第13話 本当に効果あるんですか!?

「や、やっぱり無理ですよ! こんな恥ずかしい格好!!」


そう言って、私は両手で全身を覆う。


「素晴らしい! 似合っているぞ!! ヒカリさん!!」


パチパチと拍手をするマツザカ。

だけど……。


「うぇ……、ま、マツザカさん。本当に気持ち悪いので私の視界に入らないで下さい」


「アアンッ、そんなことを言って貰えるなんて、着たかいがあったなぁ……」


ザ変人という声を上げ、倒れ込みながら、体をうねうねとしているマツザカ。

格好と相まって、同じ人間とは思えないキモさだった。


「ははは、でも、本当に……、はぁ……、はぁ……、本当に似合ってますね。ヒカリさん……」


「は、ハルキさん! 今のあなたは一番関わりたくないので、私に近寄らないで下さい!」


「なっ、そんな……」


少し言い過ぎたのか、その場で崩れ落ちるハルキ。

本来なら、可愛そうと思うところなのだが、今のハルキへはそんな感情が一切湧かなかった。


「ははは、いつもより辛辣じゃないか、素晴らしいよ!」


「あ、当たり前じゃないですか! 私だけならまだしも、なんでマツザカさんとハルキさんまで、バニーガールになってるんですか!!」


そう、今の私達はバニーガールになっていた。

しかも、意味の分からないことに、マツザカとハルキはただでさえ筋肉質な胸にパッドまで入れている。


「ははは、ムーンラビットのような警戒心の強い魔物をおびき寄せるには徹底的にやらないとだからね」


「それでもですよ……、っていうか本当に効果あるんですか……。これ……」


「なぁに、心配することはないさ。過去に似たような長い耳を持った魔物をこれでおびき寄せるたことがあるからね。こうやって、ぴょんぴょんとしていれば近寄ってくるさ」


そう言って、マツザカが頭の耳を可愛らしく動かす。

その光景はとてもグロテスクで、見ているだけで、胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてきた。


「おぇ……、ほんとに……、無理、おろろろろ……」


「だ、大丈夫ですか? ヒカリさん……」


「は、ハルキさん、だいじょう……、おろろろろろろ」


大丈夫と言いかけた所で、バニーガール姿のハルキが視界に入り、再び嘔吐した。


「ははは、愉快だね。持ってきて正解だったよ」


「ま、マツザカさん……、もしかして、こうやって遊ぶためだけに持ってきたんじゃ……」


―ガサゴソッ


「えっ?」


突然、私の後方の草むらが激しく揺れた。


「ふふ、お遊びはここまでのようだね」


先ほどまでとは打って変わり、真剣な表情をするマツザカ。


「はぁ……、はぁ……、ですね」


そして、何故か興奮し始めるハルキ。


「ま、マツザカさん、これって」


「間違いない。ムーンラビットだ。各自、配置につきたまえ」


「は、はい!!」


マツザカの指示を受け、草むらに隠れる。

直後、


「ヴォオオオオオ」


猛々しい雄叫びと共に、最後のムーンラビットが飛び出してきた。


「では、いくぞ! ヒカリさんの色気もりもり作戦、開始だ!」


この口にするのもおぞましい作戦を考えたのは紛れもないマツザカ。

ムーンラビットを捕獲するための作戦として、バニー衣装を配りながら説明してきた。


―その内容は、


「こ、こっちですよ~~。ほら、ぴょんぴょん!」


「ヴォオオオオオ」


まず、私が正面に立ち、ムーンラビットを引きつけ、


「ハルキさん!」


「はい! いきゅよーー、ラビットちゃ~~ん」


「ヴォオオオオオ」


マツザカに夢中になっているムーンラビットを茂みの中に隠れているハルキが背中から押さえつける。

そして、


「マツザカさん!!」


「任せろ!!」


最後にマツザカがムーンラビットの腹に一撃を食らわせるというもの。


ドンッ


「オオォォォォォ」


「アアアアアアン」


マツザカの拳から放たれた強烈な一撃を受け、かすれ声をあげながら吹き飛ぶムーンラビットと、気色の悪い声を漏らすハルキ。

その先には一際大きな木の幹があり、


ドンッ


と凄まじい音と共に、ムーンラビットがその木に激突した。


「おおぉぉぉぉ……」


「ガハッ」


そんな断末魔を上げ、ピクリとも動かなくなくなるムーンラビット。

そして、その後ろで押しつぶされたハルキ。


「ま、マツザカさん……。や、やりすぎなんじゃ……」


「ははは、大丈夫だよ。ちゃんと手加減したからね。そうだろ、ハルキ君」


「いたた……、は、はい。なんとか」


マツザカの声に呼応し、ハルキがムーンラビットの背中から這い出てくる。


「うわぁ、な、なんで生きてるんですか!!」


「ちょ、ヒカリさん?? 流石に酷くないですか?」


「あっ、すみません。あの、別にそういう意味で言ったわけでは……」


普通の人なら死んでいるであろう衝撃を受けていたので、驚きのあまり、反射的に失礼な言葉が出てしまった。


「は、ははは。それなら良かったです」


苦笑いを浮かべ、少し悲しそうに呟くハルキ。


「ははは、クエスト完了のご褒美かな。実に羨ましい」


その反対に両手を腰に当てながら、高笑いをするマツザカ。


「マツザカさん……、だからそういう意味じゃ……。ってクエスト! ムーンラビットは? もしかして、死んだんじゃ……」


ハルキと話してて忘れてた……。

これでムーンラビットが死んでいれば意味が無い……。


「ははは、大丈夫だよ。そうだろ、ハルキ君」


「どうでしょう。今確認しますね」


そう言って、ハルキがムーンラビットの首元に手を当てる。


「……脈はあるし大丈夫そうですね。はぁ……、はぁ……、それにしても、ボコボコにされたムーンラビット。良い」


「だ、そうだ。お疲れさま。クエスト完了だ!」


「よ、良かった~~」


いや、衝撃でバニー衣装が脱げ、ほぼ全裸のハルキが、ムーンラビットの出した鼻血をペロペロと舐めていたりと、色々良くはないのだが、ひとまずは安心出来そうだった。

一時はどうなるかと思ったからなぁ……。

もし私のせいで、クエストに失敗してたら、罪悪感で押しつぶされていたと思う。

そうならなかっただけでも、満足だ。


「ふぁ……、なんだろう……、急に眠気が……」


今まで、気を張り詰めすぎていたせいか、一安心出来ると思った瞬間、凄まじい脱力感が体中を襲った。


「ん? どうしたんだいヒカリさん?」


「すみません、一日中走り回ったせいで疲れちゃって……」


少しづつ視界が暗くなり、足取りもおぼつかなくなってくる。


「おっと、危ない」


そんな私を抱きかかえるマツザカ。


「大丈夫かい? ヒカリさん」


「は……、はい……。ただ……」


「ん? どうしたんだい」


「マツザカさ……ん、臭い……です……」


「はぐっ」


最後に、マツザカのそんな悲鳴を聞き、私はゆっくりと夢の世界へ旅立った。


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