数学の不思議
維 黎
遺言のラクダ
新宿歌舞伎町に伝説的なホストクラブがあった。
一日で1億5千万を売り上げた。
三日で600人の女性を相手にした。
30ヵ国語を話し、どんな国の女性にも接客が出来た。
飲み比べのイベントでテキーラのボトルを一晩で60本空けた。
ウィンク一つで寝たきりの老婆をクラブ通いにさせた。
スプーン曲げが出来た。
猫と会話が出来た。
書道三段。
珠算二級。
タロット占いが得意。
幼稚園の時に箸の使い方が上手と褒められた。
そんな数々の逸話を持つホストが開いた店”
ちなみにこの店独自の呼び名として接客をするキャスト――ホストのことを”タイ”と呼ぶ。
これはネクタイの”tie”からの引用で、”女性客がキャストに首ったけになる”という隠語を含んでいることからそう呼んでいる。
”
今、”
「傾聴ッ!! これよりオーナーからの遺言を読み上げる!」
幹部タイのリーダ―格が果たし状を受け取ったかのように、折りたたまれた手紙を目の高さで広げて読み上げていく。
『あ~。ちょっちゅ、わし。今インドに自分探しさ来とるんだわ。そんでさ。”
~ジャカルタの青空より愛を込めて~』
「――以上だッ! これよりオーナーの遺言通りに幹部にナンバークラスを振り分けるッ! 異存はないなッ!!」
「押忍ッ!」
ジャカルタはインドじゃなくインドネシアだとか、オーナーは生きてるから遺言じゃないだろとかのツッコミは無し。
「でもよ、第一幹部。どうやってナンバークラスを分けるんだ?」
「どうやってもこうやってもあるか、第二幹部。オーナーの遺言通り、ナンバークラスを俺に半分、お前に三分の一、第三幹部に九分の一に分けて分配するだけだ」
「でもよ? ナンバークラスは17人だぜ? 遺言通りに割り切れねぇぞ?」
「む? ……なるほど。確かにそうだな。17人の半分は8.5人になるな。一人、上半身と下半身にぶった切ってわけるか?」
「いやいや。無茶言うなよ。それはダメだろ」
「確かに第三幹部のいう通りだな。なら、左右半分にぶった切ってわけるか?」
「いやいや。なんでそう、ぶった切るんだよ」
「むぅ。ぶった切れないならどうしろというのだ」
「だからどうするかって聞いたんじゃねーか」
ババーン!!
突然の口果音と共にホールに現れたのは薄汚れたツナギ服の男。
「あっしにいい案がありやすぜッ!」
「なんだお前は? 見かけない奴だな」
「あっしは清掃係ですよ、第一幹部の旦那、へっへっへっへ」
「その清掃係がなにようだ?」
「ちょいとしたことで、分配のお悩みを解決出来るんでさぁ」
「ほう? 申してみよ」
「その前にお代官さま。あっしをナンバークラスに加えて頂きたいんでやすが」
「なに!? 清掃係風情をか! たわけたことを申すなッ!」
「いえいえ。これは必要なことなんですよ。あっしをナンバークラスに加えて頂ければ見事解決してご覧にいれやす」
「――食えぬ奴よの。いいだろう。貴様をナンバークラスに加えてやる。見事、事を成し遂げてみよ」
「ははぁ。では――」
何故か
「それじゃぁ、遺言書通りに分配してみてくだせぇ」
清掃係の声で18名を分配していく。
まず第一幹部に半分の9人。
次に第二幹部に三分の一の6人。
最後に第三幹部に九分の一の2人。
これで綺麗に遺言書通り17人を分配出来たことになる。
「あ、あれ? あっしは? あっしは誰が引き取ってくれるんで?」
「遺言通り無事に分配出来たからな。お前はもう必要ないな。新しい店の清掃係はすでに別の業者に委託済みだから、お前はクビだ。ご苦労だったな」
「そ、そんなぁ!」
清掃係はタイはしてないが自分の首を絞めてしまったというお話。
――了――
数学の不思議 維 黎 @yuirei
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