神の気まぐれと不完全生物

反田 一(はんだ はじめ)

神の気まぐれと不完全生物

その日、神はようやくその重い腰を上げた。

大釜の前に立った神は次々と材料を入れていった。

もう少しで完全な生物が出来上がる予定だ。



そんな神の頭上を一羽の鳥が通りかかった。

木の実を咥えるように、その鳥はくちばしに何やら咥えている。

するとその鳥は、偶然か必然か、くちばしに咥えているものを落とした。

鳥の落とし物は、そのまま一直線に神の前の大釜へ落下していった。

しかし、もちろん神は全知全能なので、一連のできごとを承知していた。

神は、右手を前に差し出し、その落とし物の大釜への侵入を阻止しようとした。

が、何を思ったか、神は手を引っ込める。

落とし物は神の目の前で大釜の中へ落下した。

神は、それが大釜の中で溶けて他と混ざり合っていくのをじっと見ていた。



それからどれだけの時間が経っただろうか。

神は再び大釜の中を覗いてみた。

そこには生き物が存在していた。

奇妙な見た目をしていた。

だが、何よりその生物が妙なのはその行動だった。

社会の中にいないと生きていけない生物にも関わらず、一つ一つの個体が独立して動いているのだ。

それは一つ一つの個体がそれぞれ自らの考えを持ち、それに従って行動しているからだろう。

だが、その思想は間違っていることが大半だ。

未来が読めない、ゆえに未来を夢想する。

事柄を正しく認識しない、ゆえに勘違いを起こす。

その勘違いによって奇天烈な発想を展開する。

また、その生物は意味のないものに意味を与えることに長けていた。

その生物は、ときに自分自身にも意味を与えた。

自らは何か意味を持って生まれて来たに違いない、と。

それを彼らは「使命」と呼んた。



ふむ、この生物は不完全だ。

だが、だからこそ面白い。

この生物の行動は先が読めない。

興味が尽きない生き物だ。

神は微笑んだ。

この生物がどう進化していき、どう朽ちていくのかが楽しみだ。

神は大釜を部屋の奥にしまって、蓋をした。

これ以上不純物が加わらなくても充分に面白いものが見られそうだと思ったからだ。



そして、神はその部屋を後にした。

その廊下の両脇には部屋が無数にあり、廊下の先は霞んでいた。

神は満足げに廊下を帰っていった。



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神の気まぐれと不完全生物 反田 一(はんだ はじめ) @isaka_haru

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