1章 自動二輪免許取得への険しい道のり
第1話 現在の運転免許制度
2036年の7月中旬。
学生達はもうそろそろ訪れる夏休みが待ち遠しくて仕方ない時期。
沼津市の高校に通う西園寺 リナは、昼休みになるとスマホで調べ物に没頭していた。
それを見ていた幼馴染で親友の中野 フランがいつもこう言う。
「リナさぁ?食べるか携帯を弄るかどっちかにしなさいよねー」
スマホを机に置いて左手の人差し指で操作しつつ、右手で箸を持って弁当を食べるという良い言い方をすれば器用だが、誰がどう見ても行儀が悪い。
「んー…あともうちょっとしたら弄るのやめるぅ…」
リナはスマホの画面を操作しながら、とりあえず返事しておきます的なノリでフランに言うと突然スマホをフランに取り上げられた。
リナは「ちょっ!何するの!?」と声をあげると、フランは「先に食べなさい!」とまるで母親のように言うとリナはムスッとした顔で黙々と弁当を食べ始めた。
地球温暖化が以前にも増して進み、真夏の平均気温は42度とかなりの極暑が続くようになっていた。
「それにしても毎日あっついわねぇ…ねぇ?リナ?まだいろいろ教習所のことを調べてんの?」
フランはとっくに先に弁当を食べ終えてうちわを扇ぎながらリナに聞くと、「もふぃろん」と口の中いっぱいに食べ物を詰め込みながら言ってきた。
高校生で教習所というと原付免許か普通二輪免許のどちらかをイメージすると思うし、そんな調べなくても地元の教習所に入校すればいいだろうと思うのが普通だろう。
しかし、それはひと昔前の話だ。
既にEV化が世界規模で進み日本でもガソリン車の新車販売を辞めたメーカーが四輪、二輪共にちらほら出てきている。
その影響もあって実は数年前に教習所にEV車が導入されたのが話題になり、それに伴い運転免許が改正された。
特に大幅に変わったのは自動二輪免許だ。
従来は125cc以下の小型二輪限定、400cc以下の普通二輪、無制限の大型二輪の3つだったが、400ccのバイクが日本独自の排気量設定だったのと時代にそぐわないという理由で改正をキッカケに原付免許、250cc以下及び250cc相当の電圧出力のバイクを普通二輪、251〜650cc及び251cc〜650cc相当の電圧出力のバイクを新中型二輪(昔の中免とは異なる)として設立し、それ以上の排気量及び電圧出力のバイクを大型二輪と改正された。
これによって原付二種の51cc〜125cc以下の小型二輪免許は廃止され51cc〜250cc以下が乗れる新普通二輪免許として統合される形となる。
これだけ聞いたら免許の区分の排気量が変わっただけでは?と思うだろう。
問題なのは旧型の教習車は処分されて、新たに導入された教習車が全てEV車と言う事だ。
察しの良い方はお分かり頂けただろう…
EV車になると構造的にトランスミッションを基本的に必要としなくなる。
つまり、必然的にAT限定免許となってしまうのだ。
そうなってしまうと旧車のバイクやエンジン車のMT車を乗ることは不可能となってしまう。
これは国が狙っていたことでもあるのだろう…
新車でエンジン車が発売されなくなるのであれば、現状の中古車でエンジン車やMT車を楽しめばいい。
しかし、教習車を強制的にEV車にしてしまえばもうトランスミッションの概念もなくなってしまい自ずとAT免許となってしまう…
既に免許を取得しているひと昔の人達は、既得権が認められるので現状の免許が揺らぐことはないが、今後新たに取得する車やバイク好きの若者達からしたら悲惨だろう…
車やバイク好きにはエンジンの音やフィーリングを感じながら楽しみたいという者が多いはずだ。
だが、国としてはEV化をどんどん進めていきたいところなので一部の旧車愛好家によって好き勝手やられるのは迷惑といったところなのだろう。
しかし、完全に教習所からエンジンの教習車が消えた訳ではなく全国に数件だけ残っている教習所もあるという噂を聞いて、こうしてリナは必死で調べていたのだ。
だが、47都道府県を探してもヒットする気配がなかった…
「ねぇ?教習所以外で免許取得する方法ってないの?」
フランがふと思ったのかそう聞いてきた。
リナは、弁当の最後のおかずの唐揚げとご飯を口の中いっぱいに詰め込むと喉に詰まりそうになったのをお茶で流し込んだ後に言った。
「飛び込み試験…いわゆる一発試験っていう教習所に通わずにいきなり試験を受ける方法があるにはあるんだけど…バイク未経験のド素人にはまず無理(笑)」
リナの言う通り一発試験という手はある。
運転免許には一般的な普通自動車免許や普通二輪免許の他に大型特殊免許や牽引免許、そして送迎業務など人を乗せて商売するのに必要になる二種免許と呼ばれる特殊なものがある。
需要の高い運転免許はどこの教習所でも積極的に指導を行っているが、普通免許の上位種の大型免許、牽引免許、二種免許となってくると指導を行っている教習所が限られてきてしまう。
中には絶対に使う機会がないのでは?と言われてる運転免許も存在していて、それは大型特殊二種と牽引二種だ。
日本ではそもそも大型特殊車両で旅客車など存在しないし、牽引二種免許はずっと前に西東京で走っていた日本で唯一のトレーラーバスが運行終了してしまった為、実質不要の免許となってしまった。
免許としてはこの二つは存在はするが、教習所で取得することは出来ないので実質一発試験のみとなっているようだ。
まぁ…取得するのはフルビット免許マニアくらいだろう(笑)
だが、この上記の二つの免許同様に昔の教習所では馴染みのあったMT免許も今の時代ではほぼ不要の免許と化してきた。
実際に普通自動車もEV車で教習が行われるので新規免許取得者99.9%がATだし、バイクも同様の状況だ。
おっと、話がだいぶ逸れてしまったが…
リナが一発試験による取得がなぜ無理と言ったのか…
一発試験を経験したことがある方ならご存知だと思うが、警察官によるかなり厳しい採点をされるので素人は論外として運転が上手い人でも合格することは難しく、合格率は5%未満くらいだろう…
つまり現実的ではないのだ。
昭和50年頃〜平成8年頃まで当時の400ccまで乗れる中型限定免許(通称 中免)所持者が750ccのバイクに乗る為には試験場で限定解除審査の一発試験を受けなければならない闇の時代だったらしく、合格率は1%で司法試験並の難易度と言う者もいたらしい(笑)
カミナリ族や暴走族、ナナハンバイクによる事故の影響らしいが、ある意味リナ達の時代も理由は違えど似たようなものだろう…
昔の旧車に乗りたい車やバイク好きの若者からしたら限定解除時代の再来といったところか…
「はぁ…もう少し早く産まれてればなぁ…」
リナは大きなため息をついて落ち込んでいると昼休みが終わるチャイムが鳴った。
そんなリナを励ますようにフランが言った。
「まぁ、時代が違うからしょうがないよ(笑)…次の授業って確か国語だったよね?確か新しく来た東雲先生だっけ?」
リナは「そうだよ」と言いながら、机を元の定位置に戻すと国語の教科書とノートの準備をした。
とりあえず免許のことはまた後で考えようとリナは次の授業のことに頭を切り替えた。
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