見知らぬ街、見知った色


 今日は仕事がお休みなので、知らない街で阪急電車を降りてみました。


 急にコメダのカツカリーパンが食べたくなったから。

 検索したら、この街にコメダがあるって出てきたから。



 見知らぬ街の、見知らぬ駅の、見知らぬ駅前ロータリー。

 ロータリーの中央には、船をかたどったコンクリートのオブジェ。

 掲示板に貼られているローカル美術館の地味な展覧会告知。


 天気もいい。

 不思議とごきげんな気分です。



   *



 気が向いたので、少し、街をぷらぷらしてみます。


 駅前通りは車通りも少なく、交差点に信号すらない。

 少し暑いくらいな晩春の日差しを、街路樹の枝葉がいいぐあいに防いでくれる。


 オブジェかと思ったロータリーの船は、近づいてみれば、水の枯れた噴水でした。

 剥げ落ちたタイルと、ところどころ砕けたコンクリ、からからに乾いた噴水の底が、ほのかに寂しい。


 なんだかおおらかな……時間がのんびり流れているような、街。



   *



 そんな知らない街ですが、並ぶ看板はよく見知ったものばかり。

 ケンタッキー・フライド・チキン。GEO。ソフトバンク。マクドナルド。アパマンショップにピタットハウス。

 どこにでもあるチェーン店の、見慣れた色の安心感。


 コメダで注文したたっぷりブレンドとカツカリーパンは、いつか食べた、いつも食べてる、期待どおりの味そのままで、僕の胃袋をすっかり満足させてくれました。



 でもなあ。



 なにか物足りない気持ちを引きずり、船の噴水のところに戻ってきました。

 ベンチに腰掛け、そよ風を浴びて、ぼんやり。


 すると……

 噴水を管理してる役所かどこかの人なのだろうか。作業着姿のおじさんがやってきて、僕の目の前で、水の栓を開けてくれました。


 なあんだ。

 一時的に水を抜いてただけだったのか。


 すこしずつ、すこしずつ、満ちていく水。

 水面からの反射光を浴び、激しく揺らめく船の底。

 ちょうど気になってた場所で、ちょうどこんな場面に出くわすなんて、奇跡のような巡り合わせもあるもんだ。



 あ。スズメも水飲みに来た。

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