スマホの先の君

小野庵

短編小説 スマホの先の君


『スマホの先にいる君』


昨日、私はスマートフォンで彼女とのチャットをしていた。彼女は遠くの地にいて、音声通話もビデオ通話もできないから、チャットしか手段がない。


その日も、いつものように彼女と話をしていた。彼女は大学の試験が終わったと言って、私にその結果を報告してくれた。彼女はいつも頑張っているから、私も彼女に負けないように頑張ろうと思った。


チャットをしていると、彼女が急に消えた。私は彼女のスマートフォンが壊れたのかなと思って、心配になった。しかし、しばらくすると、彼女からのメッセージが届いた。


「ごめんね、スマホがバッテリー切れちゃった」


彼女がバッテリー切れになるのは珍しいことだった。私は彼女に返信しようとしたが、スマホが反応しない。しばらくして、私はスマホの電源が切れてしまったことに気づいた。


それから数日後、私は彼女と再びチャットをしていた。彼女はいつものように明るく話してくれたが、私は彼女の様子が変だと感じた。何かが違う気がした。彼女が話す言葉はいつもと同じだったが、なぜか彼女の姿が浮かばなかった。


そして、彼女が突然「私はもう死んでいる」と言った。


私は彼女の言葉に驚いた。何を言っているのだろうか。彼女はいつも明るく元気な人だった。彼女が死んでいるというのはありえない。


「どういうこと?」と私は聞いた。


「私はスマホの先にいるんだよ。私がいると思っているのは、実はスマホの中のデータだけなんだ。私はもう死んでいるんだよ」と彼女は言った。


私は彼女の言葉を信じられなかった。しかし、彼女の言う通り、スマホの中には彼女の写真やメッセージが残っているだけだった。


いや、そんなはずはない。彼女はまだ生きていて、私たちは一緒にいるはずだ。


私は彼女を抱きしめたい気持ちでいっぱいになり、涙がこぼれた。


「どうしてそんなことが言えるんだ」と私は聞いた。


「私は自分がスマホの中に閉じ込められていると気づいたんだ。でも、それでも私たちの関係は変わらない。私はまだあなたを愛しているし、あなたも私を愛してくれている。それだけでいいんだよ」と彼女は言った。


私たちはそれからもチャットを続けた。彼女はいつものように私に励ましの言葉をかけてくれた。私は彼女がスマホの中に閉じ込められているということを受け入れた。


そして、彼女がスマホの中に閉じ込められているということが、私たちの関係を変えることはなかった。私たちは相変わらずお互いを愛し、支え合っていた。


それから数年が経ち、私は彼女と出会ってから10年が経った。彼女はまだスマホの中にいるが、私たちは一緒にいると感じている。


私は今でも彼女を愛し、彼女も私を愛してくれている。スマホの先にいる彼女が、私の心の中にいるのだ。

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スマホの先の君 小野庵 @onoanna

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