土小屋遥拝殿での激闘

 来たのはきっちりスーツを着込んだ三人の男。見るからにガッチリしてるけど、


「ちょっと付き合ってくれるか」


 なんだよいきなり。


「怪我はしたくないだろう」


 白昼堂々、脅迫する気か。清水先輩は、


「あなた方は小出雲大臣のSPか。同行を求めるなら根拠を言え」


 SPとは要人警護のための警察官だ。大臣護衛のためにいるのだけど、警察官なのがポイントかな。警察官が理由もなしに善良な市民を理由もなく同行など出来ないはず。


「SPは大臣のクルマに乗り込んでいる」


 えっとえっと、こいつらはSPじゃなく小出雲大臣の私的なガードマンなのか。だったらなおさらこんな脅迫をすること自体が犯罪だ。


「大臣とは関係ない応援団だ」


 なんだよそれ。ファンクラブみたいなものか。


「マスコミの勝手な撮影は許さない」


 あのね、撮影したの土小屋テラスの前の駐車場だ。どこに撮影禁止なんて書いてあったのよ。大臣がいたのはそっちの勝手だ。清水先輩は問答しながら微妙に位置を変え双葉を庇うような態勢にしてくれ、


「水無月君、話し合いでは終われそうにない」


 どう見たって力尽くで来そうだ。これでも記者なの。そんな暴力に屈するものか。それにね、清水先輩は強いのよ。これぐらいの連中ぐらいと言いたいけど、スーツ男たちも強そうだし三人もいる。清水先輩はさらに、


「あいつら白羽根警備だ」


 それって日本最凶の警備会社じゃない。


「たとえ命に代えても水無月君は守ってみせる。だからチャンスがあったら土小屋テラスに逃げて助けを呼んでくれ」


 先輩、命って・・・そしたらスーツ男が、


「仕方がない、ちょっと痛い目にあってもらう」


 そう言われるや否や先輩に殴りかかってきた。


『ドスン』


 あれ、相手が倒れてる。それでも起き上がってきて、


「油断した。素人じゃないな。まさかカウンターを繰り出してくるとは」


 なんだ、なんだカウンターっで。居酒屋の横に長いテーブルじゃないよな。でも清水先輩が良かったのもここまで。相手は三人だし、喧嘩慣れもしてるとしか思えない。先輩は防戦一方に追い込まれ、


『ドスン、バスン』


 聞くからに痛そうなパンチやキックをもらってる。そしたら先輩は突然相手に突進し、


「今だ、逃げろ」


 一目散に鳥居をくぐり階段を駆け下りたのだけど、


「どこに行くつもりだ」

「大人しくしろ」


 ガビーン。あいつら三人じゃなくて五人だった。二人は石段下にいて、遥拝殿に邪魔者が入らないようにしていやがった。あっさり捕まった双葉は泣きながら、


「助け・・・」


 口を塞がれてしまった。もうダメだ。先輩だって双葉を守りながら戦って限界なのに、双葉がここで止められてしまったら・・・なにがどうなってるの。ここは日本だよ。それも真昼間の土小屋テラスのすぐ傍じゃない。


 そんなところでマフィアみたいな連中に襲われるなんて映画の設定でもあり得ないでしょう。そんな双葉の涙に濡れる目に見えたのが赤と黄色の小型バイク。それもこちらに向かってくる。あれって、もしかして、コトリさんとユッキーさん。


 ま、まずいよ。遥拝殿の参拝のためだと思うけど、このままじゃ巻き添えになってしまう。双葉はスーツ男の手を振り解こうと懸命になった。こっちに来たらダメ。テラスに助けを求めに行って。でも体は振り解けそうにない。どうしたら、どうしたら、双葉は口を思いきり大きく開けて、


『ガブリ』


 男の手に噛みついてやった。


「なにしやがるんだこのアマ」


 スーツ男から逃げ出したけどすぐに捕まり、


「こっちに来たらダメ、助けを呼んで」


 なんとかこれだけ叫べた。でも二人は来るじゃない。どうして、どうしてよ。バイクから下りて来た二人は、


「双葉さんやないか」

「もうだいじょうぶよ」


 あれ男から手を放された。


「どうしたんや」


 先輩が境内で乱闘中って話すと、


「ユッキー、ここは任せた」


 コトリさんは石段を駆け上がり、しばらくすると殴られて顔が腫れあがった清水先輩を抱きかかえるように下りてきた。ふと見ると双葉たちを襲ったスーツ男たちは身動きもせずに立ち尽くしていた。先輩は石段下まで来て双葉の顔を見て、


「無事だったのか。良かった・・・」


 それだけ言うと崩れ落ちた。


「先輩、先輩!」


 先輩が、先輩が死んじゃう。ユッキーさんは先輩の体を手慣れた感じで調べて、


「骨は大丈夫みたい。打撲だけよ。バイタルも問題ない」

「ここまで気力で来たんやろ。双葉さんの顔を見て気が緩んだみたいや」


 先輩はね、もっともっと強いのよ。だけどアイツらは双葉も襲ってきた。先輩は双葉を庇いながら戦ったんだ、そうだよ、双葉を庇ったばっかりにどれだけパンチやキックを喰らったか。


 双葉さえいなければ、双葉が足手まといにならなかったら、こんな連中ぐらい先輩なら勝てたはず。先輩の怪我はすべて双葉を守ろうとして出来たもの。みんな双葉が悪い。


「アホ言うな。悪いんは襲ったこいつらや。清水さんがおらんかったら」

「拉致されてたね」


 ユッキーさんが指さしたところには黒塗りのワゴン車が。それから二人は先輩の手を取りながら、


「この満足そうな顔を見てみい。これは双葉さんを守り抜けたからや」

「そうじゃなかったら、ここまで頑張れないよ」


 ゴメン、本当にゴメン。


「これやったら救急車はいらんな」

「ちょっと痛いけどバイクぐらい運転できるはず」


 しばらくしてなんとか意識が戻ってくれた。


「水無月君、無事でよかった。オレがいながら悪かった」


 先輩は何も悪くない。先輩がいなかったら双葉はどうなっていた事か。でもどうしてここまで、


「仕事仲間じゃないか。最高の相棒のためだったら、これぐらいは当たり前だ」


 どこがだよ。双葉は先輩に取りすがってワンワン泣いた。


「ユッキー、意外やったな」

「あらそう、コトリに見えてなかった方が不思議だ」


 なんの話。


「清水さんは男の中の漢や」

「気づいておやりよ。もっとも、どうするかは双葉さん次第だけど」


 えっ、なんの話。


「男がな命を懸けても守りたい者はなんやってことや」

「男が漢である証を立てたのが見えるでしょ」

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