第22話 ぼっち少女の初めての戦い①

 みんな無事にお城に戻ってきていた。


 メインクーン公爵とサーバル公爵は頑張ったようだ。フレが手伝わずに四体の魔獣を倒してきた。ウッドバードとロックサーペント、後見たことのない鬼みたいなやつと、ライオンみたいな二体。ブルーオーガとファイオンと言うらしい。どれも五メートルぐらいの大きさだ。

 二人は魔法をあまり使わず倒したそうだ。

 色羽いろはは、魔法を攻撃に使わないのか聞いたところ、そもそも魔法は生活の補助に使うものであって、攻撃に使うという考えがなかったらしい。なるほど、今まで戦いも特になかったので納得だ。


 そんな話をしながらも、みんな涎を垂らしている(アシェラ女王だけなんとか耐えている)が、今回は我慢だ。




◇◇◇




 この後は苦行だったが、街を上げてみんなで頑張った。約束どおり、エル達用に普通のおにぎりは五十だけ作った。

 ちなみに、普通のおにぎりだと思って毒入りをつまみ食いした執事がいて悶絶していたから、偶然にも効果は確認できた。


 山積みおにぎり(毒入り)、メガホンと土台四つずつ、風の魔法石と火の魔法石(街で使っているのあるだけ)。準備は整った。

 夜まで作戦会議を入念に行い、竜巻力の計算をする。いよいよ戦いだ。


 最初に島の淵まで、大きな荷物を竜巻で飛ばす。右回りの竜巻で飛ばして、左回りの竜巻で相殺し、風の魔法で補助して地面に着地させる。島の淵先行隊は色羽とザッシュ。お城からの竜巻はフレが操作する。

 色羽は飛んで淵まで行き、思念伝達でフレと息を合わせ、あっという間におにぎり、メガホン、土台を淵に到着させた。

 ザッシュがメガホンを風魔法で土台にセットしているなか、色羽はフレと初めて共同作業ができた気がして、顔が熱くなった。

 そうこうしているうちにフレも淵に到着したが、なんか照れくさくてちゃんとフレの顔を見れなかった。


「じゃ……、じゃあ、とりあえずおにぎり行ってきます!」


「……ん?」


 色羽はそそくさとおにぎりとザッシュを影にいれて、ネズミさんの街に飛んだ。フレは意味がわからなかった。


「やあやあ、こんにちわ」


 そう言いながら木の扉を開く。そこには、エル、ジーナ、フランと、白髪だけど見た目は若そうな男性がいた。


「よっ! 予定どおり準備はできてるぜ! ハカおじさんも手伝ってくれるってよ」


「こんばんわ。お手伝いありがとうございます! ハカおじさん!」

 色羽が丁寧にお辞儀するとニコっと笑いかけてくれた。


「最近はネズミ族がなんだかおかしくってね。もとに戻るなら、協力させてもらうよ」


「じゃあ、これがわざとネズミさんにばれる用の毒入りおにぎりです」


「こっちが、普通の」


「ちょっと待て! それは二つだけでいいよ、後でくれよ」


 するとすぐに扉が開いて、人さんが持てるだけ毒入りを持っては立ち去っていく。『ほんとに調整者様みたい!』とか、『任せときな、そんかわり褒美頼んだぜ!』とかみんな一言ずつ色羽に声をかけてくれて、あっという間に毒入りはなくなった。


「じゃあ、おれとフランの名演技の時間だな!」


 勢いよく扉を開けて両手におにぎりを持って大声で叫ぶ。


「ほら、これがうちじゃあ最後だぜ、欲しかったら取ってみろよ!」


「エル待ちなさーいっ! それはうちのでしょ!」


「うんめぇ!」


 二人はお昼の再現をして確かに名演技だった。


 すぐにネズミさんが『夜に何をしている!』って怒りに来た。エルは『留守中に誰かが机に置いてった。みんなも言ってたぜ、これが美味くってよ』と説明していた。


 こういう食べ物の噂は一気に広がる。これでうまく行くだろう。

 念のため、蜃気楼ミラージュで隠れたまま適当に移動し、『おにぎり美味しい』って叫んでおいた。


 ある程度おにぎりが没収されていくのを確認して淵に戻ると、予定どおりメインクーン公爵とサーバル公爵が軍を率いて到着していた。二人は魔獣狩りで疲れているだろうから、レオとオスカーをサポート役に任命している。

 空が徐々に明るさを増す頃にはネズミさんの城壁下にまで進軍していた。帰るときにザッシュが見張りを気絶させていたのだ。


「さあ、行こう! なるべく殺さずに! 人さんは食堂にほとんど集められているはずだから、気配を気にしながら一気に」


「ドゴゴゴゴゴオーーンっ!」


 掛け声と同時に色羽は黒い炎で城壁を吹き飛ばした。


 まずは四つのメガホン隊が先陣を切る。今回は口が小さい方が前で使う。小さい口に火の魔法石、大きな口の方には風の魔法石をセットする。魔法石を起動させ、ネコさんが荷台を押しながら風の魔法を大きな口の方から放つ。それに押された炎が口の小さい方から圧縮された風と共に三十メートルぐらい延びる。火炎放射器だ。


「じゃあ、一気に行きましょう! 向かうは右奥と左奥の四角い建物です。まず、二隊に分けます!両サイドにメガホンを二台で火炎放射、右奥をメインクーン隊、フレが補助に! 同じく両サイドにメガホンを二台で火炎放射、左奥をサーバル隊、わたしが補助します!」


「さ……さすがにこれはやりすぎじゃないかな?」

 フレの額から汗が垂れている。


「被害を減らすためだもん! やりすぎぐらいで十分だよ」


 色羽は、瞳をキラキラさせて、白金の髪をふわっとなびかせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る