が回ってくるほど娯楽が足りていない。誰とも話していない私にすら噂が回ってくるのだからその異常性がよくわかると思う。噂、噂、噂、一体噂とは何だろうか。私が本当に役場裏で見たものは仲睦まじくお弁当を食べている一組の男女で会ったし、私と彼女は1日だけ手をつないで下校しただけであった。一昨日には近所に住んでいるお爺さんが鉈をもって猫を追い回していたなんて噂が回っていた。それもまき割りの休憩中にお爺さんは猫を撫でていただけなのに。


無自覚な嘘。それが噂の正体だと私は思う。噂にもスパイスが必要だ。それが娯楽である。例えば、役場裏で、男女、といった情報を面白おかしく就職した結果セックスしていたなんて突拍子もない噂へと化ける。それが本当だと思い込み誰かへと無自覚に、無自覚に嘘を伝えていく。あぁなんてすばらしいのだろう。人はそれが真実だと思い込んで嘘を放つとき、筆舌に尽くしがたい効力を発揮するだろう。嘘の種類のうち噂程甘美なものは存在しない。噂は正確性がなくても、誰が発信しても、その元をたどるの難しく、弁明するのも難しい。


嘘は時に真実を隠す。だから私は真実のような嘘を愛し、真実を隠す。


私が女であり、女と付き合っていたという噂のせいで私たちはこの村に居場所はいなくなるだろう。私は彼女を手に入れる為に噂を流し、彼女を孤立させた。彼女の周りには私しかいない。その中で私の手を払いのけることができるだろうか。私は田舎の噂を愛している。

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