プロローグ 姉にフラれた2

 私は貴女の前では強く、カッコイイ女でありたいんだから。


「春雨は……普通の人生を歩みたいんだね」


 寂しいよ。辛いよ。


 あれだけ愛し合ったのに。


 私たちの関係は永遠だと信じていたのに。


 胸を締め付ける苦しみを堪えて、俯きながら、

「わかった。別れよう」

 貴女がそれで幸せになれるなら、私はこれから独りで生きていく。


 返事がないから顔を上げてみる。


 なんて顔をしているの。


 驚いたように目を丸くして、口をポカンと開けて。

 間抜け面よ。

 そんなところも可愛くて、好きだった。


 今はもう口にだせないけれど。


「私、夕方まで外で時間をつぶしてくるから、その間に荷物をまとめてね。時間が足りなかったら、また今度私がいない間に取りに来て」

 4月から、私がなんの授業を履修しているか知ってるでしょ。


 相変わらず返事はない。

 まだ間抜け面を晒しているのかもしれない。


 でも、もう同じ空間にいられない。


 別れたくない。これからも傍にいて。

 我が儘が、涙と共に零れだしてしまいそうだから。


 キッチンに置いていた部屋の鍵を手に取り、

「それじゃあ……元気でね」


 別れも、私たちは大学で顔を合わせる。

 ほとんど同じ授業を受けているから。


 だけど、声をかけることはないんでしょうね。恋人でなくなった私たちは、友達には戻れないのだから。


 少なくとも今は。


 玄関のドアを開け、空を見上げる。


 私の心模様とは正反対の空に何故だかホッとして、堪えていた涙が頬を伝った。


 貴女は私との人生を諦めた。

 私は貴女の希望になれなかった。


 静かにドアを閉めて、頭の中を駆け巡り続ける春雨との思い出に蓋をする。


 これからきっと家に戻る度に貴女との日々を思い出すんだろうけど、時間が解決してくれるはずだ。


 服の袖で涙を拭って一歩踏み出す。


 大きい喧嘩をしたことない私たちの甘く夢のような3年間は、こうして幕を閉じた。

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