数学の不思議

維 黎

遺言のラクダ

 新宿歌舞伎町に伝説的なホストクラブがあった。


 店名は”PANTHERパンサー


 経営者オーナーはホスト時代に数々の逸話を残して伝説となったホスト。

 一日で1億5千万を売り上げた。

 三日で600人の女性を相手にした。

 30ヵ国語を話し、どんな国の女性にも接客が出来た。

 飲み比べのイベントでテキーラのボトルを一晩で60本空けた。

 ウィンク一つで寝たきりの老婆をクラブ通いにさせた。

 スプーン曲げが出来た。

 猫と会話が出来た。

 書道三段。

 珠算二級。

 タロット占いが得意。

 幼稚園の時に箸の使い方が上手と褒められた。


 そんな数々の逸話を持つホストが開いた店”PANTHERパンサー”に集まって来た者たちも超が付くほどの人気ホストで、他店を圧倒する売上を誇っている。

 ちなみにこの店独自の呼び名として接客をするキャスト――ホストのことを”タイ”と呼ぶ。

 これはネクタイの”tie”からの引用で、”女性客がキャストに首ったけになる”という隠語を含んでいることからそう呼んでいる。

 ”PANTHERパンサー”はオーナーをトップとして3人の幹部タイがいて、その下に売上が特に高いNo.1からNo.17までのナンバークラスのタイがいる。さらにその下には十数名のタイが控えていた。


 今、”PANTHERパンサー”のホールに三幹部とナンバークラス17人が揃っている。


「傾聴ッ!! これよりオーナーからの遺言を読み上げる!」


 幹部タイのリーダ―格が果たし状を受け取ったかのように、折りたたまれた手紙を目の高さで広げて読み上げていく。


『あ~。ちょっちゅ、わし。今インドに自分探しさ来とるんだわ。そんでさ。”PANTHERパンサー”閉めることにしたんだわ。でさ、でさ。のれん分けって訳じゃないんだけんども、幹部にはそれぞれ独立してもらって、うちの店のタイを任せたいと思うんだわ。で、ナンバークラスの半分を第一幹部に、三分の一を第二幹部に、九分の一を第三幹部に任せようと思っちょるのよ。他のタイはてけとーに分配しちゃってええがよ。よろしくたのむぜよ


         ~ジャカルタの青空より愛を込めて~』


「――以上だッ! これよりオーナーの遺言通りに幹部にナンバークラスを振り分けるッ! 異存はないなッ!!」

「押忍ッ!」


 ジャカルタはインドじゃなくインドネシアだとか、オーナーは生きてるから遺言じゃないだろとかのツッコミは無し。


「でもよ、第一幹部。どうやってナンバークラスを分けるんだ?」

「どうやってもこうやってもあるか、第二幹部。オーナーの遺言通り、ナンバークラスを俺に半分、お前に三分の一、第三幹部に九分の一に分けて分配するだけだ」

「でもよ? ナンバークラスは17人だぜ? 遺言通りに割り切れねぇぞ?」

「む? ……なるほど。確かにそうだな。17人の半分は8.5人になるな。一人、上半身と下半身にぶった切ってわけるか?」

「いやいや。無茶言うなよ。それはダメだろ」

「確かに第三幹部のいう通りだな。なら、左右半分にぶった切ってわけるか?」

「いやいや。なんでそう、ぶった切るんだよ」

「むぅ。ぶった切れないならどうしろというのだ」

「だからどうするかって聞いたんじゃねーか」


 ババーン!!


 突然のと共にホールに現れたのは薄汚れたツナギ服の男。


「あっしにいい案がありやすぜッ!」

「なんだお前は? 見かけない奴だな」

「あっしは清掃係ですよ、第一幹部の旦那、へっへっへっへ」

「その清掃係がなにようだ?」

「ちょいとしたことで、分配のお悩みを解決出来るんでさぁ」

「ほう? 申してみよ」

「その前にお代官さま。あっしをナンバークラスに加えて頂きたいんでやすが」

「なに!? 清掃係風情をか! たわけたことを申すなッ!」

「いえいえ。これは必要なことなんですよ。あっしをナンバークラスに加えて頂ければ見事解決してご覧にいれやす」

「――食えぬ奴よの。いいだろう。貴様をナンバークラスに加えてやる。見事、事を成し遂げてみよ」

「ははぁ。では――」


 何故か作者だれにも分からない内に、お代官様のノリになっていたが、清掃係が並んでいる17人に加わり、ナンバークラスは18名となった。


「それじゃぁ、遺言書通りに分配してみてくだせぇ」


 清掃係の声で18名を分配していく。

 まず第一幹部に半分の9人。

 次に第二幹部に三分の一の6人。

 最後に第三幹部に九分の一の2人。


 これで綺麗に遺言書通り


「あ、あれ? あっしは? あっしは誰が引き取ってくれるんで?」

「遺言通り無事に分配出来たからな。お前はもう必要ないな。新しい店の清掃係はすでに別の業者に委託済みだから、お前はクビだ。ご苦労だったな」

「そ、そんなぁ!」


 


 清掃係ははしてないが自分の首を絞めてしまったというお話。




――了――















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

数学の不思議 維 黎 @yuirei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説