つきましては来世の自分にご期待ください

ちびまるフォイ

諦めずに頑張る心

不合格通知が来たのは今朝のことだった。


「うそだろ……ずっと、ずっとこのために頑張ってきたのに……」


子供の頃から夢は変わっていなかった。

憧れの『第一キボウ株式会社』への就職を夢見ていた。


そのために就職に有利な大学を選び、

やりたくもない生徒会長などもやったり。


すべてを捧げてきたはずの夢の果てがこんな結果になるなんて。


自分が合格してその後の未来しか見えていなかった。


「もうダメだ……このままズルズル続けても、

 新卒扱いじゃなくなるからますます合格しにくくなる。

 そうなったら無職のゴミじゃないか……死のう」


ネットで「首吊り コツ」を調べてロープを購入。

首に巻き付けたちょうどそのとき。

玄関のインターホンが鳴った。


「……はい? どなたですか」


「こんにちは人生リセットサービスです」


「頼んでませんが」


「はい。我々はネットでやばめの単語を検索した方をピンポイントで訪問してます」


「で、なんですか。説得でもするつもりですか」


「いえいえ。人生リセットボタンの営業に来ただけですよ」


男の手元にはクイズ番組で出てきそうな赤いボタンが持たれてた。


「このボタンを押すと人生をイチからリセットできるんです」


「そのあと3億年くらい異空間に閉じ込められるとかあるんでしょう?」


「そんなことしてなんの意味があるんですか」


「リセット……ねえ」


「どうせ死ぬくらいならリセットしましょうよ。

 次の人生ならきっと良いことありますよ」


「……そうかもしれない」


「ただし、リセット前の寿命は差し引かれますからね。

 あなたが100歳まで生きるとしたら、今が20歳。

 つまり、来世は最大で80歳までしか生きられません」


「別にいいですよ。そんな年齢になったらたいして変わりません」


「それじゃボタンを差し上げます」


赤いボタンを押し込んだ。

覚えているのはそれくらいで、次の記憶は3歳前後からだった。


(自我が芽生えてからリセットされるのか……)


鏡にうつる自分の姿が元の姿とは別人になっていた。

第二の人生がはじまる。


今度こそ『第一キボウ株式会社』に就職してみせる。


前の人生は詰めが甘かったから不合格になった。

今度は同じ失敗をしない。


学校に通い始めるタイミングになると毎日勉強の日々。

今度こそ合格するために勉強に打ち込み、有名な学校を首席で卒業する。


「ついにここまで来たぞ……!」


前の人生とは比較にならないほど努力をかさねた。

勝利を確信しつつ、会社への入社試験を受けた。



数日後、結果が戻ってきた。



「ふ、不合格……!?」


通知を見て手が震えた。


「な……なんで……なにが悪かったんだ……。

 こんなにも成績が良かったのに……どうして……」


努力したぶんショックは初回よりもデカかった。

何がいけなかったのかを考えても、「不合格」しかわからない。


何が欠けてて、どこが悪かったのか。

なにを直せば合格できたのか。


気がつくとネットの検索でまた死にたくなるキーワードを検索していた。



「こんにちは。人生リセットサービスです」



説明もろくに聞かずにリセットボタンを押した。

次も記憶がはじまったのは3歳前後。


(次の人生こそ合格してみせる……!)


そうは思いつつも前回あれだけ勉強して不合格だった。

全国模試1位になっても不合格になるのなら、原因は勉強以外にあるのかもしれない。


(まさか、友達か……!?)


振り返ってみれば勉強づけの毎日で友達はほぼいなかった。

それが減点対象になったのかもしれない。


今度の人生は友達の厳選からはじまった。


単に友達が多いというだけではダメ。

友達と一緒にいる自分がより高められるような「メリット」を持つ人間がいる。


けれど、就職までに過ごす学生時代というのは

自分で人脈を開拓するのはほぼできない。


人脈なんてのは学校の中にいる人間からしか選択できない。


「ちっ。今度の人生の学校はハズレ生徒ばっかりだ」


学校でいい人がいなければ自分の人脈戦闘力の天井は低い。

すぐに人生リセットを行った。


いい人材があふれる学校に抽選されるまでリセットを繰り返す。


判断はできるだけはやいほうがいい。


5歳でリセットすれば失う寿命は5年で済むが、

20歳でリセットすれば寿命を20年も失ってしまう。


「この中学校はハズレ。バカしかいない」

「ちぇ。今度の小学校もハズレだ」

「この幼稚園ハズレだな……リセットしよう」


人生のリセットマラソンを何度も繰り返していた。

やっといい人脈がそろいそうな環境にあたっても、今度は別の問題が発生した。


「この親はハズレだな……リセット案件か」


あらためて自分の環境スペックを見直してみると、

親がすぐれていれば当然就職も有利になるに決まってる。


仮に「総理大臣の息子」という肩書きがあれば合格しやすいに決まってる。


親ガチャと人脈ガチャ。


この結果がどちらもよかった人生のうえでなお、自分が必死に勉強してこそ合格できる。

それくらいしっかり詰めればさすがに合格できるはずだ。


早い段階で見切りをつけては何度も人生リセットを繰り返した。


「ハズレ。次」


「ダメだ。次」


「ゴミ。次!」


何百回めかのリセットのときだった。


「こんにちは。人生リセットサービスです」


「よしボタンをはやくよこせ」


「あっ、お待ちください。あなた自分の寿命をご存知ですか?」


「はあ?」


「あなたの寿命は寿命は残り20年ちょっとしかないですよ。

 これ以上リセットマラソンを続けると……」


「20年……!? それじゃ来世は20歳で……死ぬのか」


「ええ……そうですね」


何度もリセットしすぎて寿命をいちいち数えていなかった。


「リセットを繰り返すのではなく、今の人生をこの先20年過ごすというのもありますよ」


「……そんなことできるか。『第一キボウ株式会社』に入らない人生なんて死んだも同然だ!!」


俺はリセットボタンを押した。



次の人生は見てわかるほどの金持ちの家に生まれた。

ここに来て最高の親ガチャを引き当ててしまった。


(やっぱり俺はツイてる! この人生ならきっと合格できる!)


金持ちに生まれたというだけでその後のガチャ要素もスムーズに突破した。


友達も金持ちつながりで知り合うことが多くいい人に巡り会えた。

お金を使うことで一般人ではできない社会経験も積むことができた。


そのうえで、もちろん勉強は欠かさない。


ここまで最高のお膳だてしてもらったのでミスは許されない。

最高の教育機関に入り、努力を重ねて非の打ち所がない経歴を作り上げた。


「全国模試に殿堂入り。友達も親も最高峰を手に入れた。

 海外留学も全世界コンプリート。ふっふっふ。明日の入社試験が楽しみだ!」


ついに20歳となり『第一キボウ株式会社』の入社試験の日を迎えた。


当日は季節外れの大雪が降り交通機関は大荒れだった。

車のスリップ事故で多くの道路が通行止めになっている。


「くそ! なんで今日に限って、自家用車使えないんだ!」


久しぶりに電車の改札へ向かったが、こっちも地獄だった。

なんと人身事故で運休しておりタクシーやバスも満杯で乗れない。


「そ……そんな……これだけ積み重ねてきたのに……」


大荒れの交通状況もあって入社試験には遅れて到着。

すでに撤収作業も終わってしまっていた。


これだけ何年もリセットと努力を繰り返してきたのに、

自分以外のせいで夢を諦めることになるなんて思わなかった。


「理不尽すぎる……! お願いだ! ここを開けてくれ!

 入社試験さえ受けさせてもらえれば俺は受かるんだ!!」


何度も扉をたたき続けた。

俺にはもう後がない。


すると、やっと向こう側から鍵の開く音が聞こえた。


「なんですか……? もう入社試験は終わってますよ」


「お願いです! 最後に俺をここへ入れてくださ……あっ」


扉から出てきた社員を見て言葉を失った。

かつての自分が『第一キボウ株式会社』の制服を着ている。


「な、なんで……」


人生リセットしたあと、自分の体がどうなるのか考えていなかった。

来世はパラレルワールドにでもいくのかと思っていた。


でもそうじゃなかった。


人生リセットしたあとのその後の人生は続いていたらしい。

俺という宿主を失って別の人の人生として続いていた。


「あ、あんたは不合格になったはずだろ!?」


「どうしてそれを……?」


「いいから答えろ! あんたはたしかに不合格になった!

 なのにどうしてこの会社に就職してるんだ!!」


かつての自分は困ったように答えた。


「不合格の通知の後、誤送信の連絡が届いたんです。

 本当は合格だったのでなんとか入社できました」


その言葉に頭が真っ白になった。



「それじゃ俺はなんのために今までリセットを……」



それからほどなくして寿命が尽きた。

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