第25話 エイプ100
9月になったとはいえ地球温暖化が2000年〜2010年代頃より遥かに進行していて、まだまだ日中は40度超えの残暑が続いている。
果たして40度を残暑と言っていいのかわからないが…
今日の授業も終わり、リナとフランが下校しようと思っていた所に昨日部活の勧誘をしてきた健人の姉の聖奈がリナ達のクラスまでやってきた。
「西園寺さん、お疲れ様!返事を聞きに来たわよ!」
なんて行動の早い人だと思ったが、リナはまだ部に入るか考えてる最中だった。
聖奈にもう少し時間を下さいと言おうと瞬間に東雲先生が焦った感じでリナのクラスに入ってきた。
「大変!久保田君が熱中症らしき症状でぐったりしてるわ!…あっ!聖奈さん!ちょうどよかったちょっと来て!」
東雲先生と聖奈は慌てて健人の元へ向かったので、リナとフランも小走りでついていく。
健人は校舎の駐輪場の付近で壁に寄りかかってぐったりしていた。
意識は朦朧としているが、なんとか受け答えはできる様子。
「ちょっと健人!大丈夫!?」
聖奈は弟を心配して側に寄り添っている。
東雲先生の車は、修理に出ているらしく自宅から近い所の整備工場にお願いしているので代車は借りなかったらしい。
東雲先生はリナの顔を見ると、着ているスーツのポケットに入れてあったキーを取り出してリナに5000円札と一緒に手渡した。
「西園寺さん!それは私のエイプのキーよ!近くの薬局まで行ってスポーツドリンクと身体を冷やせる物を買ってきてもらっていい?」
まさか東雲先生からこんなお願いをされるとは思わなかったが、非常事態だしあれこれ言ってる場合ではない。
とりあえずフランが学校の自販機で売られていたスポーツドリンクを500のペッドボトルを1本だけ買ってきてくれた。
本当は2〜3本買いたかったみたいだが、他の運動部の生徒達が買っていくので1本だけ買ったらタイミング悪く売り切れになってしまったようだ。
リナは駐輪場に停めてあった東雲先生のエイプにキーを挿し込んでハンドルロックを解除すると、キーをONにした。
このエイプはバッテリーレスのキック始動車なのだが、リナは茨城で如月教官に指導を受けていた時にキック始動車の始動方法も教わっていたのであっさりエンジンを始動してみせた。
車体もよく手入れが行き届いていてキャブレターの調子もかなり良く、数分程度暖機すればすぐに出発できそうだ。
ちなみにヘルメットは東雲先生が被ってるハーフヘルメットを借りた。
「それじゃ行ってきます!」
リナはギアをローに入れると、ゆっくりと発進して学校を後にするとエイプのマフラー音が遠くから鳴り響いているのを聖奈は聞いていた。
聖奈が驚いたのはリナがMT車のエイプに乗れているということ。
前も話したと思うが、聖奈やリナ達の世代の人達は免許の大幅な改正の影響と教習車がEV車を採用されたことによりMT免許を教習所で取得することが実質不可能となってしまった。
そのはずなのにリナは運転できているし、何よりエイプを預けた東雲先生はリナが運転できることを知っている。
聖奈がずっとリナが走っていった方を見ているのに気づいた東雲先生は察したのかこう言った。
「西園寺さんがMT車のバイクに乗れることに驚いているのかしら?」
聖奈は後ろから急に言われてビックリしながら後ろを振り返る。
「先生は知ってたんですか?西園寺さんがMT車のバイクに乗れること。私達の世代ではEV車のバイクで教習を受けるので必然的にAT限定免許となってしまいます…それなのに西園寺さんはどうして…?」
聖奈自身も本来はMT免許を取得したかったが時代が悪かったのは事実だ。
東雲先生はリナが一発試験で合格して取得したことを聖奈に言った。
聖奈もいろいろ取得方法を調べていたので、一発試験ならMT免許を取得できることは認知していた。
が、ぶっちゃけ現実的な方法ではないと聖奈は最初から選択肢から外してしまったことに今になって後悔した。
あの時、逃げずに立ち向かってたら自分も普通二輪MT免許を取れていたのだろうか?
挑戦する価値はあったんじゃないのかと…
「西園寺さんが戻ってきたら詳しく聞いてみたら?」
東雲先生にそう言われたが、それどころか増々リナのことを部の一員として誘いたくなった。
「えぇ…有望な後輩に興味津々になってますから」
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