泥船

杠明

第1話

目を覚ますとそこは病院の一室であった。

どれだけ眠っていたのだろうか、光が目に痛い。

視線を移すと腕から伸びた異様な色の点滴のチューブとバイタルセンサーが見える。

何があったか思い出せない。


「おはようございます、目を覚まされました」

部屋の入り口には白衣を着た壮年の男性が立っていた。

「ココハドコデスカ」

久しぶりに発声したしたせいなのか自分のもとは思えない声が出た。


「まず何から話したらいいか……そうだまずは名乗るべきだったね。私は江賀栖えがすと言ってね、医者というより研究者なんだ」

「医者デハナイノデスカ?」

声を出すと声帯でなくもっと下、首と胸の境目あたりが振動する。

「うーむ、順を追って説明させてもらうよ、質問はそのあとにしてくれ」

有無を言わさぬ口調で遮ると江賀栖と名乗る男はベッドわきの椅子に腰かけた。


「君は三か月前、強盗に襲われた。その時の怪我がひどくてね医者にはどうしようもなく半ば死にかけたのだ」

そう言い切ると病人の前だというのに白衣の胸元から煙草を取り出し火を付けた。

「そこで幸運なことに私のところに君が回されてきたのだ」

微笑を浮かべながら私の顔を見ている。


「私の仕事はね、義体の研究と実用化だよ。義体、聞いたことあるだろう?」

煙草の灰が白いシーツの上にポトリと落ちる。

「君の内臓、肺、肝臓と胃、それに腸とひどい状態だった。ああ、無論心臓もね。そこで私が開発した人工臓器を君の体に入れさせてもらった」


「僕ノ心臓ハモウ機械ナノデスカ?」

意識を集中すると鼓動を感じる。

これが機械だというのか?

「もとより心臓は血液を全身に送る器官だよ、特別扱いしちゃ他の内臓が可哀そうじゃないか。本当はねキマリゴトで事前に本人の意思確認が必要なんだが、意識がなかったし緊急ってことで勝手させてもらった。死ぬよりはマシだろ?」

死ぬよりは……マシなのか。


「疲れただろうがもう一息頑張って聞いてくれ。少しずつで構わない、君の身体の他の部位も義体化しようと考えているんだ」

「ドウシテデスカ? 手足ハ無事ダッタノデハナイノデスカ?」

「まあ、そうなんだがね。考えてみたまえ、事故にあえば怪我をする、骨が折れる。年を取れば筋力が衰え碌なことはないではないか?ないも今すぐってことではない。急かすつもりはないゆっくり考えてみてくれ」

考える前に僕は疲れからくる睡魔に勝てず瞼を閉じていた。

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