2024年下半期

7/8 あの犬はもういない



 昨夜、不意に頭をよぎった思い。


 あー。犬飼いたいなー……


 でも今住んでるとこペット不可だし、そもそも一人暮らしじゃあちゃんと世話してやれないし……



   *



 昔、俺が小学・中学生だったころ、近所に住んでる伯母が犬を飼っていた。

 俺は毎日学校帰りに伯母の家に寄って、犬の散歩をしていた。


 ハスキーのような柴犬のような雑種犬。

 俺を見つけると走って寄ってきた。

 よく、お座りの姿勢から片手で手招きの仕草をしてたのは、どういう気持ちだったのか。


 散歩してると、リードを噛んで、グイグイ引っ張ったりしてきた。当時は知らなかったけど、今にして思えば、あれは引っ張り遊びだったんだな。


 横から頭をなでてやると、手が痛いくらいに頭をぐりぐり押し付けてきた。

 顔を舐めてくれた。尻尾をたくさん振ってくれた。


 俺が大学生になって故郷を離れる頃には、その犬は白内障で失明し、散歩も怖がるようになっていた。

 耳も遠くなり、頭もボケてきたらしく、いつも寝てるか、庭の中をウロウロするだけで暮らしてた。


 俺は、実家に帰るたびに必ずその犬に会いに行った。

 犬小屋の前まで行って、寝てる犬の鼻先に手を近づけると、犬は俺に気づいて、のた……のた……と起き上がり、俺の手を舐めてくれた。

 俺が撫でると、昔のように頭を押し付けてきた。年に数回しか会いに来なくなった俺のことを、それでもあの犬は、覚えてくれていたんだろう。


 今はもう、あいつはいない。



   *



 泣いてしまった。

 あいつが生きてる間に、元気だった頃に、もっとたくさん遊べばよかった。もっと一緒に歩けばよかった。


 十数年も前に死んでしまった犬のことを思い出し、号泣して、夜が明けて、何か悲しい夢を見たおぼろげな印象と、枕に染みた涙の跡だけが残る朝。

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