こんな夜には死ねない

カニカマもどき

1 降り立つ

 どこかで「にゃー」とネコの鳴く声が聞こえた。 


 丑三つ時。

 屋上から見下ろすオフィス街は、恐ろしく静かで。

 まるで、昼間とは別世界のような――あの世へ迷い込んでしまったかのような――そんな錯覚すら感じられる。

 あの世、か。

 正にこれからあの世へ旅立とうという時に、そんな発想をしたのがなんだか可笑しくて、僕は一人で少し笑ってしまった。

 

 よし。そろそろいくか。

 安全柵を超え、中空へ一歩を踏み出そうとした――

 そのとき。


「おやめなさい」

「!?」

 突然聞こえる、何者かの声。

 驚いて辺りを見渡す。が、誰もいない。

 空耳か。

 気を取り直し、再び、一歩を踏み出そうとすると――


「おやめなさいというのに」

「!?」

 空耳ではない。

 今度は、よりはっきりと聞こえた。

「だ、誰だ――」

 何とか口から絞り出した、その言葉に答えるように。


 そいつは、何も無い空から、唐突に現れた。

 白い衣を纏って。

 ゆっくりと、静かに降下しながら。

 深夜だというのに、無遠慮な眩い後光を放ちつつ。

 そうして、屋上に降り立った彼女が言うことには。

「私が誰かって? お答えしましょう。私は――ニセ女神です」


 ニセ女神、とは。

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