ラクダとパーティーとミーアキャットくん

ケーエス

ラクダとパーティーとミーアキャットくん

 急がなきゃ!


 一頭のラクダが西に向かって走っていました。だだっ広い砂漠、空には雲を押しのけるようにして光を放つ太陽。人間なら火を噴いて倒れてしまいそうな熱さですが、彼には関係ありません。彼の体温は砂漠の暑さに合わせて引き上げられているのです。


 まずいまずい。


 とはいえラクダは思いました。


 この砂漠生活にして初のパーティー参加。かわいい女の子ラクダもいるらしい。少しはおめかしをしなければ恥ずかしい。


 ただ問題はそのおめかしを忘れたことでした。


 ラクダは自動車並みの速度で走っていましたが、すでに50kmを進んだ道のりをまた戻るというのはさすがに彼であっても苦しいものでした。



 なんとかラクダは家にたどり着きました。そこにアイテムが置いてあるのです。


 よいしょ。


 ネクタイです。口でくわえてひょいっと持ち上げます。するとなんとか首にはかかりました。ですが、ネクタイは結んで完成なのです。このままではみんなに笑われてしまう……。ラクダは毛を揺らしておろおろしました。


 どうしよ……


 そうだ! ラクダは思いつきました。誰かに結んでもらおう。ラクダの頭の中には一番の友人、ミーアキャットくんが出てきました。


 よし! 行くぞ!


 ラクダは方向を南に変えて再び走りだしました。


 日が傾いてきた頃、ミーアキャットくんの家にやってきました。


「おーい! どこだーい?」


 しかしそこにミーアキャットくんの姿はありません。その代わりに看板が立っていて、『西に行くのでしばらくいません』と書かれてありました。


 ええ! ラクダは驚きました。そして数日前ミーアキャットくんに会ったときのことを思い出したのです。


「何? その帽子?」

「ボクね」ミーアキャットくんは尻尾でシルクハットをくるくるさせました。

「ちょっと用事があるからね」

「用事……?」

「まあいいじゃないか」

 ミーアキャットくんはひょいとシルクハットを頭に乗っけました。


 なんだこのことだったのか。ラクダは道を引き返してパーティー会場に向かうことにしました。すでに日は落ちています。早くしないとパーティーが始まってしまうでしょう。遅れれば次々とつがいができて、もうメスがいなくなっているかもしれない。ラクダは焦りはじめました。


 ラクダは走り続けました。ひたすら走り続けました。そして、


 ああっ!


 なんという災難、足を捻ってそのまますっ転びました。全身に痛みが走ります。


 ラクダの頭には絶望の積乱雲が広がっていきました。


 ああ……もうダメだ。


 ラクダはすでにかなりの距離を走っていて、体力もタイヤのようにすりきれています。立ち上がる気力はありません。しばらく茫然としてただただ息をするだけになりました。自然と視界も狭くなっていきました。





「大丈夫かい?」

 聞いたことのある声です。目を開けると小さな何かが立っています。この姿はあの西に行ったはずのミーアキャットくんです。

「あれえ? パーティーは?」

「パーティー?」

「いやそれ」

「ああ」

 ミーアキャットくんはずり落ちそうなハットを押さえました。

「これはね、行ってみたいバーがあってさ。でもバーっておしゃれなイメージがあるじゃないか? だからこれを被っていったんだ。でもまあ誰も被ってなかったけどね」

 ミーアキャットくんは笑いました。

「ええ……そうなんだ」

 ラクダはまさかの理由にぽけーっとしていましたが、はっとパーティーのことを思い出しました。

「ミーアキャットくんごめん。起こしてくれない? ボクパーティーにいかないとダメなんだ」

「パーティー?」

 ミーアキャットくんのハットが落ちました。

「パーティーって再来週じゃない?」

「確か満月の夜って」

「ほら、今日三日月だぜ」

 ミーアキャットくんが指さす方、振り返ると確かに三日月がありました。

「ほんとだあ」

 ラクダはほっとため息をつきました。もうそこに積乱雲はありませんでした。


「ほら、せーの!」

 ミーアキャットくんが押してくれたおかげでラクダくんは起きることができました。ついでにミーアキャットくんがネクタイを締めてくれました。

「ありがとう」

「全然、友達だろ? 似合ってるじゃないか。じゃあさっき言ったバーに行ってみる?」

「うん!」

 2人は仲良く西へ向かっていきましたとさ。めでたしめでたし。

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ラクダとパーティーとミーアキャットくん ケーエス @ks_bazz

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