第10話 勇者は技を放ち、おっさんは真価を見せる

 小国出身の、Sランク冒険者のアルテ。

 実力こそあるが、29歳のおっさん狩人が勇者パーティーに選ばれるには、彼は少々年を取り過ぎた。


 勇者、賢者、それに聖女。

 3人とも女性である事を考えれば、Sランクのアルテほどでなくても、多少強さは劣るが同じ女性である方がパーティーとしても安定するだろう。

 それこそ、アルテ以外にも勇者パーティーに相応しい人物は大勢いる。


 しかしながら、そんな中でもアルテが勇者パーティーに選ばれたのは、彼の能力が理由として挙げられる。


 アルテだけしか持ち合わせていないその能力の名は、『人智英雄』。

 『人智英雄』とは、自分を除くあらゆるモノを強化する力。


 爆弾弓矢を強化して、爆発力を上げたり。

 雲を強化して、雨を降らせ。

 植物を強化して、毒性を上げる。


 まさしく万能の力たるこの力が、最も効果が表れるのは、人の強化。


 ただの村人でも、英雄に変えてしまうほどの、強化能力。

 それこそアルテの『人智英雄』の力なのだ。


 ----さて、では勇者セラトリア・ガルガンディアのような、初めから英雄になっているような少女に、この力を使った場合はどうなるのか?



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「----『人智英雄』!」


 アルテが能力を発動すると共に、勇者セラトリアの身体に黄金の光が宿る。

 それはドロミオーネに宿る神聖術の光と似て非なるモノであり、ドロミオーネはその光に危険性を見出した。


「舐めるなよっ!」


 ドロミオーネはそう言って、馬の脚と変えたその脚で、地面を強く蹴って、セラトリアに襲い掛かる。


「----せいっ!」


 そうやって迫るドロミオーネに、セラトリアは聖剣を振るう。

 聖剣を振るうと共に、ドロミオーネの下半身が吹っ飛ばされる。


「----なんのっ!」


 ドロミオーネはすぐさま、神聖術をさらに自らに付与して、バッタのような脚を生み出すと、そのまま空へと跳ぶ。



「全て喰らい尽くしてやるっ! ドロミオーネ奥義、【百獣の国ズーパンク】!」


 

 そう言って、ドロミオーネは人間の姿すら捨てた。

 身体全てを多種多様な獣へと変え、百を軽く超える凶悪な猛獣が、セラトリアへと襲い掛かる。


 しかし、セラトリアに恐怖心はなかった。

 なにせ、アルテの力で強化されてる自分が、負ける姿が想像つかなかったから。



「この技には、名前がある」



 セラトリアは聖剣を掲げると共に、その刀身に光が集まっていく。

 集まってゆくのは、アルテが使う『人智英雄』が生み出す、無限の強化エネルギー。

 一般人を英雄に変えるほどのエネルギーが、聖剣という勇者しか扱えない最強武器を強化していく。


「----見せてあげよう、アルテによって使えるようになった、勇者の力を越えた必殺の技!

 奥義、【ガルガンディア・パニッシュ】!!」


 そして、放たれた光エネルギーは、無数の獣となったドロミオーネを飲み込み、そして----



「勝ったぞ! 我々の勝利だ!」


 勇者の声と共に、四天王ドロミオーネの戦いは終わりを告げたのであった。




 ===== ===== =====

 『人智英雄』


 【狩人】アルテが生まれた時から持つ、最強の強化能力。自分以外の、ありとあらゆる物に強化の力を付与する、一般の人だろうとも英雄に変え得る力

 使用中、アルテは強化に専念しなければならないため、普段はあまり多用したがらず、ここぞというタイミングでの使用を心掛けている

 可能ならば敵だろうとも、天候だろうとも、動植物だろうとも、ありとあらゆるモノに制限なく付与することができるが、あまりにも強大すぎる力ゆえに付与されてる側も長時間の付与は危険である。その辺りはアルテの方で制御して強化している

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