第6話 美形軍団を!

 婚約破棄されたアイリーンは嘆き悲しみ、闇にのまれていく……。

 あらゆる悪しきものを寄せ付けてしまい、それらを全て取り込んでいき、最後にはアイリーンの意識もなくなり、ただ愛するものに切り捨てられたという記憶のみが残った、悲しい化け物になってしまう。


 それがラスボスとなり、ヒロインはセルディ殿下や他の攻略対象たちと共に聖女として打ち倒す。そして悪を滅ぼしたヒロインは最終的に結ばれた相手とハッピーエンド……、なんだけど……ハッピーエンドなんだけど!! なんかモヤる!!


 ゲームをやってたときはひたすらイケメンたちとハッピーエンドになることを目的としていたけど……こんなのあんまりじゃない!! アイリーンが可哀想過ぎる……。


 婚約者を奪った挙句、闇堕ちさせてやっつけちゃうって、ヒロインあかんやん!!

 なんだこれ! 冷静になって考えてみるとかなり酷いストーリーよね……。


 だからこそ絶対断罪イベントは回避したいのよ……。

 散々このゲームを楽しんだ私が言うのもどうなのよ、って感じだけど、でもさぁ、実際この世界で過ごしてみたら、アイリーンは全く悪くないんだもの。


 なんとか回避出来るように頑張らないと……アイリーンを倒すなんて嫌だ。だって……、だって、アイリーンも超絶美人さん!! あんな美しい人を化け物になんてしたくなーい!! それを倒すなんてもってのほか!!


 この世界美形だらけなんだから、目の保養なんですよ、うふふ。そんな美形たちに囲まれているだけで癒されるんだから、みんな幸せで良いじゃない! 今の美形軍団を崩したくないのよ!

 そこにシュリフス殿下も加われば最高よ!!


 そう、ムフフ。頑張るわよ! アイリーンを闇堕ちさせず、攻略対象たちとは友達に! そしてイケオジとムフフな関係を!! ルシアが十六歳だということはちょっと引っかかるけど……シュリフス殿下がロリコンになっちゃう……? いや、いやいやいやいや、大丈夫よね、貴族ならとんでもない年上に嫁ぐこともあるし…………うん、それは一旦置いといて。忘れましょう。



「おい」


 あれこれごちゃごちゃと考えていたらアイザックに顔を覗き込まれた。ひいぃ。


「そんなに痛かったのか?」


「え?」


「なんだよ、痛くて変な顔をしてたんじゃないのかよ」


「へ、変な顔って!」


 どうやら色々考えている間、かなり百面相をしていたようだ。危ない、もっと顔に出さないようにしないとね……変な人だと思われる。


「チッ、心配して損した……」


 ボソッと呟き、アイザックはそっぽを向いた。

 おっと、ツンデレですか!! 可愛いじゃないのよ!! ダメだ、ニヤニヤしてしまう。我慢だ。ツンデレがヤンデレになってしまうとアイザックは怖過ぎるのよ。だから我慢よ。


「大丈夫そうなら、とりあえず叔父のところへ行ってみますか? 今からでも紹介しますよ」


「はい!!」


「フフ、では行きましょう」


 セルディ殿下がそう促すとおもむろに全員が動き出した。


「え? 全員で行くんですか?」


「え?」


「ん? 俺たちも行くよー!」

「そうだな」

「仕方ないから行ってやるよ」


「え? いやいや、大丈夫です!」


「「「「は?」」」」


 全員が驚いた顔になった。いや、こっちが驚くわ! なんで全員で行くのよ! 必要ないでしょ! こんなイケメン生徒会メンバーと一緒に行動なんかしたらどんな目で見られるか! アイリーンにも見付かったら最悪じゃないのよ!! 冗談じゃない!!


「私一人でも十分です!! 保健医ということは医務室におられるのですよね? それなら私にも場所は分かりますので!!」


「いや、しかし……」


「セルディ殿下がシュリフス殿下宛にお手紙でも書いてくださったら、自分で持参しお会いしに行きます!」


「おい、僕たちが一緒じゃなにか問題あるって言うのか?」


 アイザックが不敵な笑みを浮かべながら、私の肩を片手で掴むと見下ろしながら囁いた。耳元で囁かれぞわっとする。反射的にアイザックのほうに顔を向けたが、その目は笑っていなかった。


 い、いやいや、こんなことで負けないんだから! 怖くないわよ! 所詮十七の男の子なのよ! おばさんには通用しないわよ!! あ、自分でおばさんて言っちゃったじゃない!! 違うわよ、お姉さん!! お姉さんには通用しないんだから!!


 そう言いつつもちょっと腰が引ける。なんとか虚勢を張りつつ反論。


「問題ありですよ! 貴方たちは生徒会ではないですか! お仕事してください! みんなの代表なんですから!」


 そうよ! 私の付き合いなんかしてないでお仕事してください! 仕事は大事! 付いて来ないで! お願いだから!


 ちらりと四人の顔を見た。

 驚いたような四人は顔を見合わせていた。もう一押し!


「本当に大丈夫ですから。セルディ殿下、お手紙だけお願いします」


 ニコリと笑って見せた。


「うぅん……分かりました。では、叔父には伝書魔法を飛ばしておきますね」


 伝書魔法……。ルシアの記憶を掘り起こすのに手間取った!


「なんだお前、伝書魔法も知らないのか?」


 アイザックがニヤリと笑う。


「伝書魔法は少しくらいの文章ならば紙に書いて魔法で飛ばすことが出来る」


 ラドルフが怖い顔ながらも静かに説明してくれる。い、いやいや! 知ってましたから!! ちょっとばかり記憶を手繰り寄せるのに時間がかかっただけで! お手紙書いて持ち運べば良いと思っていたけど、この世界は魔法があるのですものね!


 伝書魔法はそこそこ高等魔法だったはず。だから普通程度の魔法使いには出来ないのよね。

 でも魔力が高い私は確か出来るはず。やったことないだけで。

 特殊な紙に書いた文字に魔力を送ると、その紙から文字が浮かび上がり、そのまま消え去ったかと思うと、宛先の人物の目の前に文字が浮き出てくる、という仕組みよね。確か。


「も、もちろん知ってますよ。セルディ殿下、お願いしますね。では、私は早速医務室に向かいますね」


 下手に突っ込まれるより先に退出してしまおう! 極めて冷静に、淑女のようにさらりと身を翻し、オホホホと微笑みを浮かべながら口を挟まれる余地を与えないまま退出!


 背後では「あ、ちょっと!」とロナルドの声が聞こえ、他のみんなも「おい!」やら「え」やら戸惑った声が聞こえたが無視よ! 無視! 聞こえなーい!


 華麗に扉の外へと出て恭しく扉を閉めた途端、一気にどっと疲れが……。


「つ、疲れた……なにもしてないんだけど、なんか疲れた……」


 ぐったりとしながらも、でも、シュリフス殿下よ!! ついに会えるのね!! うふ……うふふ……うふふふ……ダメだ、にやけてしまう。危ない危ない。


 周りをキョロキョロと見回したが誰もいない。よし! 生徒会室に入っていたことは誰にもバレてないわね!! 心置きなくシュリフス殿下を堪能しにいくわよー!!


 ルンルンでさあ行くわよ! となっていたら背後から聞き覚えのある声が……


「あら、ルシアさんではなくて? こんなところで何をしてらっしゃるのかしら?」


 ギクゥゥッ!!

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