第26話 婚約破棄!

 卒業生代表としてセルディ殿下の挨拶があり、卒業式典は問題なく終わった。そして卒業パーティへ……。


 大勢がダンスをしたり、歓談したり、立食をしたりと楽しんでいるなか、私はアイリーンとともにいた。


 きっと大丈夫なはず。あれだけ仲が良かったのよ。婚約破棄なんてありえない。

 アイリーンをチラリと見ると、セルディ殿下の婚約者としての振る舞いか、凛とした姿でかっこいい。

 生徒会メンバーはセルディ殿下の傍にいる。彼らもキリッとしていてかっこいいわね。正装に身を包んだ生徒会メンバーやアイリーンはさすが貴族! というような気品に溢れていた。


 そうやって緊張感のもとセルディ殿下の様子を探る。セルディ殿下はこちらを見たかと思うとアイリーンの目前までやってきた。


 いつものにこやかな表情とは違い、真剣な顔をしたセルディ殿下。背後には生徒会メンバー三人も真面目な顔をしている。


 ちょ、ちょっと……違うわよね!? なんでそんな顔してるのよ……。



 セルディ殿下は一息深呼吸をすると声を上げた。


「アイリーン」


「はい」


 アイリーンとセルディ殿下は見詰め合っている……見詰め合ってはいるんだけど、表情が……。にこやかさはなく冷たい雰囲気の二人……。



「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」



 大勢が集まるこの場で、セルディ殿下はそう宣言した。極めて静かに、そして冷たく言い放った……。



 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!

 なんでなのよ!! 二人共良い感じだったじゃないのよー!! 私が今まで頑張ったことはなんだったのよー!! どういうことよ!? 私の必死の努力を返してー!!


「アイリーン様!」


 私はアイリーンに駆け寄り腕を掴んだ。アイリーンはほんの少し微笑んだかと思うと、私の手をそっと払い除け、セルディ殿下を見据えた。


「理由をお聞きしても?」


「理由など貴女自身がよく分かっていると思うが」


「私には全く分かりませんわ」



 大広間は二人のやり取りに気付き出しざわざわとし始めた。こ、これはまずいんじゃ……この場にいる全員が二人の婚約破棄騒動を目撃してしまう……どうしてこんなことに……。



「仕方がない。ここではせっかくのパーティを台無しにしてしまう。また後日話をしよう」


 セルディ殿下は周りの状況を確認するとアイリーンに向かってそう言った。アイリーンは一つも表情を変えずに頷いた。


 台無しにしたのはセルディ殿下じゃないのよ!! こんな大勢がいる場で話すような内容じゃないのに、なんでこんなところで言い出した!! 立派な王子だと思っていたのに!! 見損なったわ!!


「分かりました。今日は気分が優れませんので、このまま退席させていただきますわね」

「あぁ」


 アイリーンはそう言うとセルディ殿下に頭を下げ、くるりと踵を返すと颯爽と大広間から出て行った。

 周りは騒然とし、皆が皆、アイリーンとセルディ殿下を見比べキョロキョロと視線を動かしていた。


「セルディ殿下!! 一体どういうことなんですか!? あんなに仲が良かったのに、なぜ婚約破棄なんですか!! なんで!!」


 無礼を承知でセルディ殿下に詰め寄った。必死に縋りついて聞いた。しかしセルディ殿下は私の肩に手を置くと、そっと身体を離し、小さく「すまない」とだけ呟くと大広間から出て行ってしまった……。


「どういうことよ!! なんでなのよ!!」


 生徒会三人組にも詰め寄った。しかし皆、「知らない」と顔を背けるばかり。


 アイリーン!! アイリーンを追いかけなくちゃ!! 今頃泣いているかもしれない……あんなに仲が良かったのに……なんで……なんで……。


 目に涙が滲むが必死に堪える。きっとアイリーンが泣いている。私が泣いている場合じゃない!!


 アイリーンを追いかけ走り出す。大広間を出るとすでにアイリーンの姿はなかった。


「アイリーン様!! どこ!?」


 周りを見回しアイリーンの名を呼びながら探し回る。


 いた!!


 学園内、大広間より少し離れた場所、噴水の傍らにアイリーンは佇んでいた。


「アイリーン様!!」


 名を呼びながら駆け寄る。アイリーンは私の姿を見ると少し驚いた顔をした。その表情は読めなかったが、涙はなかった……良かった……。


「アイリーン様!! 一体どういうことなんですか!? なんでセルディ殿下はあのようなことを!? あんなに仲が良かったじゃないですか!! それなのに……」


 うぅ、気が動転しているせいか、興奮しているせいか、泣きたくないのに涙が溢れそうだ。必死に耐える。

 アイリーンの手を両手で握り締め訴える。


 アイリーンに聞いたところで、婚約破棄を言い出したのはセルディ殿下だ。アイリーンは何も知らないようだった。今はアイリーン自身がショックを受けているだろうに、私が責めてどうするのよ!!


「ルシアさん、ありがとう。心配をしてくださるのね。私は大丈夫ですわ。貴女は卒業パーティをお楽しみなさい」

「そんなこと出来るわけがないじゃないですか!!」


 叫んだと同時にボロッと涙が零れた。


「わ、私はアイリーン様に幸せになってくださいってお願いしました……それはセルディ殿下と一緒じゃなきゃ駄目なんです……お二人で幸せになってもらいたかったのにぃぃぃいい!!」


 あぁ、駄目だ。涙がボロボロと零れ落ちる。


「ルシアさん……泣かないで……ありがとう。貴女は優しい子ね」


 違う。私は優しくなんかない……私は自分の都合だけで貴女がセルディ殿下と結婚してくれることを願っている。

 これは罰なのか。ゲームの内容に逆らった私へ罰なのか。


 私のせいで、アイリーンを傷付けただけじゃないか……。

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