珈琲と露台

@Pollux1608

第1話

 あまり勉強しなかった受験期が終わった。大学の入学式まで1か月ほどある長いとも短いとも言えない休みを目的なくだらだらと過ごす日々が続く。皮肉にも絶対になりたくないと思っていたニートとおなじ生活をしている。朝9時過ぎに目を細めながら開け、おぼろげに階段を降り、洗面台の前に立ち、なんとなく顔を洗い、乱れた髪を直すこともなくキッチンへ向かう。冷蔵庫を開けてはパブロフの犬のように食パンを手に取り、気づいたときには黒い食パンを口に入れている。苦い。五感の中で最初にはっきりと感じるのはこれだ。自分の部屋にもどり、スマホを開く。LINEやDMが来るほど仲のいい友達もいないのに、なにか来ているかもと変な期待を抱いて開く。「来てるわけないか...」と強がりながら吐息交じりに言う。カッコつけておいしいと一度も感じたことないコーヒーを飲みながらベランダで鬱蒼とした森林を見て黄昏る。10時を回るとさすがに日差しが強い。皮膚が痛熱いと思いながら少しみえを張って我慢する。誰も見ていないのに。ある日黄昏ているときふと思い出に浸ってみた。

 小学5年生。兄の影響で卓球にのめりこみ、試合にも出るようになった。指導してくれる先生はセンスがあると褒め、やる気にさせた。それにまんまと乗っかり練習を頑張り始める。

 小学6年生の春。ただ目の前の試合に勝つことだけを考えていた僕はいつの間にか地方大会への切符を手に入れていた。家族や友達先生から賞賛の声がまた一段と僕を浮かれさせる。

 夏。初の地方大会で地方トップの選手と初戦で当たり、人生で初の挫折を味わう。今思えばなぜ勝てると思っていたのだろうか。とんだ自信家だ。

 小学6年生の冬。これまでの卓球人生で一番の好調期を迎える。初の全国大会への切符である。

 小学校を卒業して間もなく。全国大会に出場する。リーグ戦で1勝を挙げ、最高の気持ちで初の全国大会を終える。

 こんな過去の栄光を思い出したとて今が今である。第一志望を大きく掲げていたくせにろくに勉強せずとりあえず行ける大学に行くことになった中途半端な今では何も誇れやしない。大学に行ったとてしたいこともない。好きなことといえばゲームと漫画と寝ることである。こんな僕になにがあるだろうか。何が残せるのだろうか。

 

―とりあえずHしてみたい。

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