第4話:勝手にしやがれ (À bout de souffle)・マガイモノ06

 打ち捨てられたボロボロのぬいぐるみのように、雑魚キングは地面に無造作に転がっていた。俺は仁王立ちし、それを見下ろし観察している。雑魚キングはずっと気絶したままだ。なにやら、『朧霞オボロカスミ』がよほど効いたらしい――


「いや、よほど効くわけねえだろ。肌の表面を切り刻んだだけだぞ!?下手な芝居はやめて起きろよ、ザキザコキング

「オレ様は『ザキ』っていう名前なんかじゃ…………」

「やはり起きているじゃねえかよ!!だから、お前は雑魚キングなんだよ」


 俺は目の前の情けないヤツに一つ提案をすることにした。そうでもしないと、こいつとはまともな会話が出来そうもない。


「ザキ、とどめを刺したりはしないからよ。起きろよ。会話で解決しようぜ?平和でいいじゃないか」

「それはオレ様の勝ちってことだな?」

「……お前に構っていた俺がバカだよ」


 ザキのヤツに構うだけ無駄だ。滅多に出さない『熾天・刻天』まで使ったのに何一つ得ることなく帰るのは名残惜しい気もするが、やはり帰ろう。人生の無駄なのだ。そんな簡単なことに今更気づくとは……俺もヤキが回ったようだぜ。そう思いながら踵を返したら、ザキがヘラヘラ笑いながら話しかけてきた。


「カムイちゃんよ、さっきお前はこう呪文を唱えたよな!?(今削ぎし我が寿命に答えたまえ)だと……」

「……いいや、何のことかさっぱりだぜ」

「嘘つきだな、カムイちゃん。オレ様は耳がいいんだ。全部聞こえていたんだよ。それでさ……」

「俺は何も……」

「永続が約束されているこのデウス;エデンで!!『寿命』だなんて、おかしい言葉だよな???てめえのパートナーもこの場にいたら、お前に疑念を持ったはずだ……彼女がここにいなくて良かったな、カムイちゃんよ!!!」


 よりによって、こんなヤツに呪文がバレてしまうとは、俺はどうやら、本当にヤキが回ったようだ。今すぐ口封じしなければ……もう一度『熾天・刻天』を召喚しようとしたが――


工房街ドレッドノート市警察A.W.Metropolitan Dreadnought Police Departmentだ。武器を捨て、その場で跪いて手を上げろ!!抵抗は許さない!!抵抗は許さない!!」


 そこに武装したヘリコプターが現れた。軍用メガホンのドデカ音量で怒鳴られたらそこらの神様でも敵わん。1分間625発を吐き出すクレイジー極まりない『W023機関砲』を生身で受けたあかつきには、骨はおろか、髪の毛ひとつ残らないからな……


 俺は言われたまま手を上げて、周囲を目だけで確認した。探偵レーヴ君が先に連行されていくのが見える。そのポケットからフェアリー化しているラニアケアちゃんが少しだけ食み出ている。まぁ……ぬいぐるみだと言い張れば、見逃してもらえるかも知れない……かな?


 ザキのヤツのせいで精神的に疲れ切ってるのに、警察まで出動するなんて、さすがにヘトヘトだぜ……


「はあ……もう勝手にしやがれよ」



――つづく――

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