第三章 皇子、金に困る
第1話 財政難
王城での一件を終えた僕は、再びいつもの日常に戻っていた。
基本的には引きこもって、たまに教え手として働く、悠々自適な生活だ。
一つ気になることがあるとしたら、モニカさんが夜中に会って以来ギルドの方に顔を出していないということだ。
一応ギルド側には本人からしばらく行けないという連絡は来てるみたいだけど、やっぱり気になる。変なことに巻き込まれてないといいけど……。
ただ本人が自ら行かないと言っている以上、こっちから手を出すことも出来ない。僕は気になりながらも行動を起こせないでいた。
あ、そうそうそれ以外にも悩みはあって……。
「と、とうとうお小遣いが尽きちゃった……」
僕はすっからかんになった財布を見ながら呟く。
この前お城に行った時、父上と兄さんからお小遣いをもらうことには成功した。だけど調子に乗って本を買ったりしてたらあっという間になくなってしまった。
まだまだ欲しいものはあるのに……これはまずいぞ。
「森に引きこもってた時はそれほどお金を使わなかったけど……
ルナが淹れてくれた珈琲を飲みながら、僕はため息をつく。
隣に座っているルナはそんな僕のことを見ながらなんだか嬉しそうに微笑んでいる。
「そういえばルナは何か買ったりしないの? お給料は貰ってるよね?」
「茶葉や珈琲豆を買う程度、ですかね。後は香辛料も買ったりしてます」
「え、あれって自分のお金で買ってたの?」
「いただいたお金で買った物がほとんどですが、中には私のお金から出したものもございます」
確かに色んな種類のを買っているなとは思ってた。
まさか自分のお金で買ってたなんて。
「でもそれって僕ももらっちゃってるよね? 自分のお金なんだから自分のために使ったほうがいいよ。僕は気にしないから自分で買った分は自分で消費しなよ」
「私は一人で楽しむよりも、ウィル様と一緒に楽しむほうが好きなのです。ですからどうか遠慮しないで下さい。これ以上に幸せな時間とお金の使い道はないのですから」
「……そう言われちゃったら何も言い返せないよ」
あまりにも真っ直ぐで大きな好意をぶつけられて、僕は照れる。お城でルナをアレックスから守ろうとしてから、更に強い好意を感じるようになった。結果的に場を収めたのはユリウス兄さんだけど、僕の行動も無駄じゃなかったみたいだ。
ルナがこういう風に思ってくれてるなら、これ以上何かを言うのは野暮だね。
「そうですね……お金にお困りなのでしたら、何か他にお仕事を探されてはどうでしょうか? 帝都には仕事が溢れております。ウィル様は教えるのがお上手ですので、家庭教師などもいいかと。その日払いしてくれるところもあるでしょう」
「家庭教師、かあ。確かにそれなら出来るかもね」
教え手として活動してるから、少しだけそれの自信は持てる。
ルナの提案はかなりいいかもしれない。
「これは不本意ですが、あの赤い髪の娘ならいくら積んでもウィル様を雇おうとすると思いますよ」
「赤い髪の娘ってエマのこと? 確かにあの子はそうなるかもね……」
エマの僕に向ける謎の感情は、かなり大きい。
みんながいる授業中でもめっちゃ絡んでくるんだから、一対一になったら多分歯止めが利かなそうだ。
「確かにエマはいくらでも出してくれそうだけど……怖いからやめておこうかな……」
「そうですね。それが賢明だと思います」
なぜか頭の中にエマに縛られて監禁される自分のビジョンが見えてしまったので、それはやめる。もっとこう、普通の人とやりたい。
「じゃあちょっといいお仕事がないか見てくるよ」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
僕はカップの底に残っていた珈琲をぐっと飲み干すと、家から飛び出すのだった。
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