マリオット
古村あきら
Mariotte
プロローグ
生きていくことに
そう、ここなら誰にも見つからない。
足が止まった。何だろう、脳の古い部分に何かが入り込むのを感じた。生命が生まれた時に作られた、古い古い記憶。
怖気が全身を走り、脚が動かなくなった。大きく口を開けても声は出ない。生命の根源に襲い掛かる、理由のない恐怖だった。動かない筈なのに身体は引き寄せられていく。暗闇はじわじわと拡大し、彼に迫った。逃げることも抗う事も叶わない、圧倒的な力の差。人類が長らく忘れていた本能的な恐れと言えた。
魂が食い千切られるような苦痛を脳は処理しきれず、あらゆる痛みに変換して全身にまき散らしたあげく
やがて視界は闇一色に変わり、何も見えなくなる。頭が呑み込まれようとする寸前、彼の喉は断末魔の声を絞り出した。静かな森に、おぞましいまでの叫び声が響いた。
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