02.



「俺、好きな人いるし」



 突然告げられた死刑宣告。目の前にいるのは目を伏せてこちらをチラリとも見ようとしない私の好きな人。


 周りにいる人が何か、私だったり、部屋の奥で縮こまっている私の好きな人に話しかけているけど何も入ってこない。


 部屋の入り口に立っていた私は、


「あーー……眠いから、そろそろ寝る」


 そう言うのが精一杯だった。




 ことの始まりは今から数時間前。部活の大会1日目が終わり、民宿で夕ご飯を食べ終えた後の事だった。


「由梨」


 名前を呼ばれて振り向くと部活仲間の御堂愛子ミドウアイコがニヤニヤとこちらを見て笑っている。


 ……嫌な予感。


 愛子は基本的にこういう顔をするときは決まって何かを企んでいる時だ。

 小学生の時はプレゼントって言われてランドセルの中に虫を入れられたり、中学生の時はやりたくもない劇の主役に私を推薦したり、黙っていれば美人の部類に入るのにそういうイタズラが過ぎるまさしく顔と性格が一致しない子だ。


「愛子のその顔の時だけは話したくない」

「分かるーー」


 親友の高橋杏タカハシアンズも同じく苦笑いをしている。

 杏も同じように小学生の時から愛子には悩まされてきたからそう言いながら同情の顔で私を見た。


「いやいやいや! 今回は由梨にとっての吉報よ。凄い情報仕入れちゃったもんねー」


 ふふふっと自慢げに顔を近付けてきた。


「勇志君のことだよー。いいの? 聞かなくて」

「…なによ」

「お。流石にすぐにのってきたね」


 野々宮勇志ノノミヤユウシは私の好きな人だ。

歳は一つ下の高校一年生。同じバレー部の後輩で、一年生ながらエースを背負っている。

 バレーをしてる人の中では意外と小柄だが彼曰くまだまだ成長期らしい。ふわふわの少し茶色い髪とクリンとした目が可愛いくて、別の高校でもある程度の知名度と人気があるらしい。


 そんな人だから私のような全ての順位で基本的に真ん中にいます! みたいな人では釣り合うわけがないと、ただただ同じ部活で話が出来るだけで満足している状況である。彼とどうなりたい、なんて考えた事もなかった。


「さっきね、勇志君たちの部屋に行ってたのさ。由梨と杏がコンビニに行ってる間に」

「あ、愛子のヨーグルトもちゃんと買ってきたよー」

 杏が冷蔵庫からヨーグルトを取り出す。

「ありがと。お金後で払うね」

 愛子は受け取りながらそれでさそれでさと話を続ける。

 目をキラキラ輝かせている愛子に、少しだけ期待してゴクリと喉を鳴らす。


「バレー部の女子の中で誰がタイプか選手権をしたのです!」


!!!!!!!


「ほほーーー!」

 何故か私よりも杏が前のめりになっていた。

「愛子がそんな意気揚々と戻ってきたって事は?」

「そうです! 勇志君のタイプはずばり、由梨! 君だ」


!!!!!!!!!!!


 みるみる頬が赤らんできたのが分かる。血流がドクドク波打ち、何故か手汗も止まらない。


「やだー由梨真っ赤」

 可愛い〜なんて頭を撫でてくる杏。愛子も嬉しそうに微笑んでる。

「由梨ちゃん! これはイケるよ! あんたの片思いはここで終止符を打つよ」

「長かったねー。今が一月だから、半年くらい?」

「そうそう。七月からさ三年生の先輩が引退して、いきなりキャプテン任されてプレッシャー感じてる時にね。『由梨さんが頑張ってきた事俺も見てたよ。由梨さんなら出来る』なんて言われたもんだからそりゃー堕ちるよねぇ」


 二人で言いたい放題楽しそうにキャッキャと話してるのを凄く遠くのように感じながら私はひたすら頭の中で整理をする。


 勇志が、私のタイプ?!

 いやいやいや!

 あの、勇志だよ。

 そしてこの、私だよ。

 美人の愛子、スタイル抜群の杏を差し置いて?

 まぁ確かに仲は良かったよ?

 あんまり勇志は言葉数が多いタイプじゃなかったけど私には心開いてくれてた感じはするし。

 え、でもそれはあくまで部活の先輩後輩だからだと思ってたし。

 でもでももしもそれが本当の事で、勇志が私を、す、好きなんだとしたら。

 いやいや、タイプと言われただけです。

 まぁでも、もしかしたら好意もあるかも?

 高校二年生にして、ついに、彼氏が出来るかも?!

 しかもそれがあの勇志?!?!?!


………いや、いかんいかん。自惚れるな。


「どうする? とりあえず勇志君焚き付けて二人きりにさせて、場を整えるか?」

「そうだねー。この二人に任せてたらいつまで経っても始まらなさそうだし」


 おいおいおいおい! 何やらおかしい方向に話が進んでいる気がして私は慌てて言った。


「いや! 大丈夫! 余計な事しなくて」


 とりあえずもう寝るから放っといて、と布団をかぶった。


 そんな告白とかはとりあえず置いといて。今はただただこの余韻に浸りたい。


「由梨ー?」


 二人の声掛けを無視して布団をかぶり続けた。



 勇志が私をタイプだって言ってた。

 ただただそれだけが私は嬉しかったのだ。





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