私はラブコメがしたい!

ねこ太郎

プロローグ 出会い

 容姿端麗、品行方正である私、小鳥遊未来たかなしみらいは自他共に認める才色兼備な女である。

 街を歩けば誰もが二度見してしまう可愛さに加えて電車で率先してお年寄りに席を譲っている。まさにperfect girlな私。

 そんな私には夢がある。

 

 それは——ラブコメがしたい!


 そして今日、念願叶って私好みのイケメン男子が我がクラスに転校してくるらしいではないか。


 え?なんでそんなことが分かるのかって? 

 そんなの担任の先生にちょこっとお願いをして転校生についての顔と名前、住所を聞いただけである。決してエッチなお店から出て来たところの写真を見せつけて脅したわけではない。


 という事で今、次の十字路を曲がったら転校生とばったりぶつかる場所に到着した。


 食パンを咥え、後はあの常套句を言えば完璧。

 ここまで長かった——。滝行に坐禅、百度参り。全てをこの時のためだけに行なった。 

 神様……今まで貯めた徳をここで使います。


 未来いっきまーす!


 「いっけない、いっけない、遅刻遅刻ー!」


 

 ——ドスン。


 勝った。これで私の青春ストーリーが始ま『ビチャ』る……。ビチャ?


 「大丈夫!?急に人が来ると思っていなくてラーメンが君にかかっちゃった、ごめん」


 ラーメンがかかってしまった? ちょっと待って、なんで私の頭にラーメンが被ってるの?今どういう状況?


 「ごめん、熱いでしょ?今ハンカチで拭くから少し待っててくれる?」


 「——全然熱くないから大丈夫、多分外だから少し冷めちゃてたのかも。でも心配してくれてありがとう。頭は自分で拭くから大丈夫だよ」


 この状況でよく返事できたな私。

 というか制服どうしよう、ビチャビチャなんだけど。ベスト着てるから透けては無いだろうけど、一回家に帰ったほうがいいかもなぁ。


 「本当にごめん、この町にまだ来たばっかりでこの通学路に慣れていないんだ」

 

 こうなった原因はそれじゃねーだろ。どう考えてもラーメンを歩き食いしてるからだろ。


 「全然大丈夫、私も走ってて前を良く見てなかったからごめんなさい。でもなんでラーメンを食べながら歩いてたの?」


 「この町に来たばっかって言ったでしょ。 それで、今日が転校して初登校の日なんだ。だから、緊張して安心するために大好物のラーメンを食べて行こうって思ったんだ」


 「そうなんだ、緊張すると美味しいもの食べたくなるもんね」


 「そうなんだよ、やっぱラーメンが1番美味しいね」

 いや、意味わかんねーよ。

 普通緊張したら食べ物が喉通らなくなるだろ。

 百歩譲って食欲が湧いてきても、おにぎりとかパンとか軽く食べれるやつ食べでしょ。通学中だよ。何?ラーメンって。一番向いてないでしょ、食べながら歩くの。


 「あれ?もしかしてその制服は青春青春学園の制服?」

 

 「よく分かったね、そうだよ。私も青春あおはる学園なの」


 「やっぱり!良かった、同じ高校の人に会えて。知らない人ばかりで不安だったんだ。でも、君みたいな優しい人が居るなら心配いらないね」


 まってやばい……笑顔が可愛いんだけど。普段も好青年感が強くてかっこいいのに笑顔も可愛いって、素晴らし過ぎか。

 

 ハ!?…もしかしてこれは、「あの二人って美男美女ですごくお似合いだよねー」ていう噂話が聞けるんじゃない?

 それができるだけでちょっと残念でも許せる。それすらも可愛いとさえ思えてきた。


 「じゃあ、私制服を着替えるために一回家に帰るね。葵君・・も初日だから早めに学校行ったほうが良いんじゃない?」

 

 「そうだね、本当に制服汚しちゃってごめん。今度何かお詫びさせて。それじゃ、また学校で」


 私は彼の背中が見えなくなるまで手を振り続けた。

 いやー、良かったんじゃない?偶然を装えてた気がする。第一印象も悪くなかったと思うし演技も完璧だった。私女優になれるかも。


 ——あれ?そういえば葵君が歩いて行った方向、学校と逆じゃない?


 「あれ、そう言えば僕の名前あの女の子に言ったっけ?まぁいっか、それよりも学校どこだろう?迷子になってしまった。——あ!あそこに人発見。あの人に聞いてみよう」

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私はラブコメがしたい! ねこ太郎 @nekotarou_nya

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