10.


 うとうと、眠いたい午後の授業。

 眠い目を擦りながら必死に寝なようにする俺の目の前で。


「ぐーぐー」


 と静かな寝息を立てながら寝ている中居昂ナカイゴウの椅子を蹴飛ばす。昂はハッと目を覚まして辺りをキョロキョロして、そしてまた眠りにつく。


 そんなどうでもいい時間が俺には大事で。変わらないこの日常がいつまでも続いて欲しいと思っていた。



「勇志ー、さっきの英語の授業俺の椅子蹴りませんでしたか?」

「さあ」


 ふいっと目を逸らし帰り支度を始める。昂はおかしいなと首を傾げ同じく帰り支度を始めた。


「今日も部活?」

「うん。冬休みに大会あるから夜まで練習」

「流石県内強豪バレー部でエースの勇志さんは大忙しですな」


 俺はバレー部で昂はサッカー部。話を聞けば今日部活は無いらしい。


「んで、真っ直ぐ帰るのか?」

「そんなわけないでしょう。せっかくの休みだし」


 ルンルンとスマホをぽちぽちする昂。


「えっと今日は、ああ望ちゃんの日だ」

「昂〜〜〜」

「お、噂をすれば。それじゃまたなー」


 ノゾミチャンらしき女に呼ばれ、昂は去っていった。


 あいつは、病気だな。


 とっかえひっかえ、いつも違う女といる。本人に何が楽しいのか聞いてみても、俺は女の子大好きなだけだし? なんてぶりっ子口調で言われて殺意沸いたの覚えてる。


 恋愛って、俺には分からない。

 分からないし、知りたくないし、したいとも思わない。


 興味なんか、ない。












 と、思っていたのに何だこれ。


 時は流れて冬休み真っ只中。地方大会に出るためバレー部全員で一泊中。夜ご飯を食べてゆっくりしようと思っていたら、一個上の先輩達が押し寄せてきて、なんだかおかしな方向に話が進んでる。


「だーかーらー、勇志君。由梨可愛いと思ってるんでしょ」


 いや、確かにバレー部の中で誰がタイプか聞かれて、由梨さんって言ったよ? すげー嫌だったけど、愛子さんしつこいし。


 ただそれは、愛子はこの通りちょっと怖いし、杏さんはギャルみたいで何となく昂を思い出すし。

 由梨さんは良い意味で素朴で、とにかく話しやすい。バレー部のキャプテン頑張ってるし、初めに顔浮かんだのは間違いなく由梨さんだ。


 でも、それがなんでこう攻められる事になるんだよ。



「由梨はさ、勇志君の事好きなんだよ。勇志君もそう思ってるって事だよね? ね?」



 !!!!!!!!!


 え、由梨さんって、俺の事を?

 いやいやまさか。

 そして勇志君もそう思ってるって、俺が由梨さんを好きだって?


 やめてくれよ。


 恋愛ゴトが入った途端、関係が変わってしまう。

 俺はそれを恐れている。


 由梨さんと一緒に帰ったり、応援し合ったり、そんな事が出来なくなったら、どうするんだよ。



 ふと、上を見上げるとそこには由梨さんの姿があった。暗くて表情は見えない。でも俺も自分の表情を見せたくなくて俯く。



「俺、好きな人いるし」


 そう言えば、由梨さんとの関係はこのままだって本当に思っていた。


 恋愛なんて抜きにして、俺は由梨さんと笑い合っていたいんだ。






 でも。






「あーー……、眠いから、そろそろ寝る」


 そう言った由梨さんの声色と、


「由梨!!!!」


 いつも余裕な愛子さんが慌てて追いかけていく姿と、


 向こうの部屋から微かに聞こえる由梨さんの泣き声を聞いて、





 俺はとんでもない事をしでかした事に気付く。





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