第17話 戦争
「エドガーさん、奴ら動き出した見たいだぜ」
「それでは作戦開始です……!」
昨日一日でできる限りの準備を完璧に終えた。村の周りには馬防柵を立て、元からあった水路を延長し堀の代わりに、更に
「……グレイさん、頼みましたよ」
正規軍相手に素人が真正面からぶつかるのは愚策だ。地の利を活かして敵を翻弄する。
「……ボス……! ……やった……!」
「よし、それじゃあ私たちも逃げますよ!」
「ビギィィィ!!!」
山肌を滑るように降りてきたグレイが引き連れてきたのは、ワイルドボアの群れだ。
あれを相手するのは訓練された兵士であっても骨が折れるだろう。
「うおっ! なんだあれは!」
「だから俺はこんな田舎に来るのは嫌だったんだ!」
村に着く前から仕事が増え敵軍も悲鳴を上げている。しかしそれだけで敵兵を戦闘不能にし数を減らすことはできない。
「──あ、向こうに村人がいるぞ!」
「これも奴らの仕業か!」
「追いかけろ! 今日はもう殺して構わない!」
「え、エドガーさん! 見つかりました!」
「では右から回って村まで戻りましょう!」
敢えてちゃんとした道を迂回して女子どもを逃がし閑散とした村へと入る。
敵兵はまんまと釣られて真っ直ぐ私たちを追いかけてきた。そして、
「うわぁぁぁぁ!!!」
「な、なんだこれはァァァ!」
「はは! こりゃ滑稽だな!」
「上手くいきましたね!」
草木でカモフラージュした落とし穴。なんとも古典的ではあるが初見では避けようがない。
「き、気を付けろ!」
「よく足元を確認するんだ!」
落とし穴はただ落とした敵兵を無力化するだけが目的ではない。辺りに見えない脅威があると分かった敵は自然と行動が制限される。
落とし穴やトラップがあるエリアは撤退ないしは迂回を強制される。強固な防壁を築かなくとも進軍の阻止、遅延ができるのは大きい。
「戦争となれば事前準備は必須。大した偵察も行わずに本隊で乗り込んできた向こうの失策ですね」
この程度の罠なら本来は専門の部隊があれば簡単に解除し乗り越えられる。しかし本隊が丸ごと突っ込んでくれば簡単に召し捕ることができるのだ。
「ですが結局数で押されればどうしようもありません。私たちが入ってきた所も柵で塞ぎ、弓で遠距離攻撃に努めましょう」
「おう! 俺も弓なら多少の覚えはある!」
「私は弓はまだまだですが頑張ります!」
どうしても敵は諦めてくれないらしい。すぐに敵は村の周りまでやって来た。
しかし思惑通り柵に阻まれ中までは入って来れていない。狙うなら動きが止まっている今がチャンスだ。
「全員斉射! ──アイスピックスピア!」
弓と魔法で敵を一方的に撃ち下ろす。相手がよく訓練された軍人なら多少の犠牲を払ってでも柵を突破することだけ考えて攻撃を続けるはずだ。しかし彼らは死人が出るとすぐに撤退していった。
「やりました! 敵がどんどん逃げていますよ!」
「……これは少し拍子抜けですね」
無理やりにでも柵を壊さなければ何度も同じことを繰り返すだけだ。
「では再び柵を修復し敵襲に備えましょう」
「お、おい、奴ら本気を出して来たぞ!」
「なるほど、ここで来ましたか」
暗くなり始めてからの攻撃。夜襲は防衛側を精神的にも追い詰める良い作戦だ。それに闇に紛れれば遠距離攻撃の狙いも定めずらくなる。
「村の裏で柵が一部突破されたぞ!」
「私が行きましょう」
「エドガーさん! 私も行きます!」
「……ボスの援護……任せて……」
「……メアリーさん、グレイさん、お二人は自分の身を守ることを優先してください。ここに来てちゃんとした作戦を立てて一気に突破されました。恐らく敵も本腰を入れて主力を投入してきています。いくら私が訓練したと言っても相手がプロの軍人となれば話は別です」
「そ、そんな……。エドガーさん一人では危険すぎます!」
私も元は一兵卒であった。だからこそこの少女二人の強さで敵う相手ではないとよく分かっている。
「だ、誰か助けてくれ!」
「うわぁぁ! や、やめてくれ!」
「……それでは、行ってきます。必ず生きてまた会いましょう──」
「エドガーさん!」
「……ボス……!」
私は彼女たちの呼び止める声に振り返ることもなく、聖剣を抜き暗闇の中へ飛び込んで行った。
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