第5話 異世界宅急便
黒姫の一団は、王都へ向かう旅の途中でこのエラクトンという街に立ち寄った様子だった。
彼女たちは、総勢で30人程の女性だけの冒険者チームを結成しており、話を聞けば、活動拠点を移すためにエラクトンから北へ向かった先にある大都市〈パルフィス〉を目指しているようだった。
滞在する期間は不明だが、休憩や食料の買い込みを考えればあと数日もすれば彼女たちはこの街から出発するだろう・・・・・・そう思い、俺は最近彼女たちが集まる小さなレストランへ、足を運んだ。
【本日、貸し切り】
エラクトンの商店街に並ぶ、オシャレなレストランの出入り口には貸し切りと書かれた紙が貼られており、開放的な店の外見もカーテンで仕切られて中を見ることが出来ない。
「困ったなこりゃ」
以前、黒姫達のグループを見たときは、同じ大衆酒場へやって来たので、接触するのはそう難しくないと思っていた。
しかし、蓋を開けて見れば、エラクトンの環境に慣れた彼女たちは店を貸し切りにして外部の人間たちと接触するのを極力減らしている。
無断で店に入ったら殺される・・・・・・ということは無いだろうが、貸し切りの紙がある状態で、店の中へ入るのは流石にリスクが高い、彼女たちが同伴のするかは不明だが、まず間違いなく周囲の人達から不興を買うので、俺は店の前でどうするか迷っていた。
(黒姫達が店を出てくるところを待ち伏せするか・・・・・・?いや、下手に遅い時間だと警戒されるし・・・・・・)
「店の前で立ち止まって・・・・・・どうしたの?」
どうやって黒姫と接触するか、悩んでいると後ろから声をかけられた。
「すいません、店内の人に用事があってきたのですが、どうも貸し切りだったようで・・・・・・」
「用事?貴方、メンバーの関係者?」
俺が振り返って見れば、そこには黒姫とはまた違った系統の美少女が立っていた。
月明かりでもハッキリと分かる燃えるような真っ赤な髪に、意思の強そうな赤い瞳をしている。
深窓の令嬢といった雰囲気のある黒姫と違い、こちらは運動が得意そうな快闊そうな雰囲気を漂わせていた。
そんな女性が俺の言葉に首を傾げる。
「いえ、アポイント――――――店の中にいる人達と面識や約束は無いのですが、黒姫さんが大変興味を持たれるであろう品物を入手しましたので、もしよければ見ていただけないかと」
「品物?貴方商人だったの?」
「商人では無いですが、まぁ似たようなものですね」
俺の言葉に、赤髪の女性は物凄く疑わしい目でこちらを見ていた。
それもそのはず。彼女たちは周辺地域では有名な冒険者の一団だからだ。女性だけの冒険者チーム、それだけでも話題を呼ぶがそれに加えてかなりの実力者ともなれば、街の有力な商人や貴族から声をかけられることもあるだろうし、俺のような名も知らぬ第三者が関係を持とうとして接触してこようとするのは多いんだろう。
実際に、眼の前に居る女性も、またかといった様子で見ているのが見て取れた。
「残念だけど、私たちはこういうのお断りしているの、残念だけどね」
「いえ、それは仕方のないことだと思います。ですが、これはまず間違いなく興味を惹くものだと思いますので、黒姫様にこの小包を届けてください・・・・・・もし、興味が無ければ捨てて貰っても構いませんので」
この場において彼女と直接会うことは無理だろうな・・・・・・と、俺は目の前に居る女性の雰囲気からしてわかった。なので、一応念のために持ってきたゆめ恋の第一巻と女性向けのファッション誌が包まれた小包を渡して店を去る。
もし、興味があれば明日の夜、黒姫たったひとりで指定する宿まで来るように・・・・・・と書かれた手紙を同封して。
「・・・・・・なんだったんだアイツ」
王都へ向かう為に必要な物資の補給の手配をしていたら、いつの間にか約束の時間が迫っていた。
私が急いで支度をして店へ到着した頃には、既に周囲は暗くなっており、街にも仕事終わりの住民たちが各々憩いの場に向けて歩いていた中で、目的地である店の前で不審な動きをする男を見つけた。
その男は、身長が高く体型もがっしりとしているが、雰囲気からして冒険者や警備隊といった類の人間では無いように思える。
その男の手には、茶色の包み紙で梱包された荷物があり、店のドアに張り出された紙を見て困っている様子だった。
(配送人か?)
誰かがエラクトンの街で買い物をし、その買った荷物を届ける人間かと私は思った。でなければ貸し切りの張り紙が出されている店の前で立ち止まる必要は無いだろう。
「店の前で立ち止まって・・・・・・どうしたの?」
なので私は声を掛けた。見知らぬ土地でメンバーが何かしら買い物をしたということはあまり無いと思うけど、何かあるかもしれないと思い、店の前に立つ男に話しかけた。
「すいません、店内の人に用事があってきたのですが、どうも貸し切りだったようで――――――――――――――」
結果からすれば、店の前に立っていた男はよく見かけるような人間だった。
最近では、幾つものダンジョンを制覇した事もあり、やたら関係を築こうとしてくる冒険者や商人、貴族が多かった。
基本的に、私達の団はこれら勧誘を一切断っている。
だがしかし、男は黒姫――――――団長であるシズクが絶対興味を持つという物を持ってきたと豪語しており、興味がなければそのまま捨てていいと言われ、半ば強引に男が持っていた小包を渡された。
団長のシズクに渡せ、そう言われたがこの小包に何が入っているかも分からないので、そのまま見せずに捨てようと思った。
カランカラン
「お、やっときたじゃん、アイナ」
店のドアを開け、ドア鈴に反応した褐色肌の女性―――リュミエールが私の方を見て手を挙げ挨拶をした。
リュミエールは店のドア前で待機しており、万が一を備えて鎧を着込んで武器を携えている。既に幾つか軽食を挟んでいるみたいだけど、お酒は飲んでいないらしい。
「ん?なんだその荷物」
「これね、店の前に居た不審者から無理やり渡されたの・・・・・・団長宛てだって」
私は脇に抱えていた小包を手に取り、リュミエールに見せてみる。無理やり渡されたと私が言った瞬間、少し眉を潜めた顔をしていたものの、彼女はスンスンと小包の臭いを嗅ぐと、私が手に持つ物がそこまで危険性のあるものではないと判断したようだった。
「毒物の類では無いよ、一応団長に渡したら?」
「うん、そうする」
リュミエールは、鼻が良い・・・・・・それこそ、嗅覚が優れていると言われる狼系のモンスターよりも鼻が良く、臭いで物の種類を判別出来るほどだ。
だからこそ、今回の食事会でも警護の任を任されたのだろう・・・・・・エリアへ出るの際にも、彼女はその優れた嗅覚を生かして斥候の役割を果たしていたりもする。
そんな彼女のお墨付きをもらい不審な男から貰った荷物を、店の中心に居た黒髪の少女、暁月の旅団の団長であるシズクに渡した。
「・・・・・・なにこれ?」
「貴方宛に、だって」
店に入って、既に食事を始めているメンバーと軽く挨拶を交わしながら、シズクの下へ向かい、目的の荷物を渡した。
「開けていいの?」
「良いんじゃない?もし興味が惹かれれば返事を来れって言ってたよ」
私達の団長であるシズクは、神子と呼ばれる選ばれし人間だ。
その特徴として、この国ではまず見ない美しい黒髪を靡かせ、まるで荒事を知らないような手弱女のような見た目でありながら、怪力として知られるグインベアを殴り合いで殺せるような力を持つ。
しかし、性格は冷徹そうな見た目に反して心優しい少女だ。
口数も少なく、見た目の雰囲気も相まって団員以外からは恐れられているものの、流行り好きの街の女のように、流行には敏感で、団で統一されたハイセンスな見た目の装備も彼女がデザインを手掛けている。
他にも、貴族のように読書が好きだったり、音楽が好きだったりと色々あるが、最近では彼女が率いる暁月の旅団も規模が大きくなり、以前に比べて趣味を楽しむ事も少なくなった。
・・・・・・いや、正しくは飽きてしまったのだろう。
シズクは全く期待した様子もない雰囲気で、渡した小包の薄い包装紙を破き、中身を見る。
「なにこれ?」
無駄に質の良い包装紙を破いて出てきたのは、恐ろしく写実的に書かれたオシャレな服装をした女性が表紙の本に、何やら異国の文字で書かれている童話?に似た本だった。
「・・・・・・団長?」
珍しく、不思議な物ではあるものの・・・・・・本当にこれが団長の興味を惹くものだろうか?と私は疑問を浮かべた。
しかし、団長のシズクは不思議な本を手に取るとこれまで見たことのない表情をして、私の方を見てくる。
「アイナ、この荷物を渡してくれた人を教えて!!」
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