第104話

 時計が十一時を打った。窓から見える外は真っ暗で、木の枝すら見えない。目が冴えてしまった彩羽は、もう一つ気になることを仲村に訊いてみたくなった。

「白い髪の妖精?」

「そんな言い伝えはありますか」

 そう尋ねた彩羽の顔を見て、仲村は小さく笑った。

「それなら、あの人に訊いてみたらどうかな」

 視線の先に顔を向けた彩羽は息を呑んだ。ドアの上枠をくぐるように頭を下げ、のっそりと入ってきたのは、あの日彩羽が双眼鏡の中に見た男だった。厳つい風貌、鋭い眼差し。そして、実物はもっと大きく見えた。

 白衣姿のその男は仲村に軽く会釈した後、涼太に向かい「よう」と手を上げた。

「ドクター」

 涼太がそう声を掛けた。

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