第18話 まるで地獄です……

「い、いやぁぁぁぁああああ、た、助けてください! マツザカさん!」


空を埋め尽くすほどのメガバットの大群に追われ、あわやというところだったが、何とかマツザカが居るところまで逃げ切ることが出来た。

だけど……


「はっはっはっ、魔物の大群と追いかけっことは。乙なことをする。止まったらボコボコにされるというスリリングな感覚がたまらないく良さそうだ! 羨ましいぞ! ヒカリさん!!」


そう言って、マツザカはまるで同胞を見つけたかのような口ぶりで感動を示すだけで、その場から動こうとしなかった。


「ちょ、そ、そういうのじゃないですから! ほ、ホントに死んじゃいます! 早く助けて下さい!!」


「ふむ、そうだったか」


「そうなんです~~! ひぇ!!」


メガバットの爪が私の横をかすめた。


ヒュッ


と空気を切る音と共に、私の後ろ髪が少しだけ切れる。


「も、もう無理ぃぃいい、マツザカさん、ホントに……ひゃっ!」


続々と空中から攻撃を仕掛けてくるメガバット達

そんな私を見て、マツザカは、


「なるほど。今行くぞ! ヒカリさん!!」


そう叫び、私の横で併走を初めた。

……は?


「ちょ、な、何やってるんですか~~!!」


「ははは、俺もメガバットに追われる快感を味わいたくなってね。俺はスリリングな気持ちを味わえて嬉しいし、ヒカリさんもメガバットのヘイトを減らせて嬉しい。まさにウィンウィンじゃないか! ヒカリさん、一緒に楽しい一時を過ごそう!」


「ば、バカじゃないですか! こんな状況、楽しめるわけないでしょ!!」


「あら、そうかしら?」


「へ……?」


まさかこの声……。

そう思い、横を見ると、


「ゆ、ユキさん!?」


「ご機嫌よう、ヒカリさん」


四つん這い黒服の上に乗りながら、私に併走しているユキさんがいた。


「な、き、危険です! 早く隠れて下さい! あと、黒服の人達はその体勢で、なんでそんなに早く走れるんですか!!」


「ふふ、相変わらず愉快な方ですわね。ますます好きになりましたわ。だけど、私の心配なら不要よ。これくらい、直ぐに何とか出来ますもの」


「え……? ほ、ホントですか??」


「ええ。マツザカ、いつものアレを」


そう言って、ユキさんが右手を挙げ、親指で後ろを指さす。


「ほう、なるほど。これは骨が折れそうだ」


ユキさんのサインを見て何かを察したマツザカ。


「えっ? えっ?」


そして、その2人の間で困惑する私。

すると次の瞬間、


「では、行くぞ!! ヒカリさん、検討を祈る!!」


マツザカはそんな言葉と共に、空中で見事な海老反りを披露した。

その体は当然のように後方へと転がっていき、あっという間にメガバット達の群れに呑まれてしまった。


「あぶ、あぐ、ああん!」


メガバット達に袋叩きにされ、血まみれになるマツザカ。

その光景を、どこか納得のいかない様子で眺めるユキさん。


「……マツザカ1人では少々味気ないですわね。あなた達も行きなさい」


そう言と、今度は人差し指でメガバットの群れを指さした。

同時に、


「わん、わん、わん」


と数人の黒服達が四方から飛び出し、メガバットの群れに飛び込んでいった。

そして、


「キャインン」


という鳴き声をあげながら、マツザカ共々ボコボコにされている。


「ぜはぁ……、ぜはぁ……、ちょ、な、なんですかこれぇぇぇぇええええ」


マツザカ達にメガバットのヘイトが集中したことで、追跡を逃れることが出来た私は、ユキさんに率直な疑問を投げかけた。


「ふふ、見事な肉壁でしょう。これも全て、躾の賜物ですわ」


「に、肉壁……?」


黒服が出てきた時は、この人達が何とかするのかと思ったけど、そうじゃないみたいだった。


「つ、つまり、マツザカさん達を囮にして逃げるってことですか?」


マツザカは頑丈だし、それもそれでありだった。

しかし、ユキさんの考えは違ったようで、


「あら、そんな退屈なことはいたしませんわよ」


と不気味な笑顔を浮かべた。


「え……じゃ一体何を……」


「ふふ、まぁ、少し見ていてください」


私にそう告げ、片手をあげながら、ボソボソと何かを呟き始めるユキさん。

すると、数秒後、


「な、ななななにこれぇぇええええ」


空中に今まで見たこともない大きさの魔法陣が出現した。

しかも、4つも。


「あはははは、これぞ私が不断の努力によって手に入れた究極の力。さぁ、行きますわよ。耳を押さえて、その場にしゃがみ込みなさい、ヒカリさん!」


「え……、ちょ、まっ……」


「とりゃああああああああああああ」


元気いっぱいのユキさんが手を振り下ろすと、


ドッカーーーーン


と目の前に雷が落ちた時のような轟音が辺り一面に響き渡り、激しい地響きと爆風が私を襲った。


「きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


爆風に耐えきれず、吹き飛ばされる私。


「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


ユキさんの魔法で粉みじんになるメガバット達。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


ユキさんの魔法が直撃し、悲鳴を上げるマツザカと犬。


「あははははははははははははははははははは、愉快、実に愉快ですわ~~!」


そして、悪魔のような笑い声を上げるユキさん。


その光景は地獄そのものだった。


________________________________________

少しでも面白いと思って下さった方は応援レビューをお願いします!

また、フォローをして頂くことが出来ましたら、これに勝る喜びはありません!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る