第6話
日が経つにつれ鳥坂の記憶は薄れ始め、蜃気楼のようにいつ消えてもおかしくない程になっていた。
その日は、キャバクラでのボーイの仕事が急に入ったため、昼に別の依頼を終えてから直接、店に入った。
店長は、季節外れのインフルエンザに掛かったとかで、数人が一気に倒れたと愚痴ってきた。店自体は中規模だったが繁盛して、引っ切り無しに動き回っていた。
深夜零時頃から女たちは、客の尻を叩くように動き出す。中にはそのままアフターという女もいた。
「今日は助かったよ。後はうちでやるから」
店長が鳥坂に声を掛けてきた。
「いいんですか? 手伝いますよ」
「ああ、いいよ。でもまた何かあったら頼むよ」
そう言って鳥坂に封筒を渡すと、後片付けに取り掛かった。
この日鳥坂は、店でただ酒にありつけるかと思っていた。しかしアテが外れた。今から店を探すのも億劫になったので、そのまま家に帰ることにした。
時計を見るとまだ終電に間に合う。彼はエプロンをカウンターに置き、急いで店を出た。
外の空気は店の中に比べると都会とは言え、ミネラルウォーターのように新鮮で美味いと感じる。
店内には女が付けている香水と、煙草が混ざり毒ガス室のみたいなものだ。学生の頃にもボーイをしていたが、どうもあの混在した空気は苦手だった。
最寄の
鳥坂は改札を抜け、マンションに向かって歩き出す。
駅から家までは幾つか道順があるが、だいたいは駅前にある商店街を通り抜ける。アーケードの電気は数メートおきに消されてはいるが、夜道よりはかなり明るい。
商店街を突っ切ると、手の指が広がったみたいな道が別れている。向かって一番右の道は短くその先にはバスが通る車線があった。鳥坂はその長さから左手のようだといつも思っていた。
鳥坂の通る道は向かって左から二番目、薬指にあたる道だ。そこからが住宅街になっている。
周りは静かで暗い。たまに部屋の明かりが点いている窓もある。空気はまだ少し冷えるが、匂い当たりしている彼の顔を冷やしてくれるので丁度よかった。
数分歩くと、いつもの公園が見えてきた。昼間とは違い、そこだけ隕石でも落ちたみたいにぽっかり穴が開いていて、真っ暗で薄気味悪かった。
やくざ絡みの仕事をしている割に、鳥坂は幽霊などの類は苦手だ。だから平気な振りをしながらも、足はいつの間にか回転が速くなっている。回転した足は速さを保ち、あっという間にマンションの近くまで着いた。
マンションのエントランスは商店街と違い、明るく居住者を迎えてくれた。入口は、一枚目は誰でも通れるが二枚目を通る時はオートロックのため、鍵が必要になる。
鳥坂がポケットに手を突っ込んで、小銭とごちゃ混ぜになっている鍵を探していると、後ろの扉が開いた。
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