幸せを求める少年少女へおくる5分

星あかり

第1話

 もう嫌だ。生きてることに幸せをかんじない。

 少年は一人、ベットの中で布団にくるまっていた。何となく、いつも胸の内を不安が燻っている。何かはわからない。わかっているのは、将来への不安だということだけだ。何をすればいいのかわからない。俺は人を幸せにしたいと思ってきた。いや、今も思っている。

 医者になろうと思ったことがある。大変だとは思うがやりがいはあるだろうし、人を直接的に助けられるから。だけど、諦めた。俺は血を見ることが出来ないから。人に針を刺すのが嫌なんだ。それでその人が助かるとしても、その人を傷つけるという行為を本能的に拒絶してしまう。

 警察官になろうと思ったこともある。彼らは子供が憧れる正義の象徴だし、警察官になれば多くの人を日常的に守っているから。だけど、諦めた。家族が心配するだろうから。実際に親族に警察官がいる訳では無いからわからないけど、俺だったら身近な人に危険なことはして欲しくない。もし俺が死んだら、俺の家族は少なくとも三ヶ月は立ち直れないだろう。それくらい、家族が俺を愛してくれているのはわかっているつもりだ。家族には随分迷惑をかけている。別に、特別何か迷惑をかけた覚えは無い。ただ、自分がそう感じてしまうんだ。


 俺の家は金銭的にあまり余裕が無い。俺は四人家族で、ひとつ年上の兄貴がいる。兄貴は今大学3年生で、就活の真っ最中だ。プログラマーになるって小さい頃から言っていて、大学ではプログラミングを学んでいるらしい。宿題が多いけど、楽しいよって笑顔で話してくれたとき、すごいなって思ったんだ。俺にはまだ将来の夢が決まってないから。やりたいことが決まっていて、真っ直ぐ目標に向かって努力している人を見ると、いつもどうしようもない不安が襲ってくる。俺は大学で経営学を学んでいるが、だからといって経営者になろうと決めたわけじゃない。経営学は社会で生きていくための実践的なことを学べるから、どの道にも行けると思って専攻したんだ。俺はやりたいことが分からない。いや、あるはあるんだ。それも、昔から変わらない、明確なやりたいことが。でも、抽象的すぎるんだ。


 俺の夢は、人を幸せにすること。


 もっと言うと、俺の身近にいる人を幸せにすること。人の笑顔が好きなんだ。俺の行動で笑顔が生まれた時、ああ、幸せだって感じる。もっと周りの人を笑顔にして、もっと周りの人を幸せにしたい。でもさ、幸せって人それぞれだろう?何をすればいいかわからないんだ。

 だから今、俺はこうして布団を被って丸まっている。大学に入って二年がたった。でも、未だに自分が何がしたいのかわからないんだ。部活やサークルには入ってない。多分、入りたいって言えば両親は笑顔で「いーじゃん、やりなよ」って言ってくれる。でも、俺は入らない。だってお金がかかりすぎるから。私立の大学に行かせてもらってるだけでもありがたいのに、これ以上親に負担はかけたくない。俺の親は優しいからさ、こんなことを日頃から考えてるって知ったら、悲しむだろうなとは思ってるんだけど。俺は残念なことに色々考え込んじゃう面倒くさいタイプなんだ。オマケに気づきたくなかった事まで気づいてしまうから嫌なんだ。お母さんの靴がボロボロになってるのだって気づいてるよ。そして、なんで買い替えないでそれを履き続けてるかもね。

 もう、こんな大切に育ててもらってるのに将来をしっかりと決めてない俺自身に、俺が耐えきれないんだ。つらい、変わりたい、でも何をすればいいかわからない。




 " 君も、そう思ったことはあるだろう? "



 声がしたんだ。俺を、心を貫く、強く、厳しく、暖かい声が。


「人を幸せにしたい?じゃあ君が幸せになれよ。」


 何言ってるんだ、って思ったよ。


「君が幸せになることが、君の身近な人の幸せだと考えたことはあるかい?」


「君は知ってるんだろう?君が愛されてることを。ああ、否定はするなよ。というか、否定することは許さない。断言しよう、君のそばにいる人は君のことを愛している。これは事実だ。」


「人を幸せにしたいなら、自分のやりたいことを好きなようにやれ。思う存分、自分を楽しめ。妥協は許さない。必要なら迷惑もかけろ。迷惑をかけてでも自分の幸せを優先しろ。」


「何をそんなに迷う?どうして迷惑だなんて思う?人に与えてもらうことはその人に迷惑をかけることだと思っているのか?とんだ勘違いをしているんだな。じゃあなんだ、お前は人に何かしてあげたことはないのか?誰かにプレゼントを渡したことは?友達を手伝ったことはないのか?」


「まあ、でも人に何かを与えると自分に迷惑がかかると思ってる奴は、そんなことしたことなくて当然か。プレゼントなんか渡しても必ずしも自分に得があるとは限らないからなあ。まして、友達の手伝いだなんて絶対にしたくないよな。」


 " でも、君はしたことがあるだろう?"


「なあ、どうして君はその人にプレゼントをあげたんだ?どうしてあの時、手伝いをしたんだ?」


「答えは一つだろう?相手が喜ぶからだ。笑顔が見れるからだ。迷惑だなんて、勝手に決めるな。」


「覚えておけ。幸せは幸せを呼ぶんだ。誰かの幸せは、誰かの幸せになる。お前の幸せも、必ず誰かの幸せになる。自分の幸せのための行動に罪悪感を抱くな。それは誰かが幸せになるための行動に罪悪感を抱くのと同じことだ。」


「人の幸せを望むのなら、お前が笑え。全力で笑え。それがお前を育てた家族の幸せであり、先生、親友、知り合い、君が食べたものを作った人の幸せだ。」


「わかったかい?迷える少年少女どもよ。何度でも私は繰り返す。迷ってもいい。が、必ず自分が幸せになる道を選びなさい。その道には必ず、幸せになるために君を待っている誰かがいる。」



 目が覚めると、いつもの布団の中だった。

 でも、なんだか世界が変わって見えた。



 俺のストーリーが今、始まった。


 誰かのストーリーと共に。

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