深夜
鼬炉ヒソ
話
深夜2時にホラー映画を誰かと見てはいけない。
(貴方は一緒にホラーを見てる人間の顔を触っている。それはその人がまだ人間であることを確かめるためで、頬の筋肉が動き、笑顔の動きをしているのを感じている。喉に触れれば、振動と共に音声を返してくれるだろう)
ふと、映像に集中する。来るジャンプスケアを、恐れるであろうと思いながらも見ずにはいられない。そういう性を自覚する余裕があった。
驚き。怪異はそうして恐怖を与える。製作者の意図を考える余裕はない。ただ、彼らの目論見通りに恐れを得るのみである。
そうだ、君の手は強張るだろう。隣にいた人間の頬をより強く押し、君の身体はより密着を求めるのだ。
そして気づく。
(気付き。嗚呼、君の手から伝わる感触は不動である。先まで柔らかさと振動の返信をしていたソレは、もはやその役目を終えている。刮目する。貴方は、君は見るのだ。斜め四十五度に位置するその物体を。誰だ? それが望んだ人間か?)
君は、知る。
歪んだ口を見よ。開かれた目を見よ。ああ、画面の再来。隣人は怪異となりて君を見つめるのだ。何が起きたか理解できぬまま、君は取り殺されるのか。
運は良い。ああそうだ、君は運がいいんだ。君の肩に伸びる手を君は払い除けられる。部屋から出よう。
もはやすでに靴を履く思考はない。ただ戸を開け、外に出る。玉砂利を踏み鳴らし、玄関を蹴飛ばし、親指の痛みも気にせず、コンクリートへ足を踏み出すだろう。
石が指と指の隙間に入る。踏み潰したときの痛みを創造する。苦痛。
走る。そう、走る。
追われているのか? そうなのか? 坂を登る。寝巻きが汗を吸う。足が重い。準備運動をしていない足は痛みを覚える。
交差点に出る。街灯とマンションの蛍光灯。月はある。明かり、それは幸福。だが、不幸でもある。この程度の明かりでは、心の平静は戻らぬ。
さぁ、君は再び坂を登る。
見慣れた景色を行くのだ。そういえば君は大学生だったか、社会人だったか。いつも駅へ向かう道があるみたいだ。無意識は足を進める。何を考えることもなく、ただ歩を進めるのだ。
人はいない。車が時折通る。人が乗っているはずだが、そんな気配はしない。
オレンジ色の灯りが道を照らす。時折白色光が見える。
大通り、高層マンションがある。ぽつぽつと光る窓、人間がいると思える。
赤信号を渡る、人のいない信号に意味はない。白を踏む。黄色に変わる。
マンションの足元につく。君は息を吐く。疲労が出る。
疲れたろう。
お疲れ。
後ろを向こう。
ほら。
ァ——
(リバースシンバル、そして暗転。)
深夜 鼬炉ヒソ @itatirohiso
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