第6話 ダンジョン

 帝都を出て、歩いて三十分ほどのところにそのダンジョンはあった。

 見た目は崖に出来た洞窟って感じだ。だけど中からは独特の魔力を感じる。これがダンジョンなんだ……。


「うっ。ダンジョンのこの感じはやはり慣れないな……」


 ダンジョンの入口に近づくと、カレンさんが顔をしかめる。


「あれ、カレンさんはダンジョン苦手なんですか?」

「ダンジョンは狭くて暗いですからね……。私はそういう所があまり好きじゃないんです」


 意外だ。冒険者の人はダンジョンが得意なものだと思ってた。白金級プラチナの実力を持つカレンさんにも苦手なものがあったんだね。


「冒険者のくせに情けねえ奴だ。白金級プラチナの名が泣くぜ」


 マーカスさんがからかうようにそう言うと、カレンさんが彼をギロリと睨む。するとマーカスさんはバッと目をそらす。

 カレンさんの方が歳下で冒険者歴も短いけど、冒険者のランクは高い。やっぱり純粋な強さはカレンさんの方が上なのかな?


 でもカレンさんにも苦手なものがあるって知って少し安心した。これなら僕も少しは役に立てそうだ。


「安心して下さい。暗かったら僕が魔法で明るくしますから」

「ウィル殿は本当にお優しいですね! 他の冒険者どもとは大違いです!」

「……お前がそんなデレデレしてるとこ、初めて見たぜ」


 僕たちはそんな風に喋りながらダンジョンの中に足を踏み入れる。

 中は暗くてほんのり寒い。僕はすぐに魔法「光源ライト」を使って中を照らす。火の魔法と違ってこれなら酸素を無駄に消費することもない。


「へえ、見た目は普通の洞窟と変わらないんですね」

「油断するなよウィル坊。報告によるとこのダンジョンに出てくるモンスターのランクは低い。だがよそ見してると大怪我するかもしれねえ」

「は、はい。気をつけます」


 マーカスさんに言われて僕は気を引き締める。

 ここはあのダンジョンなんだ。何が起きるか分からない。しっかりしないと。


 そう思いながら歩いていると、突然カレンさんが立ち止まる。

 そして目の前の暗闇をジッと見ながらよく通る声で呟く。


「――――来るぞ」


 すると次の瞬間、暗闇の中から黒い体毛をした狼が四頭現れ、僕たちに襲いかかってきた。

 確かあれはブラックウルフ。闇に潜む狼のモンスターだ。


「先陣は私が切る。お前はフォローしろ」

わーってるよ!」


 カレンさんが剣を抜き放つと、鋭い剣閃が走り瞬く間にブラックウルフたちが倒れていく。

 マーカスさんも斧を片手にブラックウルフたちと戦う。


「……ハッ!」


 カレンさんがそう言いながら剣を振るうと、最後のブラックウルフがどさりと倒れる。時間にして二分程度、鮮やかな勝利だ。


 それにしても僕は見てるだけで終わっちゃった。せっかく連れてきてもらっているんだ、次は活躍しないと。

 そう思っていると、今度は奥から大型のモンスターが現れる。


「グウ……」


 豚の頭をした大型の亜人。

 本でしか見たことないけど、多分あれはオークだ。そんなのもダンジョンにはいるんだ。


「おいおい、B級のモンスターもいるのかよ。聞いてねえぜ」


 マーカスさんは顔をしかめながら言う。

 ここに来るまでに聞いた話だと、ここはCランクまでのモンスターしか出ないはずだった。Bランクのモンスターは確か金等級ゴールドの冒険者が数人で倒せるレベル、つまりかなり強いんだ。


「おら!」


 マーカスさんは斧を振るって攻撃するけど、オークは手にした鉄製の棍棒でそれを防御した。武器の扱いもそこそこ上手そうだ。マーカスさんは苦戦する。


 ……これはチャンスだ。

 僕も少しは役に立つところを見せないと。


「マーカスさん、僕が支援魔法をかけます!」

「おう、頼んだぜウィル坊!」


 僕は集中し、魔法のイメージを固める。

 一人で魔法をやっていた僕は、他人に魔法をかけたことがあまりない。いつもより力を込めてやってみよう。


付与アサイン肉体強化ストレングス!」


 魔法を発動すると、マーカスさんの体が赤いオーラで包まれる。

 多分成功したはずだ。


「よっしゃ、いくぜ!」


 マーカスさんは気合を入れると、再びオークめがけて斧を振るう。すると、


「……へ?」


 ザンッ! というものすごい音と共に、オークの体は真っ二つになってしまう。手にした鉄の棍棒も一緒に、だ。

 マーカスさんは自分がやったと理解できないのか、自分の斧と倒れたオークを交互に見て首を傾げる。


「ど、どうなってんだ?」

「凄いですマーカスさん! あんな風に真っ二つにしちゃうなんて!」

「いやあそれほどでも……って明らかにおかしいのはお前の支援魔法だろうが! なんだあの威力は! あんな支援魔法受けたことも聞いたこともねえぞ!」

「そんな、謙遜しないでくださいよ」

「こっちのセリフだ!」


 マーカスさんはあくまで僕を立ててくれようとしてくれる。

 強面だけど、本当に優しい人だ。僕は出会う人に恵まれている。


「さ、行きましょうか。次は何が出てくるんだろう」

「俺は凄い奴と来ちまったのかもしれねえな……」

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