第3話:ドレッドノートで朝食を (Breakfast at Dreadnought's)・忘れ物02

 最近、変な夢を見るようになった。違う世界を行き来する夢。予知夢とか信じてこなかったが、何度も同じ夢を繰り返して見ているうちに、予知夢の可能性もありと認めざるを得なくなった。まさにちょうど今その夢を見てから目を覚ましたわけだが……どうやら、僕は瓦礫の山の天辺にいるようだ。そんなとこで起床する人間というのもきっと珍しいと思うんだ。そう、何らかの事故で瓦礫の山に埋もれてから目を覚ます場合はあっても、逆にその天辺で目を覚ますなんて経験は世界で初めてなのかも知れない。その世にもくだらない偉業を僕は成し遂げてしまっているらしい。


 周囲が無に帰しているのを鑑みると、僕がこの場で起きるようになったのもあの怪力自慢の拳法使いの仕業だろうね。そうだ!仮に、彼を『鬼拳法』とでも呼んでおこうか。ダサい呼び名にも程がある……名前を聞いておけばよかった。こんな子供じみたネーミングセンスしかないなんて、自分が惨めになってくるよ。


 とにかく、あの鬼拳法が僕の探偵事務所を吹き飛ばしてからの流れを推測してみると、ヤツの剛拳による崩壊に巻き込まれた僕は気絶した後に運が良かったのか悪かったのか、空高く舞い上がり、やがて瓦礫の山の天辺で安着したっていう流れだったのだろう。我ながら良くもこんなバランスの悪い足場で大の字になって気絶していたんだな。こんなどうでもいいことに感心する今日このごろ、僕はどうやって降りていけばいいのだろう?下手に動けば、転げ落ちて複合骨折待ったなし。誰かに連絡を取ろうにもVAMOTHVR AR MR of the Hologramはおろか、旧式の携帯すら持っていない。なにやら、これを指して世間ではこう言うらしい。


「僕、遭難に遭いました!!!」


 精一杯叫んでみるも、僕のか細い声は誰の耳に届くことなく散っていく。当然だ。周辺のすべてはあの鬼拳法によって吹っ飛んでるもんな。


 残念極まりないが、我に打つ手無し……お手上げだ。遭難に遭ったからってすぐにその状況から脱するために足掻きまくれという決まりはないんだ。頭の使い過ぎだよ。一旦何もしないでおこう。時には無謀な休憩が要るってわけだ。そうすれば、きっと素晴らしい妙案が浮かぶはず。まさにそれこそ探偵あるあるじゃないか。


 と、自分への甘い言い訳を言い聞かせ始めたその時だった。


「所長!!テレビで緊急速報を見て飛んできましたよ!!私が見えたり、声が聞こえるなら返事してください!!私ですよ、秘書のイリナですよ――」


 おお!自称『呼ばれて飛び出て困った時にはイリナさん』ではないか。何かあったらすぐに連絡くださいと、普段から豪語してきた彼女だが、そもそも存在感が薄いので今日はすっかり忘れていたもんだ。だが、ナイスタイミングだよ!!これで助かる!!


「イリナさん~~ここで――す!!瓦礫の山を見上げてください!!僕はいま身動きが取れないんですよ」

「所長??なんて大人げの無い遊びをしてらっしゃるのです?ここいらみんな避難しているのに、所長だけそんなところで何をのんきになさっているのです?軽蔑ですよ、軽蔑」

「違う、違うよ……!!事情は後できっちり話すから、まずはここから降りるのを手伝ってください」

「はいはーい」


 イリナさん――所長に対し尊敬の念の欠片もない態度は相変わらずなんだな。しかし、彼女という書類仕事のエキスパートが居てくれるから、僕は依頼された事件を追うことのみ集中できる。だから、態度ぐらいで叱るわけにもいかないんだよな……



――つづく――

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