第29話

次の新しい家主は父方の従兄弟の御堂みどう家だった。子供はおらず広い戸建てに住み、事業も順調のようだった。

 この時、父方には事業をしている者が多いと言っていた。血筋でそのような才に恵まれているようだった。

 母方の壮太の家は事業者ではなかったが、かなりの年収はあった。でなければ孤児を引き取りはしない。その点ではマリアは恵まれてはいた。

 マリアは二回の不運に見舞われた美少女。それが同情にプラスされた彼女の価値。可哀そうな人間を囲うことによって、自己を満たす。それが新しい家の特徴だった。

「本当、マリアちゃんは可哀そうな子。神様が嫉妬しているのかしら」

「そうだな。天使みたいに愛らしい子だからな」

 御堂夫婦は可哀そうな子とよく言っていた。

 天使は神様の使いだと、あの父親が言っていたのを思い出し一瞬、目の前が暗くなる。

 この時すでに、自分の何かしらの力で両親が悲惨な死に方をし、壮太の手を切ったと自覚はしていた。ただその原因がマリア自身でも分ってはいなかった。

 御堂夫婦は、マリアに対して至れり尽くせさりだった。周りから見ると、まるで夫婦が従者みたいに見えたかもしれない。

 買い物に行っても、少し目を止めた商品をいつの間にか買っていて、「これ欲しがっていたでしょ?」と妻の美和がプレゼントをしてくれる。

 別に欲しくて眺めていたんじゃなくて、たまたま視線を休ませていただけだったから、手渡された物を見て困惑する回数も増えていった。

 マリアが今までの経緯を考えていると、気づいた美和はマリアが哀しんでいると勘違いをして、「私たちがいるから大丈夫よ」と抱き寄せた。

 マリアが肯定も否定もせずに、流されるがままに身を任せていた。

 御堂家に来て二ヶ月が過ぎた頃だった。

 家にも新しい学校にも慣れ、三島(みしま)麻衣(まい)という仲のいい新しい友達もできた。

 麻衣とは気が合って、学校が終わってもよく遊んでいた。だからお互いの家を行き来するのは、自然の成り行きだった。

 麻衣の家は学校の帰り道にあって、その日は先に麻衣の家に一緒に寄ってから鞄を置いて、マリアの住んでいる家で遊ぶことになっていた。

 家に帰るとは美和は友達と出掛けていて、出迎えてくれたのは不規則な仕事をしていた徹だった。

 二人には子供がいなかったから、マリアの友達をいつも心良く出迎えてくれる。

「いらっしゃい。麻衣ちゃん」

 徹はいつも小奇麗な格好をしていて、麻衣は「カッコいいお父さんだね」と見るたびに言っていた。

 麻衣には両親が死んで、引き取ってくれたのが御堂夫婦と話していたが、いつもマリアちゃんのお父さんと言っていた。

 与えられたマリアの部屋は、壁、箪笥、ベッドは白で揃えられ、カーテンは薄いピンク。箪笥も四本の猫足の作りのもので、麻衣はいつもお姫様の部屋みたいとはしゃいでいた。

 部屋には、御堂夫婦が買ってくれた人形が並んでいた。

 マリアは人形が特に好きな訳ではなかったが、二人が嬉しそうにプレゼントしてくれるから、二人の笑顔に乗って「ありがとう」と返してした。

 マリアの態度で勘違いをして、御堂夫婦が買ってくれた五体ほどのバービー人形と縫いぐるみがたくさん飾ってあった。

 マリアとは反対に麻衣は人形が好きで、勝手に名前を付けては髪を梳かしたりして、マリアを人形遊びに誘ってくる。

 扉がノックされると、お盆にジュースを乗せた徹が入ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る