第57話 冬休み

学生達の冬の楽園の期間ともいえる冬休みの初日。


リナとフランは、東雲先生の自宅の前に来ていた。

冬休みの初日から先生の家に来るような生徒なんてリナ達の他に絶対いないだろう…

ここに来た理由は、フランのバイクの納車日で積載車に載せて遥々東京から舞華が直々に整備をしてバイクを運んできてくれた。

フランの乗るバイクは、舞華との練習時でも乗っていたKawasakiのZX25Rだ。

もちろん、ドノーマルではない…

舞華によってECU、排気系、極めつけはエンジンまで手を加えられ最高出力60馬力オーバーの怪物マシンになっている。

舞華曰く「フランちゃんならすぐ乗りこなせる」と自信を持って発言していたので、おそらく大丈夫なのだろう…

普通の人は初心者にこんなマシンを乗らせる訳がない。


東雲先生の家に呼ばれた理由は納車だけではない。

リナ達が行った課題を、今からフランにもやってもらうことになっている。

既に先程ZX25Rを少し走らせてエンジンを暖機してタイヤも慣らしてきたので準備は万端。


「それじゃ、中野さん?準備はいいかしら?」


東雲先生に言われてフランは「OKです」と返事をすると、バイクのエンジンを始動する。

舞華に直々に鍛えられたフランの走りを見るのはリナはこの時が初めてだった。

「スタート!」と掛け声と共にフランはスラロームのパイロンを物凄い速さで交互に華麗に抜けていく、その走りを見てリナは口を開けたまま固まってしまう。

続けて一本橋の平均台に乗ったフランは、初心者とは思えないバランス感覚で時間をかけながら進んでいく。

クラッチ、後輪ブレーキ、バランスの取り方、全てにおいてバイク部の誰よりもずば抜けていた。

課題を終えた東雲先生が拍手をしながらフランに言った。


「素晴らしいわ!中野さん!スラロームは5.3秒、一本橋は23秒です!バイク部でトップのタイムよ」


これで来年の大会に出るのはリナとフランに決定したが、リナは少し複雑な気持ちだった。

後から免許を取ったフランの圧倒的なセンスを見せつけられてこのままでは完全に差をつけられると、初めて焦りを感じた。

リナの気持ちを察した舞華がリナの肩に手を置いて言った。


「フランちゃん、凄いでしょ?アタシもびっくりするくらい上達早かったんだよ。でも、リナちゃんだってこれから練習次第でドンドン上手くなるとおもうよ!2人はタイプは違うけど素質ある」


舞華の言葉を信じて、リナはもっと頑張ろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る