多くの者を助けし英雄

揚惇命

多くの者を助けし英雄

俺の名は来世大聖くるりやたいせい。消防官の父と救命救急医の母から産まれた。これはそんな俺の生涯の物語だ。


夏の暑い日差しの中、母が産気づき父の運転する車で近くの御岳産婦人科病院に向かう。父が「朱里しゅり大丈夫だからな。もう着くからな。頑張れ」と母に声をかける。母は「まもるさん、産まれそう」と返事をする。「あわわ」と慌てふためく父。そんな会話をしながら御岳産婦人科病院に着く。着いてすぐに母は分娩室ぶんべんしつに通される。看護師さんに「旦那さん、どうか奥様の手を握ってあげててください。それだけで安心するものですから」と声をかけられる父。父は看護師さんに「わかりました、大丈夫だからな朱里」と言い母の手を握る。御岳院長が「この子元気ですね〜。もう頭見えてますよ〜。もうひと頑張りです。ヒッヒッフゥー、ヒッヒッフゥー」と言う。母を大きく息を吸い「ヒッヒッフゥー」と吐き出す。それを見て御岳院長が「そうです良い感じです。さぁもう一回行きましょう」と言う。ノリの良い感じの先生の名前は、もう何人もの子供を取り上げてる御岳産婦人科病院の院長で御岳晴明みたけはるあき先生だ。俺も将来お世話になるこの先生は御歳42歳の大ベテランだ。母は最後に大きく息を吸い渾身の「ヒッヒッフゥーーーーーーーーー」と息を吐き出し、俺は「オギャアーオギャアー」と産声を上げた。御岳院長は「はーいお疲れ様でした。元気な男の子ですねぇ。母子共に健康。良く頑張りましたね」と頑張った母に労いの言葉をかける。母は「主人が隣で手を握ってくれていたので安心でした」と答える。御岳院長はその言葉を聞き「それは良かったですねぇ。最近は立ち会い出産も増えてきています。家族で新しい命を迎える喜びを噛み締められたのなら良かったです。では5日ほど入院していただき問題なければ退院という形にしましょうか?」と父に確認していた。父は「はい、朱里のことよろしくお願いいたします」と御岳院長に言う。御岳院長は「えぇうちのスタッフは優秀ですから安心してお任せください。では失礼致します」そう言って、スタスタと入院手続きに向かっていった。母の腕の中でスヤスヤと眠る俺。母の頭をポンポンして、「朱里、ありがとう。お疲れ様」と労う父。そこには確かな幸せの香りが漂っていた。


産まれた俺の名前は大聖らしい。大きな智徳の優れた人になってほしいって名付けたそうだ。そんな俺は父と母の愛情と美味しいご飯で、スクスクと育ち明日小学校に入学する日を迎える。今日は父と母と共にランドセルを買いに近くのホームセンターのニケヤに来ている。父が「大聖、どんなランドセルが良いんだ。好きなの選んで良いぞ」との言葉に目を輝かせ父の消防官の制服姿を思い出し紺色のカバー部分で中の色は橙色のランドセルを手に取った。父は不思議そうに「どうしてこの色なんだ?」と言う。それに僕が「カッコいい父さんの活動服と現場服の色だから」と答える。母が「あらあら、大聖ったらお父さん泣いちゃってるわよ」と言う。母の言葉で見た父は確かに感激して泣いてるみたいだ。父は涙を止めると「よーしよし、大聖が決めたんだ。このランドセルを買うとしよう」とランドセルを持ち、レジで会計を済ませる。俺は明日の準備をするといっても入学式だ。大した用意はない。筆記用具を入れれば準備は完了だ。お風呂に入りご飯を食べ歯を磨き、明日からの学園生活に思いを馳せ眠りについた。


入学式の恒例といえば長い学園長の話だ。これは俺の小学校でも変わらない。あまりの長さに立ったまま眠り出す学生がチラホラ。もちろん俺も夢の中へ。「大聖君起きて」と声をかけられる。その言葉で目を覚ます俺。「ん?朱莉ちゃん、おはよう」と僕を起こしてくれた幼馴染の女の子美作朱莉みまさかあかりに声をかける。朱莉に「アンタね。おはようじゃないわよ。寝てたでしょ」と言われ俺は笑いながら「アハハだって学園長先生の話が思った以上に長いんだもん」と返す。すると朱莉は「長くてもきちんと起きて聞く当たり前なんだからね」と僕を説教する。「だって」と言い訳しようとする俺に朱莉は「だってじゃありません。ほんと大聖君ってほっとけないんだから」と言う。すると横から「また夫婦喧嘩してんのか?」と幼稚園から馴染みの矢萩検察やはぎけんさつに茶化される。横槍に腹が立った朱莉ちゃんは「誰が夫婦よ。てか矢萩も寝てたわよね」とその矛先を検察に向ける。検察はその言葉に「勘弁してくれって。世話焼くのは大聖だけにしとけよ」と茶化す。それに起こった朱莉ちゃんが「もーう頭来た」と言い「やっべにっげろ〜」と言う検察を追いかける。「検察も朱莉ちゃんに怒られたくてやってるよね」と俺が呆れまじりに言うと朱莉ちゃんから「ほら大聖も捕まえるの手伝う」と「えっ待ってよ〜」と追いかけっこに参加する俺。そんなこんなで楽しい小学校生活が幕を開けた。


学校行事の楽しかった思い出といえば修学旅行だ。なんでこんな話をするかってそれはもう明日で卒業式を迎えるからだ。修学旅行は、首都圏にあるDMCランドだ。DMCランドは、毎年500万人以上の入場者数を超える大型レジャーランドだ。俺と朱莉と検察のお馴染みのメンバーに柊紬ひいらぎつむぎちゃん、春馬治はるまおさむ橘光たちばなひかりちゃんの六人パーティだ。紬ちゃんと治と光ちゃんとは6年間同じクラスで自然と仲良くなった。朱莉ちゃんから呼び方が朱莉に変わっているのは、小学校4年の時の花火大会で告白して晴れて恋人同士になったからだ。治の「やっぱりさ絶叫マシンは欠かせないよな」との言葉に朱莉がガタガタと震える。それを見た検察が「おい、なんだよ。朱莉怖いのかよ」とここぞとばかりに責め立てる。その言葉に朱莉は「怖くなんかないわよ。良いわね絶叫マシン乗りましょう」とガタガタと足を振るわせている朱莉。朱莉の隣に検察が乗り込もうとしたのを俺が遮り「悪いなぁ検察。朱莉の隣は俺専用なんだ」とカッコよく言う。俺の言葉に朱莉が「何言ってんのよ馬鹿」と言う。検察が残念そうに「ちぇっせっかく隣で朱莉のビビる姿見れると思ったのによ」と言う。朱莉は「ビビってなんかないわよ」と強がる。前から検察と紬ちゃん、真ん中に俺と朱莉、後ろに治と光ちゃんが乗り込む。ガタガタと震える朱莉の手をギュッと握る。朱莉の「何ひょっとして大聖も怖いの?」って言葉に「あぁ実はちびりそうなぐらい怖いんだ。だから朱莉の手握ってても良いか?」と聞く、朱莉は「しょうがないわね。彼氏の頼みだもん。聞いてあげるわよ」と返す。俺は「ありがとな朱莉」と言う。そして唐突に動き終わりを迎える絶叫マシン。検察が「おえーオロオロオロ」と紙袋に吐いている。「検察君、大丈夫」と言い背中を摩ってあげる紬ちゃん。対照的に朱莉はと言うと「はーすっごく楽しかった〜ね〜もう一回乗ろうよ」と元気だ。足震えてたのは何だったんだ。まぁ楽しかったけど(笑)。僕と朱莉、光と治でもう一周絶叫マシンを満喫してきた。検察の「アイツら化け物か」との言葉に紬ちゃんは「まぁ誰だって苦手なものくらいあるから検察君が気に病む必要はないと思うよ」と言う。その言葉に検察は「紬ってすごく優しいんだな。俺惚れちまったかも」と。紬ちゃんは驚いた後に冷静に「えっえっあのごめんなさい」と言う。検察は「フラれるの早ぇーなおい」と呟き。紬ちゃんは「まぁ、お友達からなら」と返す。それに対して検察は「お友達でもなかったんかーい」と戯ける。それに紬ちゃんは笑い「アハハ、検察君って面白いね」と検察は「まぁ笑ってくれたなら良かったけどよ」と頭を掻きむしる。そんなやりとりがあったことを紬ちゃんから聞き俺は笑い転げた。でも、あれは凄く印象に残るよな。だって、煽ってた検察がゲロゲロで煽られた朱莉がウキウキなんだから。「何もの思いに耽ってんのよ」と卒業証書の入った筒で頭をコツンと殴られる俺。「いてぇ、やったな朱莉」と俺は負けじと朱莉の頭をクシャクシャと撫で回す。それに対して「やめて、髪は女の命なのよ」とドヤ顔する朱莉。「何ドヤ顔してんだよ」と言い笑う俺。こうして小学校生活を終えた。


そして、デジャブのようにまた、長い学園長の新入生への挨拶だ。そう中学生になった。ダメだ寝ちまう。ストンと頭を落としそうになると隣に居た朱莉が受け止め「もう大聖ったら仕方ないから私の肩貸したげるね」と肩に頭を乗せてくれる。俺はあまりの気持ちよさにスヤスヤと眠ってしまった。「大聖起きろ〜」俺を呼ぶ声に目を開ける。「ふわぁっ、おはよう朱莉」と俺を覗き込む朱莉に返事をする。朱莉は「おはようじゃないわよ全く。ずっと私の肩占領してくれちゃって」と不機嫌なフリをする。取り敢えず「あっごめん」と謝る俺。朱莉は「良いわよ。可愛い大聖の寝顔見れたし」と顔を赤らめる。僕は聞こえないフリして最後の言葉をもう一度聞きたくて「えっ」と聞き返す。朱莉は恥ずかしいのか「何でもないわよ。教室に行くよ」とスタスタと教室に向かってしまった。俺は小学校時代も一度も朱莉とクラスを離れなかった。そして中学校時代も離れていないみたいだ良かったぁ。入り口で朱莉がチャラい男に「君可愛いね〜。僕の彼女にしてあげるよ」と声をかけられている。何だアイツ俺の大事な朱莉を口説こうってのか間今日じゃねぇか表にでやがれ。朱莉は「間に合ってます」と断る。尚も食い下がり「俺様死神留目しのかみとどめの彼女になれるなんて幸運なことなんだぜ」とか言ってやがる。まわりの取り巻きの女も「そうよそうよ留目様は死神ホールディングスの御子息なのよ。貴方も大人しくハーレムに加われば良いのよ。所詮、顔がいいだけの女なんだから」とカチーンときた朱莉のこと何も知らない女が顔が良いだけの女だと朱莉は器量も備わってるわ。そもそもテメェみたいな尻軽女が朱莉のこと語んなっての。俺は朱莉の手を掴むその女に「おい、お前その汚い手を離せ」と言う。「何よアンタ」と言う尻軽女に「聞こえなかったのか?俺の大切な朱莉にビッチが薄汚い手で触ってんじゃねぇって言ってんだよ」と言葉の先制パンチを喰らわす。「誰がビッチよ」と言う尻軽女に「お前のことだよ。わかんねぇのか。頭悪いな。権力に簡単に腰降るしかできないビッチがよ」とさらなる言葉のパンチを浴びせる。形勢不利と判断したのか「まぁ失礼しちゃうわ。行きましょう留目様〜」と留目の袖を引っ張って、離れようとする。留目は「あぁそうだね。この人達には俺様の尊さがどうやらわからないらしい」と言い、俺の隣を通り過ぎる際、耳元で「お前のこと覚えたからな覚悟しろよ」と、そう確かに言われた。朱莉が心配そうに「大聖、大丈夫」と言うので、俺は「あぁ朱莉こそ変なことされてねぇか?」と朱莉を気遣う。朱莉は「大丈夫よ」とこうして前半は悪夢のような中学生活が始まった。


留目は、宣言通り取り巻きと共に俺にイジメを行う。だが物理的に来て、取り巻きだけでなく自分もリンチに参加する無能だったので、仕返しとばかりに動画を撮って、匿名で死神ホールディングス社長である留目の父に送りつけてやった。次の日からこっぴどく怒られたらしい留目は、表向きは大人しくなり、物理的をやめ陰湿的に物を隠したりなどをする。だが何処に目があるかわからないと言った感じで、あんまり酷いのは無い。世間的な体裁で、そういうケチは付けたくないってことなんだろう。しかも自分ではなく全てを取り巻きに任せるという周到っぷり。これでは、誰かがチクッても処罰されるのは取り巻きだけだ。腹が立った俺はアイツが指示しているところの音声を匿名で学校放送で流してやった。困った学園長は事実確認のため留目の親を呼び出した。その結果、留目は短期留学という扱いで、学園に在籍はしているが通わない扱いとなった。取り巻きたちも大人しくなり、玉の輿を狙ってた女どもは留目の家に押しかけてるらしい。アレでもビッチじゃないと言い張るのだから凄いもんだ。留目の被害に遭ってたのは、複数人いたらしく、中には彼女を目の前で強姦された奴もいたらしい。皆一様に告げ口をした名前も知らぬ英雄ヒーローに感謝していた。


中学校生活の楽しい行事もやっぱり修学旅行だ。一年半も留目のせいで無駄にした分楽しまないと。中学の修学旅行はなんと海と山。メンバーだがこれもデジャブ。治に光ちゃんに紬ちゃんに検察、それに俺と朱莉だ。俺の「またこのメンバーになるなんてな」に治が「ハハハ、まぁ気心知れてる分楽だけどな」とその後、治と2人で薪を集めに向かう。治に留目の件で礼を言えてなかったからだ。俺は「治、一年の時、ありがとな」と言うと、治は「あぁそんな昔のこと覚えてねぇって言いたいとこだけど留目から虐められた時に貸してやったアレだろ。高性能だったろ」と言い俺が「あぁあのペン型カメラのおかげで証拠を押さえて死神ホールディングスの社長に送りつけれたからな」と語ってないことを話す。治は驚きながらも「お前、無茶したな。あの会社は、表向きは輸送会社なんだけどよ。裏では暗殺を生業としてる恐ろしいんだぞ。もう2度と関わんじゃねぇぞ」と誰も知り得ないことを教えてくれる。「そんなにやばいやつだったのか」と呟く俺に治は「まぁ留目はまだガキだから裏のことまでは知らなかっただろうから大丈夫だとは思うがな」と俺をその言葉を聞き「ホントお前の調査力すげぇよな」と言う。治は「まぁな、うちは探偵業を生業としてるからな。まぁまた困ったことがあったら相談してくれ。友達ダチの頼みなら安くしとくぜ」と俺は「あぁ頼りにさせてもらうよ」と返す。治が「さぁこれぐらいで良いだろう。戻るぞ大聖」と言う言葉に「おぅ」と答えてみんなの元に戻る。戻ると薪で火を起こしその上に飯盒を置いて米を炊く。鍋の方は女性陣が肉と人参とじゃがいもと玉葱を切る。それを鍋に入れて、カレールーを入れて煮込めば完成だ。初めて自分たちで作ったカレーにしては上手くできていた。検察の「うめぇ〜」って言葉に朱莉が「てか検察って何してたの?大聖と治は薪集めに行ってたけど。アンタ何もしてないわよね。これは没収です」と言う。検察は「おい待て待て俺は見守ってたんだ。見張りだよ〜」ときちんと仕事していたアピールをするが朱莉はすかさず「それ何もしてないのと同じだよね」と観念した検察が「ごめんなさい朱莉様、もう許してください」と泣き真似するが朱莉は「ダメー」と通じない。「そんなぁ」と項垂れる検察。「アハハ」とみんなが笑う。カレー作りが終わるとみんなコテージに戻り夜を明かす。明日は海で海水浴だ。朱莉の水着姿グフフニヤニヤ。好きな女性の水着姿を想像して、興奮して寝られなかったのは内緒だ。「おーい大聖、起きろ〜」誰かの呼ぶ声で目が覚める。「ふわぁっ、治?」どうやら起こしてくれたのは治だったみたいだ。治は「おはよう、あんまり起きないから荷物はこっちでまとめといた」とその言葉に俺は「ありがとう」と御礼を返す。俺は急いで身嗜みを整えて、みんなが待つ集合場所に向かう。集合場所に着くと印刷の先生が「はーい、それでは今から山を降りて下に見える海の家に荷物を置いたら海水浴の時間です」と今日の予定を告げる。その言葉に検察が「ヒャッホーイ」と歓喜に震えていた。引率の先生に付いて山を降り、海の家で荷物を下ろし、それぞれの部屋で水着に着替えて海に向かう。俺の水着はトランクス型だ。さぁ朱莉の水着姿は、ほほぅこれは白のフリルの付いたビキニ最高ですなぁ。朱莉は俺の視線に気付き「大聖、視線がエロいんだけど」と言う。俺は悪びれもせず「何を言う。彼女の水着姿に興奮しない男がいるなら連れてこいってんだ。ふがーふがー」と鼻息を荒くする。呆れて何も言えない朱莉。検察の「紬、お前それ紐パンじゃねぇか」って言葉に「えっ変かなぁ?」と聞き返す紬ちゃんに検察は「いやいや良い。すごく良い」と鼻血を吹き出し倒れる。俺は朱莉に「アイツのがよっぽどエロいだろ」と朱莉も「そうね。何を想像したのかしらね。あの馬鹿」と治は「検察らしいけどな」と言う。「お待たせ〜」と遅れてやってきた光ちゃんの水着はピンクの花柄模様のビキニ。光ちゃんは「治に選んだもらったのエヘヘ」とニヤけている。治はそんな光ちゃんの肩を抱き寄せ「すげぇ似合ってるだろ俺の女の水着姿」と光ちゃんは「もーうヤダー」と顔を赤らめペシペシと治を叩く光ちゃん。バカップルめと心で思う。鼻血を出して倒れてる検察は、取り敢えずほっといて泳ぐ。一通り泳ぐと、起きた検察が合流したので、6人でビーチバレーをする。俺と朱莉と紬ちゃんチームvs治と光ちゃんと検察チームだ。結果は紬ちゃんの揺れる上半身にやられた検察が何度も鼻血を出し足を引っ張るので俺たちの勝利だ。そんな楽しい中学生活を終える。


それぞれ別の高校に行くと思うよなぁ普通。だが、違うんだなぁ。なんと、まさかの全員同じ高校に受かりました(笑)。高嶺高等学校、公務員を目指す俺たちが自然と行き着くのは当然だった。この学校はなんと初の公務員を目指す人の集まる高校で、そのまま公務員を養成する大学、高嶺大学へと進学できるのだ。俺は消防官、朱莉は警察官、検察は検察官、治は機械職、紬ちゃんは看護師、光ちゃんは弁護士。必然的に集まった感じだ。授業の内容も特殊で、5教科の授業の他に6時限目に救急救命や身体づくりのための柔道や剣道がある。そんな高校で揉まれた俺たちの身体は通常の高校生よりは圧倒的に筋肉質だろう。その説明をなんと学園長先生が新入生挨拶で語るもんだから、これまたデジャブのように長い話が延々と続けられる。そして残念なことにこれを寝ずに聞いていた生徒が教室に入るとそのことについて書かれた冊子が御丁寧に机に置かれているのだ。俺は今回ばかりは、睡魔に耐え教室に入ってこの冊子を目にしたのだ。バッタンキューしたのは言うまでもない。高校生活の楽しみはたくさんある。


1年目はなんと校外学習でそれぞれが目指す職種へ体験学習しに行けるのだ。そして俺は希望する消防官の体験学習のため安座間消防署に来ていた。担当官が「消防官を目指す若者がこんなにたくさんいて嬉しく思う。今日から3日間の体験学習で皆を担当することになりました来世護くるりやまもるです。護教官とお呼びください」と挨拶してくれる。まさかの担当官が父だとは(笑)。俺も含めて全員が「宜しくお願いします。護教官」とビシッと挨拶する。護教官は「では先ずはジャージに着替えて、この裏にある消防士たちの練習場に行きましょう」と言う。案内された訓練場では、消防士たちがロープを掴み壁を登ったり、ピンと張られたロープを手と足で捕まり反対側に渡っていた。「今日は皆さんにこれを体験してもらいます」と護教官が先ほど登っていた消防士を呼び「巣鴨、体験学習生に完璧な手本を見せてあげてください」とそれに巣鴨さんは「了解しました」と答え、目の前の壁をロープで駆け上がり、ロープを伝って反対側に到着した。その時間脅威の3分。護教官は軽く頷くと俺たちの方に向き直り「このように消防士たちは一分一秒を争います。遅れれば遅れるだけ被害は拡大するということを心に刻んでください。では始め」とそこからは地獄だった。ロープで壁を駆け上るだけでヘトヘトになり、そのあとロープを伝って反対側に到着する頃には汗だくになっていた。護教官が俺の側に来て「15分ですか。初めてにしては上出来ということにしておきましょう」と肩を叩いてくれる。俺がどうやら1番早かったらしく、他の生徒は20分オーバーはザラだった。皆一様に汗をかいている。負けず嫌いの俺は繰り返し繰り返しやり、なんとかタイムを8分まで縮めることに成功した。


巣鴨さんが「護さん、8分は凄いんじゃないですかねぇ。あの子見どころありますよ。さすが護さんの息子さんですね」と護教官に言うが護教官は「息子だからといって特別扱いしたりはしませんよ」とそれに対し巣鴨さんが「そりゃ最もなことです」と去ろうとする巣鴨さんに護教官が「ところで巣鴨、いつもは2分半なのに今日は3分ですか。手を抜きましたね」と巣鴨さんは頭を抱えながら「いやいやそんなことないっすよ」と言うが護教官には通じなかったらしく「つべこべ言わずにスクワット1000回」と言われ「ヒェー」となったらしい(笑)。何故知ってるかと言うと巣鴨さんがそんなやりとりをしていたと休憩室で面白おかしく教えてくれたからだ。1日目はひたすら壁登りとロープ渡りで体験学習の終了時間が過ぎていった。2日目は、実際に現場実習ということで、山で遭難した人役の隊員を救助することになった。俺たちは山登り用の服に着替えて、懐中電灯と地図を頼りに遭難した人を探した。山で探していると不思議な感覚で、自分も吸い込まれるかのような気持ちになる。これが山の怖さかと探索から6時間後にようやく発見し救出した。まさかの遭難した役の隊員は護教官こと父さんだった。護教官は「この3日間は君たちの教官だから付きっきりなのだから当然だ」と言っていた。巣鴨さんは俺たちを見れる場所で何かあった時のサポートに控えてくれていたみたいだ。こうして2日目も何事もなく無事に終わった。3日目は実際に体験しようということで、出動できるように待機していた。そして唐突に鳴り響く機械から「安座間市北区にて火災発生との通電アリ、すぐに現場に向かわれたし」と人の声が流れる。その声を聞くや否やみんなシュルシュルと下に降り着替えて乗り込む。僕たちも活動服のまま乗り込む。巣鴨さんの「どうやらマンションみたいですねぇ」に護教官が「二次災害になってないと良いが」と心配する声を聞きながら現場に到着する。だがどこも燃えていない。首を傾げる俺たちを他所に消防士たちは「悪質な悪戯だな」と呟いた。巣鴨さんはそれを聞き「まぁでも住民のみんなに被害が出てなかったのなら良かったんじゃないすか」の声に他の若手の消防士が「取り敢えず本当に悪戯かどうか周り見回ってから帰りますか?」と言いそれに護教官が「そうだな、後は付近の見回りの強化もしておこう」と言い消防士たちが「了解です」と言う。悪戯だったみたいだが消防士たちの1日に触れる良い機会になった。見回りが終わり安座間消防署に帰ると体験学習の3日目が終わった。俺たちはお世話になった護教官と巣鴨さんに花束をプレゼントして、「3日間貴重な体験をさせてくださりありがとうございました。この経験をバネにますます精進したいと思います。本当にありがとうございました」と御礼を述べる。護教官は照れながらも「えーこんな花束を頂き、誠に恐縮ですが、コチラも消防官を目指す若者のお役に少しでも立てたのなら幸いです。こちらこそありがとうございました」とこうして実りある1年の体験学習は終わった。


2年の時の思い出と言えば、なんと言っても文化祭だ。うちのクラスは可愛い女の子が多い。男性陣の満場一致で、メイド喫茶になった(笑)。だが俺たちも執事服を着せられる。なぜこうなった。眼福したかっただけなのに。朱莉に「ほら大聖。ぼさっとしてないで、お客さん待ってるわよ」と言われ慌ててお出迎えに向かい「いらっしゃいませお嬢様」と言う。すると「あらやだお嬢様だって護さん」からの「朱里は永遠のお嬢様だよ」からの「あらやだー」って父さんと母さんかよ。朱莉も「いらっしゃいませ御主人様」とこっちに来る。母さんが「何照れてるのよ護さんったら」と言うので父さんの顔を見ると赤くなってる。朱莉もようやく俺の父さんと母さんだとわかったらしく「えっおば様とおじ様」と驚いていた。母さんが「朱莉ちゃんと大聖の晴れ姿見たくて4人できたわよ〜」と言い、おじさんが「普通顔見て親のことぐらいわからんもんかね」と御立腹なのをおばさんが「まぁまぁゆずるさんそれぐらいにしておいて」と嗜めていた。尚も「瑠美るみは朱莉に甘すぎる」と今度はおばさんに説教していた。見兼ねた朱莉が話題を変えるべく「父さんに母さん、今日は仕事で来られないんじゃ」と言い、おじさんが「署長がな娘の晴れ舞台を見てきなさい。と非番を代わってくれたのだ」と理由を話し、続けておばさんも「私も裁判長がね。行っておいでって、代わってくれたのよ」と理由を話した。朱莉の父の譲おじさんは、安座間警察署の一課長で、朱莉の母の瑠美おばさんは、安座間地方裁判所の裁判官を務めている。瑠美おばさんを見て、弁護士を目指している光ちゃんが駆け寄って「瑠美裁判官様だ〜マジ本物。ファンです。私も法律家を目指しています」なんて言うからおばさんも気を良くして「あらあらこんな可愛い子にファンだなんて言われるとは、私もまだまだ捨てたもんじゃないわね」なんて言ってる。光ちゃんが「弁護士志望です」と言うとおばさんは「あらあら、弁護士志望なのね。法廷で会える日を楽しみにしているわね」と言いそれに光ちゃんが「はい」と答えた。ウルウルしながら何度も瑠美おばさんの手を握っている光ちゃん。アレはきっともう2度と手は洗わないとか言い出すぞ。光ちゃんが「私、この手はもう2度と洗いません」って早速かーいとツッコミたくなる速度だった。治が光ちゃんの言葉を聞き「そか光が手を洗わないならもうイチャイチャできないな」と言う。確かに手を洗わないとなるとバイ菌とか繁殖し放題だもんな。流石に嫌だよな。光ちゃんは治の言葉を聞いて「えっそれはやだ」とすかさず治が「じゃあ手は綺麗にしようか」と言うと光ちゃんは素直に「うん」と言った。一部始終を見ていたおばさんは「あらー彼氏さんに負けちゃったわね。ガックシ」とか言うもんだからみんなで笑った。光ちゃんは絶対Mだな。治はSだから相性良いんだろう。こんな感じで親も来る文化祭だったけど、とても楽しいのは、休憩時間だ。俺は朱莉と手を繋いでデート感覚で色んなところを見て回る。中学まではお互いの家を行き来し合うお家デートで、もっぱらゲームばっかりだった。今日は文化祭デートを楽しむとしよう。外の屋台で、フランクフルトやイカ焼き、唐揚げなどを立ち食いし、お化け屋敷で、ビビる俺の手を引っ張りどんどん突き進む朱莉、最後は2人で体育館で演劇鑑賞。男女の恋愛をテーマにした作品で物語の最後2人がキスをして終わる。もちろん本当にキスなどしていないだろう男役が背中で隠す形で女性役の首に手を添える。とてもうまい演出だ。隣の朱莉も感動したのか泣いている。指で涙を拭ってやると「あっありがとう大聖」と言うので俺は「朱莉の泣き顔も可愛いよ」と言うと朱莉は顔を真っ赤にしながら「もう。大聖ったら。私大聖とキスしたい」と突然の言葉に「えっ」と固まる俺をよそに朱莉は俺の両頬を手で挟み唇を重ねる。数秒間の後離すと朱莉が「大聖、大好きだよ」と言うから俺も「朱莉、大好きだよ」と返した。演劇鑑賞して盛り上がって、人前でファーストキスするとか、今思うと何やってんだって思う。でも、最高の忘れられないデートと思い出になったのはいうまでもない。


高校3年の時の思い出といえばやっぱり修学旅行だろう。今回は初の海外ということで、場所は南国のラビアンビーチ。開放的になった外国人は、そこかしこでハグしたりキスし合ってるけど。あっそうそう何と紬ちゃんが検察と付き合うことになったらしい。検察のアプローチに、とうとう折れたのかと思ったら、そうでないらしい。実は紬ちゃん生粋の叔父様キラーだ。検察のお父様がモロタイプだったらしい。そう将来の検察の姿に期待した形だ。そんなんで、付き合うのかと思うかもしれないが紬ちゃん曰く、「検察は性格は良いので顔がモロタイプになるかもって思ったらもう決定ですよね」とのことらしい。検察の性格が良いのかどうかは、よくわからんがまぁ紬ちゃんが良いなら深くは言わない。引率の先生が「えー外国だからと言って節操を失ったりしないように楽しんでくださいね」と言うと俺たちは、海へと駆け抜けていった。朱莉が「キャー冷たい」とか言うもんだから、水をかけてやる。朱莉に水が当たり「キャッ、やったわね大聖」と仕返しとばかりにバシャーンとかけられる。あまりの勢いに鼻に水が入り、「ゴホッゴホッ」とむせる。朱莉はしてやったりと言う顔で「ヘヘン麗しき乙女に水かけるからバチが当たったのよ」なんて言うので俺は「やったの朱莉じゃん」と返すと「知らなーい」とあっかんべーとした後、砂浜を逃げるので、朱莉を追う俺。「あいつらほんと元気だよな」とパラソルと椅子を準備して、紬ちゃんに日焼け止めオイルを塗っている検察が言う。紬ちゃんは「検察、足もお願い」とお姫様になっていた。検察も「了解しました姫」なんて言ってたらしい。俺が朱莉を捕まえてお姫様抱っこしながら戻った時、治からこんなやりとりをしてたと教えられた。そう言う治の隣にいる光ちゃんの水着は少しはだけてるけどお前らまさかこんなところでやってないよな。検察が紬ちゃんに塗り終わったのを見た治が「光、俺にもオイル塗ってくれるか」と言うと光ちゃんが「かしこまりました御主人様」っていやいや流石に治こんなところでやってないよな。夜は2人部屋のホテルだ。俺のルームメイトは不動逸輝ふどういつき。俺と同じ消防官志望で、朱莉のルームメイトである警察官志望の望月弥生もちづきやよいと恋人同士だ。ふと逸輝が「なぁ大聖、お互い恋人がいる者同士、一緒のベットで寝たいとおもわねぇか」と言うので俺は「俺に男の趣味はない」と返すと逸輝が「違うって要は朱莉ちゃんがこっちにきて俺が弥生のところに行くんだよ」なんて提案するので俺は「逸輝、それはナイスアイデアだな」と返すと逸輝が「だろう、せっかくホテルなんだ何もしないなんて男じゃねぇよな」んて言うので俺も「だな」と同意した。逸輝が出ていって暫くすると朱莉が入ってきた。朱莉が「大聖と一緒に寝るなんて幼稚園の時以来ね」と背中合わせで寝るので、俺は朱莉を抱きしめ「朱莉、好きだ。大好きだ」と勢いに任せる。朱莉の「えっ大聖待って、ダメだって」なんて静止の言葉「ごめんもう待てない」と却下だ。勢いに任せてやり切った後「もう大聖ってほんと獣ね。男はみんな獣。忘れてたわ」と言うが俺は「すごく気持ちよかった」と朱莉に言うと真っ赤にしながら「私も気持ち良くなかったわけじゃないわよ。ムードのかけらも無かったけどね」と俺はこのまま勢いに任せて「朱莉、高校を卒業したら俺と結婚してほしい」と言う。朱莉は驚いたが「えっ何言ってるの?卒業して大学行くんでしょ」とすぐに冷静になり言う。「あぁ、でも俺は朱莉とずっと一緒に生きていきたいんだ」と思いの丈を吐露すると朱莉は「ひょっとして責任感じてるの?それなら大丈夫よ今日は」なんて言うもんだから俺は少し怒り気味に「そんなんじゃねぇよ。朱莉はどうしたい俺と結婚はしたくない?」と意地悪な質問を投げかける。朱莉も少し怒り気味に「結婚したくないわけないじゃない。私だって大聖のこと大好きなんだから。でも結婚で何か変わらないかって不安なのよ」と吐露する。俺は朱莉を安心させるように「心配すんな。何もかわらねぇよ。俺が朱莉のこと大好きで、朱莉が俺のこと大好きなら何の問題もねぇよ。俺を信じろ」と朱莉は観念したのか「もうわかったわよ。大聖と結婚するわ」と承諾してくれる。俺は嬉しさのあまり「朱莉〜〜〜〜」と2戦目をする。朱莉は「ほんとケダモノね。どんな体力してんのよ」と疲れ果てている。俺は「朱莉が気持ち良すぎてつい」と言うと「最初は痛いだけだったのにさっきのはそのすごく気持ちよかったわ」なんて言うもんだから「朱莉〜〜〜〜」と3戦目に突入する。朱莉は「キャー嘘でしょ。まだできるのほんと底なしね」とほとほと疲れ果てている。俺は「朱莉が愛おしすぎて」と言うと朱莉は枕に顔を突っ伏して「もう」とだけ言う。初めてで、お互い気絶するまでやるとか俺はサルか。でもすごく気持ちよかった。幸いこの時は、当たらなかった。危ない危ないお互い大学生活も控えているのに妊娠なんてさせたら、それどころじゃなくなる。朱莉と結婚するんだ。子供は大学を卒業して、就職してからだ。産まれたは良いが、育児できないなんて、もってのほかだからな。


高校を卒業すると俺と朱莉は親しい友人と両親を呼び、ささやかな結婚式を執り行った。検察の「まさか高校を卒業と同時に結婚するとはな」に紬ちゃんが「ずっと朱莉一筋だったもんね〜」と笑う。治は「おめでとうさん」光ちゃんは「おめでとう」と友人たちに祝福されながら、朱莉のヴェールを取り誓いのキスを交わす。その後、朱莉をお姫様抱っこして、ウェディングロードを歩いて出ていく。みんなの祝福の花吹雪を受けながら、所定位置に着くと、朱莉がウェディングブーケを投げる。掴んだのは光ちゃんだった。治は「流石光、次は俺ってことか」と言うと光ちゃんは憂いを帯びた表情で「治様、御褒美を」と言うので治が「光、今夜は覚悟しておけ」と言うと感極まった光ちゃんは「はいー」と治にすっかり調教されているがお互い好き同士で性癖も合うなんてほんと稀かもしれない。攻められたい光ちゃんと攻めたい治。ほんとお似合いの2人だよ(笑)。父と母が揃って「朱莉ちゃんと幸せに」とおじさんとおばさんは「泣かしたら殺す」と僕の一生をかけて朱莉を幸せにしますと誓った。


そして大学生活が始まる。学園長先生の新入生への挨拶。流石に今回は早いよね。そんなことはなかった〜高校の時のをさらに詳しくしたような説明で、周りを見渡すと撃沈してる人間が結構出ている。そんな中、頑張って、起きて、聞いて、メモを取る人も居る。真面目だなぁ。でも大丈夫だよ。僕の予想が正しければこの後レクリエーションルームの机の上に置いてあるから(笑)。俺の薬指には朱莉と同じダイヤモンドの結婚指輪が煌めいている。父さんと母さんに就職祝いを前借りする形で手に入れたお金を使い買った結婚指輪だ。そして朱莉の肩に頭を乗せて深い深い夢の中へ沈んでゆく。「大聖、起きて、終わったわよ」愛する妻の声を聞きながら目を開ける。「ふわぁ、朱莉おはよう」とキスしようとする僕の頬をつねり「ここは神聖なる学舎です」と手でバツ印を作る。ちぇっ良いじゃん朱莉とキスしたかったなぁといじけてみる。すると朱莉は耳元で「帰ったらいくらでもさせてあげるからね大聖」と甘えた声でそっと囁く。その言葉に男の部分が反応したのは言うまでもない。好きな女性の言葉は、魔法の言葉とはよく言ったものだな。帰ってめちゃくちゃ乳繰り合ったのは言うまでもない。


高嶺大学は消防学科、警察学科というように各志望ごとに学科が分かれており、みんな同じ授業なのは必須科目のみだ。だから友人たちと顔を合わせる機会がうんと減ってしまった。せめて昼飯だけでもと、みんなで一緒に取ってる。今日は、光ちゃんが居なくて、どうしたんだろうと思ったら、光ちゃんの所属するテニスサークルの新入生歓迎コンパで、事件が起こったみたいだ。光ちゃんを強姦しようとした、テニスサークルの先輩の元に治が乗り込んでいき、全員を殴り飛ばして光ちゃんを奪還したのだ。これを重く見た学園側が、喧嘩両成敗ということで、治とテニスサークル所属の先輩方双方に退学処分を下した。要は公務員を目指すものに両者とも相応しくないといったことみたいだ。確かに手を出した治も悪いだろう。でも、俺も朱莉が目の前で陵辱されそうになってたら飛び出して、そいつら全員をボコボコにする。俺は「不平等だな」と呟くが治は笑いながら「気にすんな好きな女守るのは当たり前のことだ。それによ。俺はお前らと違って、探偵業で活かすための機械に強くなりたかっただけだからな」と去っていく。その後ろ姿を見つめながら光ちゃんが「治、ありがとう。私と結婚してくださいますか?」と言う。治は「光、俺独占欲強いよ。俺光のこと束縛するよ」って、光ちゃんは「良いよ治になら私だけをずっと愛しててほしいし、亀甲縛りとかも全然苦じゃないよ。私は治だから全てを捧げられるの」と光ちゃんなりの愛の告白をしている。そう言う束縛ではない気がするがまぁ本人が良いなら。治は「光、こんな俺で良いなら結婚してくれ」と光ちゃんを抱きしめる。光ちゃんは治の腕の中で「はい」と答えた。治が落ち着いたら結婚式を挙げるとのことらしい。


1年が経ち、光ちゃんと治の結婚式に友人代表として呼ばれている。俺は初めてのスピーチで緊張しながらも「えー治は、正義感が強く光ちゃんのこととなると、なりふり構わず向こう水なのは、直してください。そんな時は、僕たちに頼ってください。僕たちは、いつでも治の友人であり仲間です。光ちゃんとどうかお幸せに」と締めくくる。続けて、朱莉も光ちゃんの友人代表として「光は、治君に全てを捧げられる素晴らしい女性ですが視野が狭いのを直しましょう。そして困ったことがあったら、いつでも私たちを頼ってください。私たちは、いつでも光の友人であり仲間です。治君、光のこと泣かしたら承知しませんからね」とスピーチする。治は、俺と朱莉のスピーチを聞き終わると「2人ともありがとう。光いや妻のことは俺の生涯をかけて守るよ」と誓いの言葉を述べた。みんなが「おめでとう」と言い光ちゃんと治が誓いのキスをして、恒例のブーケトスだが紬ちゃんに渡るように何度も確認する光ちゃん(笑)。そして見事にそれは紬ちゃんの手の中に収まった。検察が「次は俺たちってか」と言うと紬ちゃんは「うーん、後10年は先かな」って検察の「えっええええそりゃないぜ〜」に紬ちゃんは悪戯な笑みを浮かべて「じゃあ頑張って老けてくださいね」なんて言うから検察も「うっ善処しよう」だって、夫婦漫才かってぐらいお似合いの2人だったよ。でも、流石にそんなに急激に老けないからしばらく先かもなマジで。


3年4年と特に何事もなく卒業を迎え、俺は逸輝と安座間消防署の新人消防官として就職、朱莉は弥生と安座間警察署の新人警官として就職、検察は安座間検察庁の新人検察官として就職、紬ちゃんは安座間総合病院の新人看護師として就職、光ちゃんは播磨弁護士事務所の若手弁護士として就職が決まった。


そして俺は、今朱莉と結ばれている。「ハァハァハァ大聖ってほんと底なしよね」と朱莉が息を荒くしながら言う。「ハァハァハァ朱莉が気持ち良すぎるんだって」と俺も同じぐらい息を荒げていた。でも本当に相性抜群かよってぐらい気持ちいいから仕方ない。「これ出来ちゃったかもね」と朱莉が言うので「えっ」と驚くと「そりゃそうでしょ。あんだけ出して、妊娠しない訳ないでしょ」と言うから俺は感極まって「俺すごく嬉しい」と朱莉を抱きしめる。朱莉は俺の行動に「えっ」と驚くので、俺は悪びれもせず「だって大好きな朱莉との子供だろ。名前何にしようかなぁ」と子供の名前を考えていた。朱莉はクスクスと笑いながら「それは気が早すぎるわよ。ところで大聖は子供良いの?」なんて聞くもんだから「良いって何が?」と聞き返してしまった。そしたら朱莉が心配そうに「足枷になるとか言って、嫌がるかなって」って言うから朱莉を抱きしめて「いやいやいや朱莉と俺の子供だぜ。絶対可愛いに決まってるじゃん。何を嫌がることがあんだよ。むしろ朱莉こそ就職決まったばかりで、妊娠とか良いのか?」と言う俺の言葉に「そんな心配するぐらいなら、就職祝いだとか言って、ハメ外したりしない、どころかホテルなんて、取らないわよ」と子供ができるのは満更でも無かったみたいで安心した。だって、俺だけ舞い上がってたとしたら凄い恥ずかしいじゃん。


朱莉の言った通り、あの時の種が命中したらしく、めでたく懐妊した。1年も満たない新人警官である朱莉の育児休暇申請は通るわけないと思っていたが産まれる直前までの勤務を楽なデスクワークにしてもらうことで、なんとか通ったらしい。理由は子供は国の宝であり喜ばしいことだから仕方ないって。譲おじさんは、朱莉のお腹に手を当てて「じいじだぞ」と早速シジバカを発揮していた。「朱莉さん、うちの節操のない馬鹿息子がごめんね。でもホント嬉しいわ。ねっ護さん」と母さんは朱莉のことを労わりながらも嬉しさを表現していて、父さんは「そうだね朱里。朱莉さん、おめでとう。これからも息子のことよろしく頼む」と嬉しさを噛み締めていた。瑠美おばさんが「朱莉、これから大変だと思うけど、いつでも頼ってね」と言ってくれるので朱莉も「母さん、ありがとう」と返していた。妊娠5週目を迎え、つわりが始まると、食べたいものを好きな時に摘めるように少量の取り置きを作り、水分補給を怠るのはダメだと聞いていたので、すぐそばに少量を取り分けた皿と飲み物を常に置いておいた。「大聖、ありがとう」と朱莉が感謝してくれる。朱莉の頭を撫で、「辛い時はお互い様だよ。家のことはやっておくからゆっくり休んでね」と労わる。俺は消防士の仕事と家事の両立のどちらも怠らないように頑張った。朱莉もつわりの酷い中、警察官としてデスクワークの仕事を頑張っていた。俺はそんな朱莉のために毎日少量を摘めるような弁当と少し大きめの水筒を手渡していた。12週目に入りつわりが治ってくると朱莉も少しづつ元気になり、今日は俺の大好物であるハンバーグを作ってくれるらしい。辛い時支えてくれたからお返しがしたいんだってさ。ホントうちの朱莉は可愛いんだから。久々に食べる朱莉のハンバーグはすごく美味かった。朱莉も美味しく出来てるのか、心配だったのか、ずっと僕の顔を見て反応を伺っていた。僕が「すごく美味しいよ」と言うと安堵したのか、朱莉も食べ始める。というか朱莉が愛情を込めて、作ってくれた物が不味いわけが無いよ。


翌日、今日も何事もなく消防士としての1日が終わると思っていたがその日は少し違った。出動を告げる音が鳴ると機械から「安座間市西区にて火災が発生。取り残された住人がいるとのこと。至急出動されたし」と人の声が流れる。僕たちは、梯子車に乗り込み現場に向かった。どうやら一軒家のようだ。近くにいた住民が駆け寄ってきて「中にまだ息子が、助けてくださいお願いします」と僕は安心させるように「わかりましたから落ち着いて、ここで待っていてください。中にいるのは息子さんだけですか?」と聞く。「はい。息子だけです」と返ってきたので、「どの辺りにいるかわかりますか?」と尋ねた。「2階の窓が見えるそこが息子の部屋です」と返ってきたので、僕は逸輝とツーマンセルで中に入り2階を目指す。外から見た感じ窓は締め切られていた。火災で怖いのはバックドラフトだ。2階の部屋ということは、密閉空間の可能性がある。扉を開けてドカンは勘弁だ。現段階では、火元が何処かわからない以上細心の注意をしなければならない。逸輝と2階の息子さんの部屋の前に辿り着く。扉は少し開いていたが最新の注意を払い扉を開ける。口元をハンカチで抑え姿勢を低くして、うずくまってる子供がいた。「坊や、偉いぞ。よく頑張った。もう少しだからな。さぁ捕まって、ここから一緒に出よう」僕は優しく少年に話しかける。少年は首を縦に振った。逸輝と共に出る時に上から火を纏った柱の一つが落ちてくる。「危ない逸輝」と俺は言って逸輝が担いでくれていた少年共々守る。幸い火を纏った柱は俺の右腕を掠めて落下し、火傷をする程度の軽傷で済んだ。「すまない大聖」と逸輝が謝るので「気にするな。それよりここはもう危険だ。出よう」と家を後にした。その数分後屋根が完全に落ち倒壊した。「あー無事で良かった」と少年を抱きしめる母君を見て、救えた命に感謝した。家に帰ると右腕の火傷を見た朱莉がわんわん泣きじゃくるので、「消防士なんだから火災場所で火傷の一つも負うことぐらいある。そんなにわんわん泣くな。ほら五体満足だろ。お腹の子に障る」と俺がいうと「そんなこと言うなら心配させないでよ〜」とワンワン泣くので、暫く朱莉を抱きしめていた。そこからは特に大きなことは無く。山から逃げ出した猿の捕獲の応援や地震の災害派遣、タバコの不始末によるゴミ箱火災などの鎮火をこなしていた。


妊娠40週目を迎え、間も無く待望の我が子に会えるのだ。御岳産婦人科病院に向かうと院長の御岳晴明先生が「ハハハ。大聖君だけで無く大聖君の子供にまで、関われるとは嬉しい限りだよ」と出迎えてくれた。「御岳先生、よろしくお願いします」と僕が言うと「この子が僕が定年退職を迎える最後の子供になるだろう」と笑みを浮かべていた。ベテランの看護師さんがやってきて「最近は未曾有のウィルスの影響で、立ち会い出産は禁止されているんですが、この防護服を着て側で見守りますか?」と聞いてきたので僕は「良いんですか?」と返し、「えぇ、今日は誰もいませんし特別です」と看護師さんに言われたので、僕は防護服を着て、分娩室に入り、朱莉の手をギュッと握った。それを見た御岳院長は笑みを浮かべて「やっぱり親子ですね」と呟いた。そこからは院長先生の掛け声に合わせて朱莉がいきむを繰り返し、何度目かの朱莉のいきむで「オギャア。オギャア」と産まれた。御岳院長が「良く頑張りましたね。元気な男の子ですよ」と朱莉に見せる。朱莉も我が子を優しい笑みで見つめる。僕も我が子を見つめる。「このまま5日間ほど経過観察で入院していただき、何事もなければ退院ということにしましょう。宜しいですか?」と御岳院長に聞かれたので、僕は「よろしくお願いします」と頭を深々と下げた。僕は朱莉に「ありがとう。良く頑張ったね」と労いの言葉をかけ、考えていた息子の名前を呼んだ。「君の名は来世玲王くるりやれおだよ。玉のように美しい僕たちの王様」そういうと朱莉がクスクスと笑っていた。「何がおかしいんだい?」と聞く僕に朱莉は「あっ違うわよ。大聖にしては素敵な名前つけたなって感心してたのよ」と言う。僕だって偶には素敵な名前ぐらい思いつく。


朱莉と玲王と過ごす3人の生活は、とても楽しくて、あっという間に時が流れて、玲王が1歳の時。玲王の部屋に入ると玲王が窓際の蜂に集めてきた花を「ご飯だよ」と差し出していた。玲王はとても賢く、1歳で話せるようになった。「パパ、土」と言うので、成程と理解した僕は発泡スチロールに庭の良質な土を入れそこに花を何個か植え直して、玲王の元に持って行った。玲王はそれを見て、目をキラキラさせて、「これでビィも喜ぶ」と言うので、僕がそこは蜂だから「ブンブンじゃないの?」と言うと玲王は頑なに「ビィ」とだけ言うので、まぁ良いかとなった。そのビィだが元気になって、今では庭に間借りする形で巣を作っている。朱莉は最初の方こそ「あんなところに蜂の巣なんて危ないんじゃ」と言っていたが、蜂蜜が取れるようになると知らせに来てくれるビィに「ありがとうビィちゃん」と感謝する始末。ビィはどうやら賢い蜂のようで僕や朱莉の事も認識していて、僕たちが蜂蜜を貰いに行っても襲いかかってこないのだ。それどころかみんな一旦離れる。そして必要な分を貰って「ありがとう」と言うと、みんな戻ってまた蜂蜜作りを始めるのだ。恐らく助けてくれた玲王に、精一杯恩返しをしているのだろう。ビィの蜂蜜は、玲王も大好物で、スプーンで掬って、一舐めが最近のお気に入りだったりする。


玲王が3歳になると何処からか拾ってきた真っ白な猫にニャーコと名付けて、家で飼い始める。朱莉は最初の方こそ「私は猫より犬派なんだけどな」と言ってたが、ニャーコのゴロゴロと甘えた猫撫で声にやられたのか「ニャーコちゃん、ご飯でちゅかヨシヨシ」とか全く笑えてくる。だがニャーコは、ご飯を食べ終わると決まって、玲王にベッタリなのだ。まるで私の旦那様うっとりみたいに、ずっと玲王の顔をペロペロ舐めたり、玲王に触られて、気持ちよさそうにゴロゴロと鳴いているのだ。玲王に関して驚くのはまだ早い。蜂のビィだが亡くなって、次の代になってもなんと蜂蜜ができれば知らせてくれるのだ。


5歳の時には雀を手懐けてしまった。デジャブのようだが道端で飛べなくなっていた雀を連れて帰ったかと思うと、翼の傷に薬を塗って、包帯で軽く巻きニャーコが傷つけたりしないように籠を買ってきて、その中に布を敷いて、寝かせたのだ。玲王の手厚い看護で元気になった雀は飛び立ったのだが毎日のように玲王の部屋の空いてる窓から入って、玲王とまるで会話しているかのようなのだ。自分のことよりも玲王のことが多いって、親たるもの息子の成長ほど嬉しいものはないのだ。ガハハ。あっジジバカっぷりを発揮していた譲おじさんだが毎日のように玲王に会いにきてはアイスクリームやチョコレートを買い与えるので、最近玲王の健康を気にした朱莉に接触禁止令を発令されている。最近はうちの両親と瑠美おばさんが玲王に買い与えているので一緒だと思うけどな。


玲王も7歳になり朱莉と3人で、雪山にスキーキャンプに来た。「大聖、見てみて」と朱莉も雪まみれになって、遊んでいる。俺も久々に羽を伸ばしてと思ったが急激な眠気に襲われコテージに戻り少し休むことにした。「大聖、ごめんなさい」という朱莉の声で目が覚める。「ふぇ、朱莉何どうした?なんで泣いてる?」と説明を求めると「玲王が玲王が居なくなったの」とマジか。こんな雪山で、7歳の息子が1人遭難したなんて、笑えない。俺は朱莉に「大丈夫だ」と声をかけ朱莉に「玲王は賢い子だ。ひょっとしたら、ふらりと戻ってくるかもしれない。朱莉はここで待ってて、俺は雪山ロッジの方を確認してくるから」と言い朱莉が頷いたので、雪山装備に着替えて、ロッジに向けて歩き出した。今はもう夜になっていて、リフトの使用は禁止らしい。ここから雪山ロッジまで歩くことにした。息子が遭難しているのだ。この時の俺は冷静ではなかった。本来なら山岳救助隊に連絡して、こんな夜の中出かけて二次災害になる危険を避け、朝を待ってリフトで上に上がって雪山ロッジを目指すのが定石だ。だが俺は、冷静さを欠き俺が玲王を探さないといけないと、視野が狭まっていた。その結果3日もかかり雪山ロッジに辿り着いた。一分一秒を争う時に何やってんだ俺と思ったがロッジの中で玲王が寒くならないように身体を温めてくれていたであろう蛇がこっちをみて良かったという表情をして目を閉じた。いや蛇に表情があるわけないよな。だがこの時の俺は確かにそう感じた。玲王もその蛇に「マフラン、行っちゃやだよ。うちの子になるんでしょ」と必死に声をかけていたがその蛇が目を覚ますことは2度となかった。俺と玲王はマフランのための立派な墓を作ってやることにして、踏み荒らされたりしないように。雪山の先にある森のところに墓をつくり埋めてやった。俺は墓に手を合わせて、心の中で「玲王のことを守ってくれて、ありがとう。君のおかげで、玲王は無事だったよ」と言葉をかけ手を合わせた。俺が玲王を連れてリフトで戻ると朱莉が玲王に抱きついて「ごめんね。母さん目を離しちゃって」と誤っていた。玲王も朱莉に抱きついて「母さん、心配かけてごめんなさい」と謝っていた。とにかく無事で良かった。後日このことを父さんに話して、こっぴどく怒られたのは当たり前だよな。消防官失格だと暫くは現場に出させてもらえなかった。災害救助の場面で、二次災害になる可能性があったんだから当然だよな。暫くはデスクワークで、しっかりと反省した。逸輝にも笑われたしな。


玲王も9歳になり「小学校で飼育委員になった」と嬉しそうに話してくれた。本当に動物が好きなんだな。兎の世話をしているらしく、いつも端の方でじっとしてる可愛い兎さんの虜らしいので、名前を聞いてみると「ミミ」らしい。いかにも兎さんって感じの名前だな。果物を乾燥させてドライフルーツなんて作ってるから「どうするんだ」と聞いたら「ミミにあげるの」ってホント虜なんだな。この頃の俺は親父に災害救助に関しての認識が甘すぎるとのことで長期の災害ボランティアで、家を空けることが多く。こうして偶に帰ってきた日の玲王の学校の様子をツマミに聞きながら朱莉の飯を食べるのが至福の時だった。


玲王が10歳になった時、俺には待ちに待ったゲームの発売日がやってきた。キョウエイの新作シミュレーションゲーム、信玄の野望で、プレイヤーは武田信玄となり全国統一を目指す。俺は昔から戦国時代の歴史や世界の英雄が好きで、愛読書は世界英雄大全集、好きな戦国武将は武田信玄だ。そのため、このゲームの発売が5年前に発表された時から今か今かと待っていた。予約していたので、店舗で購入し家に帰ってきた。早速プレイする。歴史に沿って進むので信玄が西上作戦を始めてしまうと病になり亡くなりほぼ詰みになるので、それまでに周辺を整えるのが定石だが、あえてこの詰んでると思われる状態から起死回生をしたい。だが織田徳川同盟が強すぎて長篠の戦いをひっくり返せない。どうしたものかと思案していると玲王がやってみたいと言うので渡してみた。玲王は長篠の戦いをどうひっくり返すのかと見ていると先ずは徳川軍が攻め取ったとされる鳶ヶ巣山砦とびがすやまとりでの人員を見直し、相手の鉄砲部隊に対して、騎馬が多すぎると馬から下ろし、鉄砲を装備させ篝火を灯すなど奇襲に対する備えを施していく。玲王曰く「この砦が落ちなければ充分に戦えるとのことらしい」。その言葉の通り、退路の確保ができたことにより平静を取り戻した武田の騎馬隊の進軍を援護するべく馬房柵の破壊をする工兵部隊や鉄砲に対抗するため撹乱する足軽兵などが現れ大混戦となり、お互い相当数の被害を出す手切れで終わった。玲王は舌をぺろっと出して、もうちょっと時間があれば被害を抑えて勝てたと言う。だが圧倒的な敗戦を同程度に持って行ったのだから凄いだろう。圧倒的敗戦でも覆す何かはあるとわかったのでもう一回やり直すと今度はすんなりとひっくり返せた。何のことはない砦の人員を増やして、徳川の奇襲部隊を全滅させ逆にそちら側から徳川軍への奇襲を行い。設楽ヶ原組は、睨み合いをさせておき、徳川の処理が終わった後、背後に回り込ませて、挟撃で織田軍も撃破できた。馬房柵と鉄砲の組み合わせが最強なだけで、それの無い背後からの奇襲は相手方も寝耳に水なのだ。結論として、武田四天王が生きていれば全国統一はできた。要は長篠で討ち死にさせないことが大事なのだ。だが俺のこのプレイは信玄の野望ではなく勝頼の野望になってる点に目を瞑れば。朱莉の「ご飯ができたわよ」の声で、ゲームを終了した。


玲王も11歳になり、俺も安座間消防署に勤めて13年目を迎える。長期の災害ボランティアからもようやく解放され、今日は家族3人で、ふれあい牧場の乗馬体験に来ている。乗馬インストラクターの先生の話をよく聞き、先ずは俺がやってみる。馬に近づいて、話しかけたり撫でたりして、スキンシップを取り、いざ乗ってみる。おお、これは良い。風を切り駆ける。そんな感じだ。とても風が気持ちいい。これが戦国時代の武将の景色か。次は朱莉だ。「わぁ〜凄い風が気持ち良い〜」って楽しんでくれたみたいだ。最後に玲王だが、子供用の馬ということで、一旦厩舎に行き一頭の馬を連れてきた。「ごめんなさい。何だか興奮しているみたいで、日を改めますか?」との調教師さんの言葉に玲王が近づいていき「オーラ、オーラ、大丈夫だよ」と声を掛けて、調教師さんから人参を渡してもらって、それを与えて落ち着かせてしまった。これには調教師さんもびっくりして「気性の荒いポニーがこんなに大人しくなるなんて、アンタには調教師の才能があるかもしれんね」という言葉に玲王が「昔から動物に好かれるんです」と笑って返した。大人しくなったポニーは玲王が乗りやすいように膝を折、玲王が乗るとゆっくりと立ち上がり、辺りを2周3周と駆けた。「風がすごい気持ちよかった〜ありがとうポニー」と撫でていた。帰る時間になりポニーは玲王のことが見えなくなるまでずっと見ていた。まるで別れを惜しむかのように。


玲王も12歳になり今年で小学校を卒業する年になった。俺も安座間消防署に勤めて14年目で災害ボランティアでの経験を考慮され指揮する立場に昇格した。その日もいつものように仕事をしていたが出動の音が鳴り、機械から「安座間市南区にて大規模火災発生、至急向かわれたし」と人の声が流れる。俺たちは現場に向かった。現場はまさに凄惨なことになっていて、どうやらビル火災のようだ。中から出てきた人がそこかしこで、へたり込んでいる。俺は先ず「あのーすいません。どなたかこのビルの管理の方はいらっしゃいませんか?」と拡声器で呼びかける。反応した中年の男性が俺の元にやってきて「このビルの入ってる会社の人事部長です」と名乗り出てくれたので、先ずは人員名簿を至急印刷してもらい、無事な人と取り残されてる人の把握に努めてもらう。みんなが協力してくれたので、早く纏めることができたみたいで、それをみる限り、どうやらこのビルに勤めている人は、2万人に及ぶらしく。現状把握できた無事な人間は、1万5千人との事で、5千人が中で取り残されているようだ。付近から応援に駆け付けた消防士たちと連携をとるべく指揮を取る。救急隊や警察官も駆け付ける。その中には紬ちゃんや弥生ちゃんそれに朱莉が居た。「大変なことになりましたね大聖君」と紬ちゃんが声をかけてくる。「あぁ、紬ちゃんもキツいだろうがよろしく頼む」と俺は言う。紬ちゃんは医師免許を持つナースだ。普段はナースとして、働いているのだが災害派遣として今日は医師として、災害時における命の選抜トリアージを任されているみたいだ。弥生ちゃんと朱莉は警察官として、周辺の封鎖と二次災害に備えてるらしく遠くで封鎖線を張っていた。俺は集まった消防士たちに指示を伝えていく。村松消防署の方は、1階から5階、阿久津消防署の方は、6階から10階、うちの安座間消防署が1番危険度の高そうな11階から15階の担当と決まる。2人1組のツーマンセルで、ビルの中に向かう。俺と逸輝は15階を担当した。「しかし大聖、お前とバディを組むのもこれで14年目だな。なんか感慨深いな。無事に終わったら酒奢るよ」と逸輝が言うので俺は「止めろ死亡フラグ立ててんじゃねぇよ」と返す。火元が強い、やはり10階から15階のどこかが、火元なのは先ず間違いない。500人ほどの集団を発見した。皆口元を覆い出口に向かい姿勢を低くして歩いていた。保護して安全なルートで1階まで降りる。先頭でみんなを引っ張っていた代表の方が「ありがとうございます。おかげで皆急死に一生を得ました」と言うので俺は「いえ、皆きちんと火災の対処ができていたからでしょう」と言うと代表の人は「普段の火災訓練が役に立ちました」と頭を下げた。驚いたのは1階から5階が3500人と1番多くて、村松消防署の人によると火事に気付かず普通に仕事をしていたらしい。5階から10階の阿久津消防署の方も逃げ遅れていた1000人を救出したらしくその中の数名は火傷による重症で運ぶのに時間がかかったとのこと。俺は皆の数を聞きこの大規模火災で全員の命を救えたと安堵していた。そこに人事部の部長さんが現れて「1人足りないのです」と告げるまで。各階層虱潰しに調べて逃げ遅れた人は居ないと判断した。俺はそこでこう言うビルだ。ひょっとしたら、ちょっとした隙間が存在していて、そこを倉庫がわりに使っているのでは無いかと思い、ビルのオーナーに、そういった空洞はないか確認したところ「15階から屋上に至るまでの間にちょっとしたスペースがある」と聞き。「1人だけならたくさんで行き我々が二次災害に巻き込まれる必要はないでしょう。俺ともう1人どなたか御一緒してくだされば最後そこだけ確認して戻ってきます」と俺がいうと逸輝が「水臭いぜ相棒、俺が一緒に行く。皆さんはここで二次災害に備えていてください。よろしくお願いします」と言い。2人で危険なミッションに挑む。15階まで向かい空洞になっている箇所に向かい空けてみると中で女性が1人倒れていた。「これは不味いな」と俺がいうと逸輝も呆れたように「あぁ、普通堂々と寝るか?ここ職場だよな」と言う。この空間には不思議なことに、火も煙も入ってきてなかったらしく、俵を枕代わりに風呂敷袋を掛け布団代わりにして、スヤスヤと寝ていたのだ。俺は起こしてパニックになられるのは不味いと思い

、このまま女性に防火マスクを付けて担いだ。「良し、何はともあれ、全員無事だったんだから喜ぶとするか」という逸輝に「出るまで気を抜くな」と返した。安全なルートで1階まで無事に降りて、安堵したところ嫌な気配を感じ担いでいた女性を逸輝に渡してその場から押し出す。次の瞬間、鉄骨が上から降ってきて、俺に直撃する。直前「大聖、いやーーーーーーーーーーー」と朱莉のそんな悲痛な声が聞こえた気がした。


「とても悲しいニュースをお知らせしなければなりません。今日未明起きた大規模火災に置いて、現場指揮を完璧にこなし全員の命を救った1人の勇敢な消防士が開発途中である隣のビルの鉄骨の下敷きになり亡くなりました。私たちは最大限の敬意と御冥福をお祈りいたします」


俺は目を覚ますと不思議な空間にいた。目の前で杖をついた老人が「36年間お疲れ様でした。多くの者の命を救ったお主に新たな生を迎えるか。それとも神となり万物を見届けるか。どちらかの選択肢を与えようと思うが如何かな?」おいおい、俺は気でも狂ったのか。この目の前の老人は何言ってんだ。「神となり朱莉や玲王を見守るに決まってる」俺のその言葉を聞いた老人が「良き良き」と言い「そうじゃ。別の世界線の話だがのぅ。お主が中学の頃、虐めてきた相手に何もしなければ、その者は、お前の目の前で愛しき者を凌辱し、服従の言葉を誓わせ、一生性奴隷としておったぞ。それどころか被害者はどんどんと増えて、とんでも無いことになっておった。お主は間違いなく英雄ヒーローであった。素敵な修行生活を」と去っていった。朱莉が陵辱される未来線があった?全く笑えない。だが俺は何度やり直したとしてもアイツを告発する道を選ぶだろう。最後に自分が憧れてたヒーローとやらに少しでもなれていたのなら良かった。俺のこの先が知りたいって、まぁひょっとしたら別の形でわかるかもな。こうして俺は36年間の幕を閉じた。

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多くの者を助けし英雄 揚惇命 @youtonnmei

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