第8話 何でこうなるんですか!
「フォー――――――」
「アンッ、アンッ、アンッ、やっぱり踏まれるのは気持ちいいなぁ」
気色の悪い声を出しながらオストリッチにボコボコにされるマツザカ。
「な、なんでこうなるんですかーー」
その声を聞きながら、ボブを背中に担ぎ、逃げ回る私。
なぜこんな地獄のような光景が生み出されてしまったのか。
―遡ること20分前
「なぁに、心配するな。魔物相手にやることは1つだ」
「ま、まさか正面からボコられに行くなんて言わないでくださいよ」
「ほう、ヒカリさんもうちのやり方が分かって来たじゃ無いか! では行くぞ!!」
まさかとは思ったが、最悪の予想が当たってしまった。
「ば、ばか言わないでください! マツザカさんはともかく、私みたいな一般人があそこに突っ込めば確実に死にます! 私に死ねって言うんですか!!」
ふんどし一丁でオストリッチの群れに突撃しようとするマツザカの腕を掴み、必死に訴えた。
「ははは、大丈夫。ヒカリさんはここにいて構わないよ。ここであいつらからボブを守ってくれ」
「あ、あいつら?」
「上だよ。上」
「うえ?」
マツザカが人差し指をあげ、空を指さす。
―そこには
「な、ななななんですかー!これ!!」
大量のコンドルとイーグル、おまけにクロウがいた。
その目は赤く純血しており、こちらを襲うタイミングを今か今かと待っていた。
「はっはっは、言っただろ。ありとあらゆる魔物がボブに引き寄せられると。もちろん、奴らも例外ではないよ」
「れっ、冷静に解説してる場合じゃないですよ! 早くやっつけないと!!」
「そうしたいところなんだがね。少し数が多すぎる。奴らに構っていると皆、ここでオストリッチに轢かれてしまう」
「ならどうすれば」
「そのためのヒカリさんだ。対空装備、持って来ているんだろう? 俺がオストリッチを引き受けるから、ここで踏ん張ってくれ」
確かにいくつか持ってきてはいた。
けど……
「あんな数無理ですよ……」
てっきり、突然変異で空を飛び始めたオストリッチでも倒すために用意するのかな?と思っていたので、こんな大量の敵を相手に出来る数は無かった。
「なぁに、いざって時は逃げればいいさ。もちろん、ボブと一緒にね。はいコレ」
そう言って、マツザカはふんどしからヒモを取り出し、私に手渡そうとしてきた。
「な、ななな、き、汚いです! 不潔です! 最低です!! なんですか!!」
私は反射的に、マツザカの手を払いのけた。
すると、マツザカは、
「これかい? これはおんぶ紐というやつさ。ヒカリさん、重いだろうけど、頑張ってボブを背負ってくれたまえ!」
再び紐を拾い、私に渡そうとして来た。
正直、受け取りたくない気持ちで一杯だった。
けど、ここでボブを見殺しには出来ない……。
でも、でも……。
「う、うぅぅぅぅぅぅ」
生理的嫌悪感が限界に達し、吐き出しそうだったが、渋々おんぶ紐を受け取った。
するとマツザカは、
「ははは、それでは宜しく頼むよ。では!!」
と右手を上げ、オストリッチの群れに突っ込んでいった。
―そして今に至る
マツザカがいなくなった後、ボブを背負いながら5分ほど奮闘したが、早々に限界を感じ、私はこうして迫り来るコンドル達から逃げるため、草原を縦横無尽に走り回っていた。
だけど……
「も、もう無理ぃぃぃぃ」
自警団から逃げるため、全力を使い果たしてしまっていた私の体は既に限界だった。
足の裏がズキズキと痛み、少し皮がむけ始めている。
「ははは、もう少しだ! 頑張ってくれ!! ヒカリさん」
そんな私をオストリッチに乗りながら応援するマツザカ。
……は?
「ま、マツザカさん、何やってるんですか!!」
「オストリッチと戯れていいたら、たまたま背中に乗せて貰えてねぇ。乗り心地が良かったらそのまま走っているのさぁ」
そう言って、オストリッチの上で思いっ切りのけ反るマツザカ。
吹き荒れる風の影響で、前髪で隠れていたおでこと血だらけのアへ顔が丸見えになっており、この世のものとは思えない気持ち悪さだった。
「あ、遊んでないで、ちゃっちゃと倒しちゃってくださいよ!!」
「ははは、もちろんだぁ! 直ぐに終わらせるから君は町まで逃げたまえ。門の近くまで行けば結界の力で魔物は近づけな……ブハッ……」
「ま、マツザカさーーーーん!」
マツザカの重さに耐えきれなかったのか、オストリッチは転倒し、マツザカと共に凄まじい勢いで、地面を転がっていった。
マツザカの安否が気になったが、今はそれどころじゃない。
「は、早く町までって、キャアアア」
突如、空を飛んでいたコンドルが低空で襲いかかってきた。
間一髪のところで、避けられたが、それを境に、コンドルの群れが一斉に襲いかかってくる。
「ちょ、ほ、ホントに死ぬぅぅぅぅ」
泡を吹き、白目を向きながら気絶しているボブを守るため、全力で回避行動を取ったが、避けきれず、体中をつつかれた。
幸い、装備のおかげで出血はせずに済んだが、かなり痛かった。
……、こんなクエストにふんどし一丁でボブを連れてきたマツザカは万死に値すると思う。
そんなことを考えながら、最後の力を振り絞って町を目指した。
そして、
「ぜはっ……、ぜはっ……、おぇぇぇぇええええ」
何とか生きて町に着くことが出来た。
ボブも、口から泡が出まくっているが、一応は大丈夫そうだった。
後はマツザカだが……。
「ははは、お疲れさま。ヒカリさん」
どうやら、無事だったようだ。
後方から元気な声が聞こえてくる。
「はぁ……、はぁ……、ま、マツザカさん、クエストは……」
「成功だ。みたまえ」
そう言って、マツザカは私の前にオストリッチの死体を投げつけた。
「そ……、そうですか……、なら良かった」
「おう、良かったな。お前達。私に面倒ごとを押しつけることが出来て」
「へ?」
下を向きながら息を整えていると、目の前で見知った声が聞こえた。
「あ……、レ、レイカさん……」
自警団の件をすっかり忘れていた。
レイカさんがここにいるということは、すなわち、レイカさんが自警団の処理をしたということ。
そして、レイカさんは明らかに怒っている。
つまり……
「レ、レイカさん……。あの、これには深い訳がですね。その、マツザカさんが……」
「おう、こいつがどうかしたか?」
親指を下に向けるレイカさん。
そこには……。
「ま、マツザカさーーーん」
レイカさんに踏まれ、気持ちよさそうにしているマツザカがいた。
「お、おっふ、気を付けろヒカリさん。レイカちゃんはこう見えて、冒険者志望だったことのある武闘派。並の冒険者ではかてな……アアンッ」
マツザカの言葉を遮るように、マツザカの顔を踏みつけるレイカさん。
「ははは。そう言うことだ。次はお前だ、ヒカリ。お前達のせいで、なぜか私が怒られて、減給までされたんだ。覚悟しろよ?」
「は、ははは。もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ、おうち帰るうぅぅぅぅ」
全てが嫌になって、走り出す私。
「まて、こらぁぁぁぁぁぁ」
そんな私をレイカさんは鬼のような形相で追いかけて来るのだった。
________________________________________
少しでも面白いと思って下さった方は応援レビューをお願いします!
また、フォローをして頂くことが出来ましたら、これに勝る喜びはありません!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます