第73話 花火 後編

夏期講習模試、社理国英数という段々と自信がなくなる時間割。

異国語で疲弊した後、二次関数を解くべき脳内は既に花火のことでいっぱいだった。

模試が終わり、約束にはまだ早いが、気持ち悪いほど冷やされた塾から逃げる。


「よかったー。暁さ、今日誘ってもらわなかったら夏休み一回も遊ばないところだったよー」

サイゼリアで夕食を食べながら、さらっとそんなことを言った。

「睡眠時間削ってるしさー、夏休みキツくない??」

やめてほしい。

これ以上私の気持ちを掻き乱さないでほしい。無理矢理照らさないでほしい。


暁はずっと私の横にいた。いや、前にいた。

年中から入った私。プレからいた暁。

くりくりのお目々で、世界の見方が特殊で、手先が器用で、些細なことにも大袈裟に笑う暁は既に人気者だった。

おこぼれにありつくように、私は暁の近くにいた。

幼稚園を卒業して、小学校に入学して、気づいたら中学生になっていて、暁との差は比べられないほど広がっていた。

勉強、追いつかない。

運動、私が底辺。

芸術、見たくない。

真面目に戦う気なんて起こらないでしょ?

でも何故か私は暁と同じ塾に通っている。

暁の背中を追っている。

『えっ!?雪も目指してんの!!じゃあ一緒に文化祭行ってみようよっ!!』


メンバーは私、暁、奈恵、青、進。

「暗っ」

花火やっていい所探すの面倒すぎる。市のルールでは手持ち花火ならいくらでもやっていいのに、「〇〇公園は隣がうるさい、△△公園は禁止、□□公園は学校にチクられた」…誰か噂をまとめてくれ。

結局うちの前の街頭が一つもない森の中の遊具が一つもない広場でやることにした。いくら騒いでも文句言われない代わりにいくら叫んでも気づいてもらえない場所である。


星空の下、灯はろうそくと花火だけ。

触ると動く死にかけの蝉と半袖から出た腕を伝う寒さが夏の終わりを醸し出す。

勝負の夏は私にはあっという間だった。

「アハハハハ」

本当によく笑うなぁ。

「アクロバティックにガキみたいなことすんじゃねぇよ」

『その灯に照らされていたいから』そんな理由じゃなくて、もっと対等に、隣にいたい。

勉強の話は全くせずに、花火と時間が消費されていった。

この瞬間だけなんだろうな。

それでもいい。

全部まとめて散って照らして。

私の灯に暁が照らされてほしい。


「今日めっちゃ楽しかった!!ありがとう」


こんな私でも素直に企画してよかったと思ってしまう、そんな笑顔だった。











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