第15話 乗り物……?

「な、なんですかこれぇぇぇぇ」


「部屋の入り口に置いてある乗り物を使いなさいな」


ユキさんにそう言われ部屋を出ると、ガタイの良い3人の黒服が「犬」と書かれた板を首に掛けながら、四つん這いになっているという異様な光景が広がっていた。


「一体どういうことなの……」


意味不明な光景に、固まってしまった私。

っていうか、もしかして、乗り物ってこれ?

まさか……。


「あのー、すみません。ユキさんに乗り物があるって聞いたんですけど……」


「……」


私の声を聞いても表情1つ崩さない黒服。

強面の外見と相まって、非常に不気味だった。


「あ、あのーー!」


黒服の耳元で再び声をあげる。

すると、私の声を聞いた黒服が、


「わんっ」


とだけ声をあげた。


「えぇ……」


何なのこの人達……。

犬と書かれた板に加え、この格好と態度。

常人には、到底理解出来ない領域の人達だった。


「……、歩こう」


これ以上、面倒ごとに巻き込まれたくないと思った私は、早々にその場を後にした。


―しかし、この判断が間違いだった


「ひ、広すぎるぅぅうううう、ここドコぉぉおお」


ユキさんの口ぶりから、この建物がある程度の大きさであることは想像出来たが、ここまでだったとは……。

正直、予想のはるか上を行ってた。


「あの人達にこのお屋敷の構造、聞いておけば良かったな」


そんな言葉を呟き、目の前の扉を開ける。


「また空き部屋……。どうなってるの~~」


「……、何やってるんだ、ヒカリ。こんな所で」


「え……? この声……? まさか」


空き部屋の前で頭を抱えていると、後ろから見知った声が聞こえた。


「レイカさ……ん?」


「よぉ、ハルキの奴から倒れたと聞いた時は心配したが、杞憂だったみたいだな」


「れ、レイカさ~~ん、良かった~~~~」


まともな知り合いに会えた安心感からか、涙が出てきた。


「うわぁ、急に泣くな! 一体どうしたんだ?!」


「そ……、それが……」


私はレイカさんにさっきまでの出来事を話した。


「なるほど、つまりあの馬鹿から逃げようとして、迷子になったと」


「は、はい」


「アホだな」


「うっ……」


自覚はあったが、言葉にされると心にくるものがあった。

落ち込む私を見て、レイカさんは、


「でも、それなら丁度良かったんじゃないか?」


と優しく笑いかける。


「えっと、何がですか?」


「前だよ。前」


「へ……? 前?」


レイカさんの視線の先に目を向けるとそこには、


「ヒカリさん、楽しんでいらっしゃるかしら?」


先ほどの四つん這い黒服の上に乗り、こちらに向かってくるユキさんがいた。


「な、なななな、なんですかこれぇぇぇぇ」


ユキさんの常軌を逸した行動に思わず、声をあげてしまう。


「はぁ……」


反対にレイカさんは、呆れた顔で静かにため息を付いていた。


「ふふ、元気がよろしいことで。ってあら? レイカさんもご一緒でしたのね」


こちらに近づき、ユキさんがレイカさんに視線を向ける。


「えぇ、お久しぶりです。ユキお嬢様。その……、お変わりないようで安心しました」


さりげなく、黒服から目を背けるレイカさん。


「あら、私にはもっと砕けた態度で良いと仰いましたのに。あなたの口の悪さ、結構気に入ってるんですよ」


「ユキお嬢様。そのお言葉はありがたいのですが、これも仕事のうちですので」


「あら、それは残念。いつもあなたに罵られているあの犬が羨ましいですわ」


そう言って、ユキさんが後ろを振り向く。

すると、そこには、


「ペロペロペロペロペロペロ」


気色の悪い擬音を発しながら、廊下をペロペロと舐めているマツザカがいた。


「えぇ……な、何やってるんですか……、マツザカさん」


その光景を見て、ドン引きする私。


「お掃除ですわよ。主人を不快にした罰ですわ」


「は、はぁ……」


私には理解不能な行動だったが、何故か2人とも満足そうだった。


「……、すみません、ユキお嬢様。多忙なお嬢様のお時間を、これ以上頂のは大変忍びありませんので、私はこれで」


マツザカを見て、これ以上関わりたくないと思ったのか、そんな言葉を口にするレイカさん。


「あら、私は別に構いませんのに。それに、あの犬にお話があるんじゃなくて」


「……、ご存じでしたか」


「ええ、我が家の情報網を甘く見ないで頂きたいですわ」


「はぁ……、それなら仕方ありません」


「へ……? どういうこと……ですか?」


何かを分り合っている2人と完全に置いてけぼりな私。

すると、レイカさんは、


「これだよ。これ」


そう言って、私に一枚の紙を渡した。


「これって」


「クエストの依頼だよ。お前達へのな」


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